空き缶

@takatsume04

空き缶

駅の構外にジュースの缶が1つ置いてある。

周りには誰もおらず、中身を確認すると空だった

空き缶だ。ゴミを誰かが置いていったのか。

少し憤りながらも、私はその空き缶をゴミ箱に捨てた。



次の日、昨日と同じ場所に同じジュースの缶が1つ置いてあった。

周りには誰もおらず、再度、中身を確認すると空だ。

まったく、昨日と同じ場所に…。

ため息交じりに、私は空き缶をまたゴミ箱に捨てた。



そのまた次の日、またも同じ場所にジュースの缶が1つ置いてあった。

昨日と同じように周りには誰おらず、中身は空だ。

少しイラッとした気持ちになり、私はその空き缶をそのままにした。



次の日、空き缶はそのままであった。

昨日の缶が残っているのか、新しい缶がまた同じ場所に置かれたのだろうか。

分からないことには関わらない方がいい。

私はその日も空き缶をそのままにして帰った。



次の日、空き缶は2つに増えていた。しかも空き缶の上に空き缶が重なって置かれている。

何かの遊びだろうか。何が楽しいのだろうか。

意味が分からないことには関わらない方がいい。

私はその日も空き缶をそのままにして帰った。



次の日、空き缶は3つに増え、空き缶の上に空き缶が重なって置かれていた。

胸がざわつくような嫌な予感がした。


次の日、嫌な予感は的中する。

空き缶は4つに増え、その空き缶は塔のように伸びていた。


日に日に数を増し、高く伸びていく空き缶の塔。

10個を超えたぐらいから、物珍しげに見る人も増えてきて。

20個を超えたぐらいで、町中の噂になって

30個を超えたぐらいで、テレビの取材が来た。

町の外からわざわざ見に来る人もいて、一種の観光地だ。


でも、誰が置いているのかは分からなかった。

そして、風が吹いても微動だにしない空き缶の塔に誰も不思議に思わなかった。


ある日、空き缶の塔は50個を超えて伸びている。見物客も少し飽きられたのか減り始めていた。

そんな見物客の中、一人の子供が好奇心から空き缶に触れてしまった。

「あっ」

誰かが声を上げる。

空き缶の塔はゆっくりと傾いていき、それから一気に倒れ崩れてしまった。

幸い見物人たちは傾き始めた瞬間に危険を察知して逃げたため、怪我人はいなかった。

崩れた空き缶は駅員や清掃員によって全て捨てられた。

そして、空き缶が置かれていた場所に「空き缶を置かないでください」という張り紙が貼られた。



空き缶の塔が崩れた次の日、いつもの場所にいつもの空き缶はなかった。

一体、誰が何の為に置いていたのだろうか。いや、本当に誰かが置いていたのだろうか。

謎を残しながら消えてしまった空き缶を少し寂しく感じた。

そんな感傷に浸って歩いていると、いつもの場所から少し離れた場所にそいつはまた現れた。


いつものジュースの缶。周りには誰もいなくて、中身を確認すると空。

空き缶だ。

また会えて嬉しいと思ったが、同時になんだか馬鹿されているようにも思え、怒りを感じた。

私は空き缶を無視して帰った。


次の日もその次の日も空き缶はその場にいた。

今度は増えず一人で誰にも気づかれずにヒッソリ寂し気に佇んでいる。



3日後、私はとうとう寂しげな空き缶に不憫に思い声をかけた。

「貴方は一体なんなの?」

空き缶は当然のように何も答えなかった。

「誰かを待っているの?」

空き缶は当然のように何も答えなかった。

「何をして、何を望んでいるの?」

空き缶は当然のように何も答えなかった。


耳を近づければ聞こえるかもと思い、空き缶を耳にかざす。

何も聞こえない。

中身を再度見てみる。何もない。空っぽだ。空っぽ・・・。


「あ!」

私はあることに思いつき、空き缶を持って水飲み場に行った。

そして、空き缶に水を注いだ。

空き缶は水で満たされ、空き缶でなくなった。

水を満たした缶を元の場所に戻すと、私は家に帰った。



次の日、缶は消えていた。

周りを探してもどこにもいなかった。


誰かの悪戯だったのかもしれない。

けど、私はあの空き缶になんらかの個や意志を感じた。

空き缶が居座っていたのは、空き缶が満たされていないからだと思った。

だから、空き缶が消えたのは、水を入れられて満たされたんだと思うことにした。

たとえそれが真実でなくとも、そう信じたいと思った。



私は空き缶を探し疲れて喉が渇いたので、自販機でジュースを買った。

そして、ジュースを飲み終え中身が無くなった空き缶を、あの空き缶があった場所に置いて家に帰った。


END

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