第13話:母親と結婚&貴族化RTA・次篇(望んでない!)
「じゃあメイヴさん、ちょっと訪問販売の相手してきますね~」
「え、ええ。……いってらっしゃいませ、あなた……♥」
「あなた、ですか?」
「はい。だってわたくしたち、夫婦に――あッ。そういえばまだ社長様は子供……法的には結婚できない年齢でしたね……! で、では、正式な発表は、それからということで……♥」
「?」
――かくして、すっとぼけているうちに経産婦と結ばれたアズ・ラエル……!
罪な男である。まぁメイヴのほうは、長年独りで組織を支えてきた苦悩より解放され、また冤罪とはいえ犯罪者扱いである自分を受け入れてくれた喜びで、感涙さえしているのだが。今、彼女は幸せの絶頂にあった。
「ま、また襲われることがないように、この屋敷で寝起きしましょうね、アズ社長! 将来の生活の予行演習のためにも……♥」
「(予行演習? それはよくわからんが、襲撃は二度と御免だからな)ええ、こちらからお願いしようと思っていたところです。よろしくお願いしますね、メイヴさん」
「はひ~♥」
アズの言葉にメイヴは至上の喜びに包まわれる。
……無能すぎるゆえに、『没落したい』『ひっそり生きたい』という策さえ失敗する白痴の王。
結果、『大成功する』『派手に誰かを救ってしまう』という謎現象を巻き起こしているのであった。
「わたくし……幼い頃に母に捨てられ、本物の家族愛を知らないのです。こんなわたくしでも、よき妻になれるでしょうか……?」
「(結婚の予定が? てかなぜ俺に聞く?)ええ、大丈夫です。フーリンさんやチンシスたちに接するあなたは、まさに『理想の母』でした。あなたは最高に素敵な女性ですよ」
「ッ~~~~~!?♥」
……なぜかヒロインの母エンドを爆速で迎えたアズ・ラエル。
このまま無知無双で子作りにすら突入しそうな――その数時間前。地方都市『ムサシノ』地下では、闇が轟いていた。
◆ ◇ ◆
「ふざけるではないわああああああッ! チクショウがーーーーーー!」
秘密の集会場にて――『ムサシノ老舗商會』の長、ロリ巨乳エルフのモルガンはブチ切れていた。
「クソがァァァァ~~~~~ネヴァンッ! おぬしの偽マヨ作戦が失敗したせいでッ、『マヨ・ラエル』の勢いは日々増しているではないかぁ~!」
「あひーッ!?」
べしぃぃいいんッという音が地下に響く。
陰気そうな肉厚女、『食品市場』の長・ネヴァンを亀甲縛りにして吊し上げ、モルガンは分厚いケツをビシバシと叩いていた。
そう。新進気鋭の会社がとにかく大嫌いなモルガンは、仕掛けた策を(偶然で)完膚なきまでに打ち破られたことで、ずっと不機嫌状態にあった。
「えぇぇぇぇぇえんッ! モ、モルガン様だって、わわわたしの『偽マヨ作戦』に賛同したじゃないですかぁ~!」
「えぇい黙れッ! 目上の者に口答えする者がいるか!」
「ひぃッ、老害だ!?」
「よいかぁ!? 貴様には気合が足らんのじゃ! 仕事のためなら何でも犠牲にする覚悟がないのじゃァッ! たとえば一流のキャリアウーマンたるわらわは、四十年ほど前についムラムラして単為出産するも、生まれた子はウシ獣人で『
「ええええ~~~~~んッ、仕事に明け暮れて子供を犠牲にしたエピソードを美談のごとく語ってくるよぉ~~~! 古い時代のガン細胞だぁ~!」
「黙れシャバガキ肉団子が!」
しばらく続く不毛な折檻。やがて多少の冷静さを取り戻したモルガンは、チッと舌打ちをしつつ宙を睨んだ。
「アズ、ラエルぅ……」
思い浮かべるのは、恐るべき怨敵の無駄に可愛らしい顔だ。
「わらわの策を破った男など、初めてなのじゃ……気に入らんのじゃ……! あのガキは絶対に没落させねば! かといって、『没落しろ』と言ってするわけでもなし」
※なお実際は従う模様。全部投げ出したがってます。
「さて、どうやってあのガキを没落させてやろうか……」
爪を噛みつつ、次なる姦計を思案するモルガン。
その時だ。闇の向こうより、「ハイハ~イ!」と場違いに明るい声が響いた。
「む、貴様は」
「あーしに任せてくださいよぉモルガン様☆ この骨董商店の長、〝古籙の妖篆〟クルアハちゃんがやったげるから!」
堂々と名乗り出たのは、コウモリの羽根を腰から生やしたストロベリーブロンドの少女――『
「あーしも男の子クン風情にデカい顔されてんのは、気に食わないですからねぇ~。そこの吊るされた陰キャ肉みたいな失敗はしないから、まぁ期待してくださいって!」
「陰キャ肉ぅっ!?」
ネヴァンをディスりつつ、ニッと勝気に八重歯を見せるクルアハ。
商會内でもひときわ若い彼女に、モルガンは「ほほう」と呟く。
「ふむ。生意気なガキは嫌いじゃが、嫌いなオスガキをこれ以上のさばらせんためにも、話を聞いてやろう。で、どうする気じゃ、クルアハよ?」
「手は二つありま~す!」
指を二本立て、クルアハは語る。
「まず一つ。アズ・ラエルが
「ほう」
「ふっふっふ、文屋のブリギットさんから聞きましたよぉ。アズ・ラエルが『アンリマヨ教』の連中を社員にしているのは、知る人ぞ知る話! そのうえ昨夜、【
「それで?」
「それでって……一時期起きてた貧民街の、連続誘拐事件! メイヴはその主犯格とされてるんでしょう!? 孤児ばかりを狙った事件ゆえ、被害届は出てませんが、それでもこれは重大な犯罪! そんな悪人の女と繋がりがあるって騒いだら、アズ・ラエルの株は大暴落して……!」
「わかってないのぉ~、メスガキが」
溜息を吐くモルガン。それにクルアハはむっとした。
「はぁ? どーいうことですぅ?」
「おぬしの言葉を借りるなら、『知る人ぞ知る話』といったところか。例の誘拐事件の真犯人は、メイヴではなく――この地の領主じゃ」
「えぇッ!?」
驚愕するクルアハ。目を剥く彼女に、商會の女王は続ける。
「人の口に戸は立てられん。ロリコン女領主は子供を誘拐するために、当然ながら複数の手下を使っておった。そいつらから漏れた話じゃよ」
「え……じゃあ、メイヴは冤罪をかけられて……?」
「そう。それどころか、誘拐を妨害していたとされる。それゆえに領主に疎まれ、罪を被せられたわけじゃが……閑話休題。わらわの言いたいことがわかるか、クルアハよ?」
「っ」
しばらく思考し、クルアハは答える。
「この地の領主は、誘拐事件に関わることで、あまり騒がれたくない……?」
「正解じゃ。なにせ真犯人なんじゃからのぉ」
所詮は貧民街の少女を狙っただけの、小さな
だがしかし。今や国中で話題になりつつある『マヨネーズ』の開発者が、誘拐事件の犯人とされる人物と、関係を持っているとされれば。
国中に注目される、大騒動になれば――。
「第三者……それどころか王宮が、アズ・ラエルとメイヴを取り調べるじゃろう。その過程で事件を再調査するかもしれん。そうなれば、どうなる?」
「この地の領主が、真犯人とわかっちゃう……!」
「だとすれば。無駄に騒がんとするおぬしに対し、領主はどうする?」
「あ、暗殺者とか、送ってくるかもしれない……!?」
「正解じゃ」
ゾォッ、と。クルアハは顔を青くした。もしも独断で動いていたら、どうなっていたか。
「あわわわわわ……ッ! ひ、一つ目の手は、なしで!」
「はは、賢明じゃのぉ。それでよい。……しかし、恐るべきはアズ・ラエルよ。これもやつの『策』なのじゃよ」
「えッ!?」
モルガンは続ける。「流石は我が宿敵よ」と、戦慄を声音に滲ませながら。
「やり手のアズ・ラエルのことじゃ……おそらく、おぬしのように考えの浅い敵を、最初から嵌めるつもりだったんじゃよ!」
「えぇっ!? あーし、嵌められかけたんです!?」
「そうに違いない! やつはそのためにメイヴと関係を持ったのじゃ! 領主を利用して、敵を抹殺させるためになぁ!」
「なっ、なんという鬼畜策士!? 貴族まで道具にするなんて!」
※なお一切そんなことはない模様。
あまりにもカスな真相。が、それに気付かずモルガンは、脳内のアズ像を巨大化させる。
「さらに! メイヴが実際には犯罪者でないとはいえ、『アンリマヨ教』の暴力性と戦闘力は本物! 高級馬車を奪いおったし、あいつらぶっちゃけ実質
「ひえええええ!?」
ああ、恐ろしきアズ・ラエル――と戦慄する二人だが、しかし。全て完全に勘違いである……!
アズ・ラエルが『アンリマヨ教』と関係を持ったのは本当にたまたまだし、極道とわかったら逃げ出したい気で満々だった。
が、無能でヘタレゆえに関係を切るのに失敗し、ずるずると今の状態に落ち着いてしまったのだった。領主を利用する手も、まっっったく考えてない模様。
だが、モルガンとクルアハは気付かない。二人は真面目にアズ・ラエルを恐れ、闘争心を燃やしだした。
「ふっ……ふふふふふ……! なるほど。怖すぎて逆に、燃えてきましたねぇ……!」
「ほほうッ。おぬしメスガキのくせに、『敵が強大であればあるほどいい』という気概がわかるか!?」
「ええ。大物を打ち破れば、それだけ成長できるってことですから!」
実際は小物なのだが。
「よぉし、決めました! 二つ目の作戦で、アズ・ラエルを嵌めてやりますよ!」
豊かな胸を自信満々に張り、悪魔少女は宣言する。
「名付けて、『クズ骨董品売りつけ作戦』です!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます