第6話:暴力集団ゲットRTA・前編(望んでない!)


「――お嬢に社長。近場までつきましたっすよ。屋敷は奥まったところにありますので、ここからは徒歩でお願いするっす」



 御者のクランさんに呼ばれ、俺は内心死にそうな気分で顔を上げた。

 窓の外を覗けば、ずいぶんと薄暗いし周囲の建物がボロい。もしや貧民区のあたりなのか?



「ん。クラン、ご苦労。アズ社長、馬車の乗り心地はどうだった?」


「か、快適でしたよ。怖いくらいに……」



 実際、お尻が痛くなることもなかった。

 まず馬車を引いているのは八本足の馬、魔獣『スレイプニル』だ。

 凶暴な魔獣だけど、お金をかければ調教もできるらしい。その点、このスレイプニルはよっぽど丁寧に躾けられたんだろう。速いのに揺れの少ない走りをしていた。

 そして馬車もいい。内装はシックながらも高級で、ソファはフカフカ。また精密な作りのスプリングが組み込まれているのか、身体への負担は最小限だった。リラックスしてたら寝ちゃいそうなほどだ。


 総じて、乗り心地は最高だったわけだが……。



「……この馬と馬車、めちゃくちゃ高級品なんじゃないです? 一体どんな店ともめたんですか……!?」


「ん。もうすぐ開く予定だった高級割烹。なんか『ムサシノ老舗商會しにせしょうかい』ってところのボスが、肝いりで開店資金を出したところらしいよ。だから店長すごくお金持ってた」


「そんなところと……!?」


「うん。でもウチが弱みを握っちゃったから、たぶん開かないね。このまえ開店延期の告知出してたし」



 ぜ、絶対にやべえよそれ……! その老舗商會とやらの肝いり企画を潰しちゃったってことだろ!?

 俺、知らない内に睨まれちゃってるよ~……!



「まぁ終わった話はいいの。それよりも降りよ。ママが待ってる」


「は、はい」



 その話は本当に終わってるんだろうか……。

 気にする俺をよそに、クランさんが扉を開けてくれた。フーリンさんが先に降り、俺に手を差し伸べてきた。



「さ、降りて降りて。組のみんなが出迎えてくれるよ」


「く、組のみんな、ですか。怖い人たちじゃないといいのですが」


「大丈夫。怖くないよ。みんなシスター服のお姉さんだから」



 そ、そうなのか。ちょっとズレた回答だが、まぁあからさまなチンピラじゃない、ってことか。それなら少しは安心だな。



「さぁ、アズ社長」


「はい……」



 ともかく馬車に引きこもっていても仕方ない。俺は意を決すると、フーリンさんの手を取って地面に降りた。



「ようこそ社長、ウチの〝支配地シマ〟へ。――この子たちは、今日から社長の手足と思ってね?」



 その瞬間、



『〝御足労心底感謝イラッシャイヤセ〟ェェェッ! 我らがアズ社長ォォォォオオオオオオッッッ!!!』


「!?」



 ……タトゥーとピアスありまくりの、滅ッッ茶苦茶ガラの悪いシスターお姉さんたちが、集団で頭を下げて俺を出迎えてきた。

 ひっ、ひえええええええ!? 絵面の治安悪すぎィッ!



『おぉ、流石は社長だ〝偉大パネ〟ェ! 〝小愛チッチャ〟い男の子クンなのに、自分たちの〝顔面ツラ〟見てもまったく〝恐慌ビビ〟ってないぞォオオオオオオ!』



 って怖くて固まってるだけだよチクショウッ!



◆ ◇ ◆




 拝啓。故郷の義姉さんと、俺を産んだ顔も知らぬ肉親へ。お元気でしょうか?

 俺、アズ・ラエルは元気です。地方都市ムサシノにやってきた俺は、手慰みに始めたマヨ商売がヒットし、まとまったお金を手にすることができました。

 ええ、そこまではよかったのですが……それから色々ありまして……。



「うおおおッッッ! この〝偉人ヒト〟がアズ社長か~~~~ァァァ!」

「〝聖母ボス〟を助けた大恩人だぞ! テメェら気合入れて〝礼儀アイサツ〟しろやァッ!?」

「お疲れ様でェッッすッ! 御足労〝心底感謝マジアザ〟ッッッス!」



 ――こちらは現在、チンピラシスターさんたちに囲まれて、望まぬハーレム状態を満喫中です……――!



「フ、フーリンさん。怖い人たちじゃないって言いましたよね……!?」


「うん、怖くないでしょ。みんなシスター服着てるもん」



 ってシスター服で治安の悪さが隠せてないんだよッ! みんなタトゥービッチリのピアスバチバチじゃねえかッ! 口調もなんか怖いし!



「てかアタシたち、男の子クンはじめて見ました……! あ、あの、ちょっとだけ〝愛撫サワ〟っても……!?」


「む、ダメ。アズ社長はフーリンの」



 いや、フーリンさんのものでもないんだが……。



「どうしてもと言うなら、さきっちょだけ」



 あ、許すんだ。できれば俺の許可もほしいところだが。



「さきっちょだけ――〝小指ユビ〟を社長にあげたら、触れてもいいよ?」


「っていらないですよっっっ!」



 そんなんもらっても困るわッ! あと、チンピラシスター共も短刀ドス抜くな! しまえッ!



「べ、別にタダで触ってもいいですから……!」


『きゃあああああっ! 社長〝情愛ヤサシ〟ぃいいい~~~~~!』



 というわけで、フーリンさんが「むーっ」と膨れる中、俺はチンシスたちに滅茶苦茶ベタベタされたのだった。

 もう好きにしてくれ……。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【Tips】


今回得たもの:極道とのつながり(一方的!) チンピラシスターズ数十人(いらない!)


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る