第5話:反社入りRTA
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――西暦202X年、世界は核の炎に飲まれた!
大地は灼け、海は汚染され、文明は崩壊した。さらに有害な放射能は動植物たちを異常進化に導き、『魔獣』と呼ばれる凶悪種が誕生。この世はまさに地獄と化した。
が、しかし。人類は絶滅しなかった――!
核戦争末期。日本・埼玉の地下に結成された
それは、放射能への強い耐性と、犬・蛇・鮫などの動物の強力な身体機能を持つ上、可憐な美貌と鮮やかな毛色まで持ち合わせ、
研究途中に地下を熱する核の炎。さらには魔獣化したオオアリクイにより研究者たちは掘り出されて全滅するも、わずかに生み出されていた被検体たちは、戦後の世界を生き延びた。
襲い来る魔獣を撥ね退け、変動した苛烈な環境に耐え、文明の復興を目指さんとしていた。
だが。やがて美しき天人らは問題に気付く。
歪なる遺伝子強化の結果か――交配しても、男性が極端に生まれづらくなっていたのだ。
男女の出生比たるや『1:100』。しかも男児は遺伝子強化の影響を受けづらく、ほとんどが貧弱に生まれて早逝してしまう始末。
繁殖だけなら単為出産機能で出来るも、それでもやっぱり男が欲しい!
そうして、〝男〟を巡る紛争が勃発した。
天女たちは男性を得るべく戦い、分かたれ、技術と知識を損耗させながら崩壊後の日本各地に分散。それぞれのリーダーが里を興し、国へと成長させていったのだった。
それから千年後――新西暦1025年、現在。
多くの内紛と魔獣との激闘を経て、ある程度の領地と平穏を取り戻した人類。今や旧日本各所にて、女王たちが文明復興に着手していた。だがしかし。失われた旧世界の知恵は二度と戻らず、また男女比の問題は未だに解決しておらず、発散しきれぬ女性たちの性欲は、時に要らぬ闘争心に代わり、無為な大戦争に発展することも珍しくはなかった。
この過ちがなくなることはないだろう。生態的に歪な、【男女比1:100】の世界である限り。
迷える
【著/リリス・ガンマ 不花域書房刊『頭よわよわウシ女(笑)でもわかる新西暦の歴史』より】
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◆ ◇ ◆
「マジか……。この世界、地球と地続きなのかよ」
本を読んで唖然とした。ここ、異世界じゃないのかよと。
じゃあ俺は異世界転生ではなく、輪廻転生したってことなのだろうか?
俺が極道にブッ殺されてから、核戦争が始まった……?
「いやでも、日本に核が降るような兆しはなかったしなぁ。となると、平行世界転生……? 機会があれば調べてみたいが……」
「――アズ社長。だ~~れだ……?♥」
「わっ!」
地方都市ムサシノの本屋にて。この世界の歴史を調べていると、不意に後ろから寄りかかられた。俺の矮躯が肉にすっぽり覆われた上、頭に顎をのしっ……と乗せられる。
……誰かとは問うまい。無感情な冷めた声と、それに反して女児みたいな仕草とミルクっぽい匂いから、丸わかりだ。
「フーリンさん、重いですよ……」
「おお」
おおじゃないが。
「大正解。すごい、すごい」
彼女が離れたことでようやく振り向けるようになる。
後ろを見れば、金髪ウシシスターなフーリンさんが無表情でダブルピースしていた。
「顔みてないのに、わたしとわかった。社長、かしこい」
いやいや。俺がかしこいってのは勘違いで、単純にフーリンさんが――や、何も言うまい。
「というわけで、わたしでした。うれしい?」
「ええ、嬉しいですよ」
「やった」
小さくガッツポーズするフーリンさん。かわいい。
「社長。待ち合わせ場所からあんまり離れてちゃ、め。社長がさらわれちゃう」
「あ、たしかに。不用意でしたね。探しちゃいました?」
「ううん。幼さの中にも確かに感じる男性ホルモンの匂いでわかった」
「なんですかそれ……」
そう。実は今日は店を休み、この子と広場で会う約束をしていた。
別にデートってわけじゃない。今やそういう関係になるのは色々勘弁だ。
……だってこの子、実は
で、今日はボスを務めている〝
「それにしても早いですね。俺、遅刻したらフーリンさんに悪いと思って(てかマフィアの娘が怖いので)、一時間前に宿を出たのですが……」
「ん、社長優しい。卵子でた」
「その報告はいらないですよ~~?」
真顔で何言ってんだこの子は……。
「わたしも社長に会いたくて、早く家を出た。一緒にいこ~……♥」
意気揚々と手を握られる。
……うぅぅぅん。マフィアの娘って点はともかく、フーリンさん自体は純粋ないい子だ。多少勘違いもあるが、俺を慕ってくれているのも嬉しい。
あんまりビビりすぎるのも悪いかもなぁ。マフィアといっても、いいマフィアかもだしな。そんなマフィアあるのか知らんが。
「わかりました。案内お願いします」
「うんっ。手に入れたばかりの馬車停めてるから、乗って乗って」
ほほう、馬車か。そりゃ優雅でいいな。しかし母親の治療費に苦慮してるとか言ってたような。
「余裕が出てきて買った感じです?」
「ううん。もらった」
……もらった?
「店に忍び込んで社長のマヨレシピを〝
「ひえええええーーー!?」
う、裏で暗闘起こしてたァーーーッ!? いいマフィアなんてやっぱりなかった!
「そそ、そんなことがあったんですか……!?」
「そう。社長の平和を、裏社会からこっそり守ってた……!」
ふふん、とボリューミーな胸を張るフーリンさん。
っていやいやいやいや。マヨなんて卵と酢と脂と塩あれば簡単にできるぞ?
もう充分に稼いだからテキトーにレシピ売ろうと思ってたのに。裏社会で火種にするようなもんじゃないぞオイ……!?
「じゃ、じゃあフーリンさん。もしや、俺が金持ちのザコ男子なのに、特にトラブルもなく過ごせていたのは、全部……?」
「うん♥ 〝
彼女はわずかに口角を上げると、俺をそっと抱き締めた。
「実は社長は、〝
「ひえええええええ~~~……!」
たしかに、俺は泣いた。
だけど感動の涙なわけがない。俺が、いつの間にかッ、極道に取り込まれてることにだよチクショウッ!
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