第12話:母親と結婚&貴族化RTA・序篇(望んでない!)
『んほおおおおおおお明太子マヨうまひぃいいいーーーッ! 焼くとさらに旨味が増すぞぉ~~~!?』
『からしマヨかけたソーセージうッッッまッ! 今までこの味求めてたァッ!」
『アズくぅううんッ! 新商品もぜひ大量注文契約させてぇええええ~~~~~!』
『基本のマヨもおいひー! やっぱり本家が一番ッ!』
どうしてこうなった……。
新商品が生まれてから一週間。マヨ企業『マヨ・ラエル』の勢いはさらにえらいことになっていた。
期せずして、ちょうど初期の客たちがバリエーションを求めていた時期に、ぴったりと新商品を出してしまったわけである。当然、明太子マヨとからしマヨも各地のレストランで大量注文。偽マヨネーズを撃退したエピソードも話題となり、俺の会社は大躍進を続けていた。
ああ、もはや会社を潰すことは困難を極める。ならばこそ、せめて引退して誰かに社長を変わってもらいたいのだが――。
『流石はアズ・ラエル社長! 経営の天才だぁ!』
と、世間は俺を盛大に褒めるわけで……!
「――全部ッ、勘違いだから! みんな俺を信用しないでくれ~~~~~~!」
そんな叫びと共に、俺は目を覚ました!
「はっ……ここは?」
普段使っている安宿ではない。知らない部屋に俺はいた。
古めかしくも、それなりに大きな屋敷の一室のようだ。
その窓際のベッドに、俺は寝かされていた。
「すんすん……なんか、ミルクみたいな甘い匂いがするような……?」
『今の物音は……っ、目を覚まされたのですね!?』
部屋の外から誰かの声と、こつこつと杖を突きながら駆け寄る音が。
一瞬緊張するも、勢いよく部屋に入ってきたのは、白装束に銀髪の盲目美人シスター・メイヴさんだった。
フーリンさんの母親で、チンピラシスターたちを束ねる
「ご無事ですか、社長様!? 嫌な寝汗とか、なにか毒の症状などは……!」
俺にもたれかかり、ぺたぺたと身体に触れてくるメイヴさん。うおっ、美人顔が近い! 身体やわらかいッ!
「ちょっ、よくわからないですけど大丈夫ですから!?」
「そ、そうですか。よかった……本当に寝ていただけなのですね。おはようございます、社長様。流石です」
流石です?
「え、ええ、おはようございます、メイヴさん。えぇと、俺は安宿で寝ていたはずじゃ……?」
「ここはわたくしの屋敷です。社長様、昨晩のことを覚えておいでですか?」
「昨晩? ……あッ!」
思い出した!
「そういえば寝てる最中に、盗賊団が押し入ったんでしたっけ……」
そう。前に貧困に喘いだ強盗に襲われることがあったが、今回は違う。武装したガチ悪人の盗賊が襲ってきたのだ。
マジでビビッたよ。『おい、起きろ』と声をかけられたと思ったら、黒ずくめでナイフ持ったお姉さんたちがいるもんだからさぁ。たしか、フードに目のマークがあったような。
「あいつらは一体?」
「彼女たちの名は【
ひええええええ!? そ、そんなヤバい奴らに俺襲われたの!? マヨネーズ作ったせいで!? 死因:マヨネーズになりかけたの!?
「幸い、屋根裏に潜ませていたフーリンとクランが撃退し、奴らは逃げて行ったそうですが……」
「潜ませてたんですか!?」
「ええ。……うふふ、社長様ってば本当は気付いていたのでしょう? 娘のフーリン曰く、『社長、武装した【
それ恐怖で気絶しただけだよッッッ!
「万が一、毒の刃でも掠って昏倒した可能性も考えてましたが……杞憂でしたね。流石は社長様の胆力です」
「いやいや、胆力って。俺なんて気弱なザコ男子ですよ?」
「御冗談を。もはや伝説になっていますよ? 偽マヨが出回った際、社長様はまったく焦らず、むしろ社員たちを育てる好機だと、彼女たちに解決を任せたそうで。その結果、明太子マヨやからしマヨが生まれ、会社を発展させたのですよね? なんて手腕……ッ!」
って全部勘違いだから!!! 偶然だから!
「社長様はまさに、アンリマヨ神の遣わした救世主で……!」
「あッ、あのっ、メイヴさん!」
ベッドの上で、俺は彼女を肩を強く抱いた! このままじゃいけないと!
「ひゃいっ!? ア、アズ社長!?」
「メイヴさんに大事なお話があります!」
「えぇぇえッ!?」
なぜか顔を赤くするメイブさん。それから「わっ、わたくしには娘が」とか「まだ小さな社長様が、こんな経産婦のおばさんを相手に、そんなっ……!」とか、ごにょごにょ言い始めた。なんだ?
「い、いけませんっ。わたくしは年増で、罪深い女です……! 十五年前に、『あの子』を捨て――」
「? よくわからないですけど、経営に関わる話です」
「ふぇっ!? あっ、あぁそっち!?」
他にどっちがあるのだろうか? ともかく、「わたくしてっきり……」と何やら小さくなるメイヴさんに、俺は告白する。
「実は俺は――経営の才能なんて、まっったくないんです! 全部たまたま、上手くいっているだけなんです!」
「! そ、そんな、社長様……!?」
「こんな俺です。いずれ大失敗するでしょう。そうなって会社が潰れたらチンシスたちが大変だ。だから今のうちに引退し、社長の交代を――!」
そう訴える俺だが、しかし。
「なっ――なんて、素晴らしい人なのでしょうかッ! あなたこそ真の経営者です!」
ファッ!?
「若くして大成功を為した社長様! その成果を思えば、普通は慢心してしまうことでしょうッ! 自分は特別なんだと驕っても仕方ありません!」
「ちょっ、メイヴさん!?」
「ですが社長様はッ、『失敗したら大変だ』『誰かに代わってもらいたい』という、凡庸な不安を持ち続けている! それは逆に言えば、成功しても一切驕らずッ、新進気鋭な緊張感を維持し続けているということ! 初志を忘れないアズ社長こそ、まさに本当の天才でございますッ! というわけでこれからも社長業お願いします!」
「って、えええええええええーーーーーーー!?」
お、俺の信用が高すぎて、本心告白しても通じないんだけどぉーーーー!?
「うふふ……社長様が吐露してくださった不安は、このメイヴだけの秘密にしておきますからね……。また吐き出したい気持ちが溜まったら、どうかわたくしを頼ってください。……あッ、若い情熱だけはそのっ、少々困ってしまいますが……!」
「はは、そうすね……溜まったらなんでもメイヴさんに吐き出します……」
「!?♥」
よくわからんことを言ってるメイヴさんに、適当に答える。
はぁ~~ダメだったか。本気で社長を引退したかったのになぁ。これまで偶然で溜めてきた俺の信用が邪魔しやがる。
「しゃッ、社長様ッ、そんなことを言われたらわたくし、胸が熱くなって……あぁっ母乳が!?」
「うーーーーーん、どうにか信用を失うには……」
なにやらワタワタしているメイヴさんを無視し、考える。俺は無能なので、周囲の声が入らないくらい深く思考しないと、いいアイデアが出ないのだ。
「と、とりあえずコップで受け止めて……うぅ、ごめんなさい社長様……わたくしってばはしたない姿を……!」
「俺のことは気にせずどうぞ」
「えッ!?」
過集中のなか思案を続ける。
今の地位から降りるには、みんなから失望されないといけない。それにはどうすればいいか?
①:街中で裸踊りする。
――却下だ。俺の目的は、あくまで没落後、分相応な慎ましい生活を送ることだ。ゆえに後に引くような変態行為はできない。
②:セクハラして訴えられる。
――これも却下だ。良心が咎めるし、それになにより、今の俺の好感度具合なら普通に受け入れられちゃう気がする……。特にフーリンさんだな。彼女はウシ天人。母乳が出て、それを異性に飲んでもらうと婚約成立っていう本能的文化を持っている。それゆえか、俺にしれっと『ミルク飲む?』とかコップを渡してきたり……。
「あ、あの、社長様、これ飲みます……? なーんてっ」
「あぁどうも、いただきます」
「!?!?♥」
思考に過集中しながら、メイヴさんが差し出してくれたミルクを飲む。なんの乳か知らんけどこのミルク濃くてうめぇな。寝起きの頭がシャキっとするわ。
「毎朝飲みたいな、これ」
「はぅあああああああ~~~~~!?!?!?!?♥♥♥」
おっと発案に戻らねば。
ん~~、痴態を晒す①と犯罪する②がダメとなると……。
③:会社のお金をなにかに使って、大失敗する。
――やはりこれかぁ。チンシスたちを養う手前、意図して会社にダメージを与えるのは気が引けたが、俺みたいな無能が居座っていたらいつ大大ダメージが発生してもおかしくないからな。
よぉしっ。ここは③の作戦で、みんなに失望してもらうぞぉ!
「しゃ、社長様!? わかっておいでなのですかっ!? こ、このメイヴと、夫婦になってしまうということなのですよ!? わたくし、世間的には『人攫いのマフィア』とされている犯罪者で、こんな日向を歩けない女を娶ったら、アズ社長の立場が……!」
「俺は決めたぞ! この選択を貫き通すッ! 誰が何と言おうともッッッ!」
「んひゅー!?!?!?!?♥」
よしよし、俺はもう流されないぞ。絶対になにかやらかして、引退するんだ!
「見ててくれ……田舎の義姉さんに、十五年前に俺を産んでくれた肉親よ……! 俺は男らしく散って見せるッ!」
「うぅぅぅうっ……見ててね、可愛い娘のフーリンに、十五年前の逃亡中、田舎に置いていくしかなかったボウヤ……! わたくし、アズ社長の女になります!」
こうして、俺は次なる方針を決定したのだった。
気付けばメイヴさんが隣で泣いていたが、なんか幸福オーラ全開なのでよしとしよう。
さぁて、そうと決めたら何に会社のお金を使おうかな~~~と。
そう考えていた、そのとき。
「――失礼しまぁす! 通りがかりの骨董屋でぇす! アズ社長がいらっしゃると聞き、販売しに来ました~!」
不意に、屋敷の外から声がしてきた。
寝室から顔をのぞかせれば、そこには大量の古いツボを荷台に詰めた、フードの女性がいて……!
「あ、明らかに怪しい骨董屋だ……!」
「え!? ……ちっ、やはり不自然だったか。ここは一旦、撤退を……」
「それだああああああーーーッ! お姉さんッ、どうか品物を全部見せてくださぁい!」
「ええええ!?」
俺は、没落の一手を思い付いたのだった――!
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【Tips】
メイヴ:38歳。ヒロインの母親。色素が薄い。
15年前に誰かを捨てたらしい。
このたびアズ・ラエルとの結婚が決定♡(ハッピー^^)
アズ・ラエル:15歳。転生者。色素が薄い。
15年前に捨てられていたらしい。
このたびメイヴとの結婚が決まった♡(圧倒的無意識ッッッ!)
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