第14話:母親と結婚&貴族化RTA・中篇(望んでない!)




「『クズ骨董品売りつけ作戦』じゃとぉ?」


「はぁい!」



 聞き返すモルガンに、クルアハは堂々と頷く。



「ふぅむ。名前からおよそ察しが付くが、詳しく教えよ」


「了解です!」



 クルアハは自信満々に、作戦の概要を語る。



「ふっふっふ。骨董商をしていると、クズ商品を仕入れちゃうこともたびたびありましてねぇ~。そうして溜まったクズの山を、全部アズ・ラエルに『太古のお宝』と称して売りつけてやるんですよ!」


「ほぉ、それは少々、シンプルすぎるような……いや……!」



 案外ありなんじゃないかとモルガンは考える。その心象を読み取り、クルアハも「でしょう?」と続けた。



「たしかにアズ・ラエルは、智謀に優れる人物のようで!(※勘違い) が、しかぁし! 知能と骨董知識は別でしょう? 後者には専門的な勉強はもちろん、生まれ持った目利きのセンスも必要になる訳で」


「たしかにのぉ……!」



 どんなに絵図を読み解く能力があろうが、観察眼があるとは限らない。今回はそこを突こうというわけだ。



「ふふ、考えてみてくださいよぉモルガン様。どんなにアズ・ラエルが天才だろうが(※勘違い)、やつはちーっちゃな『子供』なのですよ!? それも田舎の出身者だと聞きます! 骨董品の目利きなどできるわけがない!」


「うむ、うむ……!」


「それに今のアズ・ラエルは成功者。接する人間のランクも上がる。高級レストランのオーナーなんかを招いて会談する際には、相応の部屋を整えないといけないでしょう? つまり、今骨董品を売り込めば、アズ・ラエルは商談に応じてくれる可能性大なわけですよ!」


「おー!」



 その隙を突き、ガラクタを売って大損失を与えてやろうという策である。

 意外と理にかなった一手に、モルガンは「いけそうじゃな!」と太鼓判を押した。



「ひっひっひっ。あんな幼げなショタガキに、デカい顔されるのはイヤですからねぇ。『お姉ちゃんやめて!』と泣くほど搾り取ってやりますよぉ~!」


「うむ、任せるのじゃ~!」




 こうして『ムサシノ老舗商會』の第二撃、『ガラクタ販売作戦』が幕を開けた。

 アズ・ラエルの下を訪れた謎のフード商人は、悪魔少女のクルアハ自身なのだった。


 ――時間は現在に戻る。(無知婚約をかました)アズは、快く訪問販売者クルアハのことを出迎えた。その無防備な様に、クルアハは内心ニチャァと嗤う。



「さぁ~どうですかぁ社長さん!? これらなるは、今は亡き『アンリマヨ聖国』跡地から出土した、古き国宝の品々! 社長さんだけに特別に売っちゃいますよ~!? 価格は〆て一億ディナール!」



 そう言ってみせたのは、単に古ぼけただけの壺などだ。

 古いことだけは確かだが、どうせ素人の作品だろう。明らかに怪しい。簡単に買ってくれるわけがない。だがクルアハは若き女店主として、全力で売らんとペラを回す。



「買います」


「おぉっと高いとお思いですね!? しかぁし! 『アンリマヨ聖国』といえばッ、隣国『スパモン聖国』の跡地! 今から五百年前、『アンリマヨ教』の聖地とされていたかの国は、今や世界の覇権を握る『スパゲッティモンスター教』に、国も宗教も破壊されてしまったわけですよ! いわば崩壊後の世界で初めて起きた、宗教戦争! その戦火によって失われた国宝の数々がここに! 高くなるのは当然というわけで!」


「買います」


「あぁわかっています怪しいですよね! しかしッ、アズ社長が密かに懇意にされているというメイヴさんは今や絶滅寸前の『アンリマヨ教』信者で、そんな彼女に送るためにも――えッ!?」


「だから買いますよ」


「ええええええええええ!?」



 ――クルアハは素で驚愕した。まさか怪しまれるどころか、値引き交渉すらなしかと。百ディナールでおやつ買うわけじゃないんだぞ、一億ディナールだぞッ、と、思わず叫びたくなってしまう。



「よ、よよ、よろしいので……!?」


「ええ、まぁ。えーと……ほら、こちらのメイヴさんにプレゼントしたかったので」



 そう話を振られたのは、アズ・ラエルの三歩後ろに控えていた銀髪の美女・メイヴだ。彼女もまた、「えッ、えええ!?」と素っ頓狂な声を上げた。それから口を抑え、包帯の巻かれた目元を潤ませる。



「しゃ、社長様ッ、まさか今日という日の記念のために……!?」


「記念……? まぁ、はい、そういうことで」


「社長様ァーーーーーーーッ!」


 二人の女性を震撼させるアズ・ラエル。片や畏怖させ、片や感動させ、共に〝この男の子、ただものではない……!〟という意識を共通させる。



「あッ、あはははは! そーですかそーですかッ、お買い上げ有難うございまぁす!」



 が、ともかくクルアハにとっては、『ガラクタ売りつけて信用失わせよう作戦』は大成功である。

 規格外っぷりに震えさせられたが、騙してやったことには変わりない。やはりアズ・ラエルは目利きの出来ないお子様だと、ほくそ笑む。



「いい買い物が出来ました。ちょうど、会社のお金はメイヴさんの屋敷で預かってもらっているんです。今持ってきますね」


「はぁいッ、こちらこそいい取引ができましたぁ~! ぷふっ……!」



 完全に詐欺成功と思い込んでいるクルアハ。ああ、騙されたと知った時のアズの顔を想像すると、思わず涎が出そうになってしまう。



「じゃ、毎度ありでしたぁ~~~! まぁ二度目なんてないでしょうが……ぷぷーッ!」



 こうして一億もの金を奪い取った彼女は、意気揚々と秘密基地へと帰還するのだった。

 


 ――なお。




「フッ……フフッ……!(うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお詐欺られ成功ォオオオオオーーーーーーッッッ! 絶対にガラクタな壺を買い占めてやったぜェ~~~~~~!)」



 ハメてやったと喜ぶクルアハに対し、アズ・ラエルもまた『ハマってやった!』と歓喜していた!


 彼の中身は大人である。観察眼などない無能だが、それでも明らかに怪しいことくらいはわかっていた。これは絶対に詐欺だと。


 そこで、『アンリマヨ教』の者たちから信用を落とすためにも、あえて彼は詐欺に引っかかったのだ。結果、



「フーーーーーッフッフッフッ!(『ガラクタ買わされて信用失おう作戦』成功ッッッ! よしッ、よしッ! これで社長の座を引退不可避だぁッ! 分相応な生活が俺をまってるぜ~~~~!)」



 見事に彼は、騙され切ったわけである……!


 かくして、悪魔少女クルアハと少年社長アズは嗤い合う。明らかに怪しい商談に対し、引っ掛かり引っ掛けてくれた相手のことを。



「(騙されてくれてありがとう! これであんたは、没落不可避ィーーーーッ!)」


「(騙してくれてありがとう! これで俺は、没落不可避ィーーーーッ!)」



 ……もう二人は付き合ったほうがいいのかもしれない。




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