第23話 キスの次も、えっ、ここで…

「8時!そんなに遠くないのにどうして?」

明日の私のスケジュール表を受け取って、眼を通す。

「コンポ市の周辺は収穫祭のために、街道が混むと想定されます」

そんな、私に、ダリウスは王女殿下と、今更ながら声を掛けてきた。

私は何?という感じで、ドラムスを見上げた。

「明日の同行にも選んでいただきありがとうございます」

ダリウスは私に深々と礼をする。思ったとおり義理堅い奴。

女狩人:「貴方は、私に恩義を感じていますか?」

獲物オス:「と、当然です。冤罪で罰せられるところを救っていただきましたから」

女狩人:「私、あまり褒められた事がないので、もう少し称えてくださらないかしら」

獲物オス:「…王女殿下、貴女を、我が身に変えて御守りいたします」

女狩人:「ありがとう、ドラムス!それでね、一つだけお願いがあるの」

私は胸の前で両手を組んで、めいっぱい瞳をキラキラさせて彼を見る。

獲物オス:「な、なんなりと御申しつけてください、王女殿下」

(言質取りました)

女狩人:「それでね、その言葉に私、甘えさせていただくわ、あのね、この娘と結婚してあげてね」

獲物オス:「え、えっ…」

獲物メス:「…」

シーラは、ドラムスと分かった時から、ずっと俯いていた。

私は、にっこり微笑んで立ち上がって、大きく伸びをした。

同時に終業を告げる鐘が鳴り始めた。

「さあ、二人とも、私との約束を、ちゃんと果たしていただくわ」


私は、ドラムスに静かに言う。

「とは言うものの、このシーラは貴方を罠にはめた侍女だもの。希望どおり、乳を揉んだら、断ってもいいわ。でも断ったら、シーラは娼館に売るわ、本気よ」

続いて、俯いているシーラの肩をポンと叩いて、

「貴女の拒否は認めない、私は貴女が大っ嫌い!」

私らしくない、悪女風に言ってみた。後味が悪いわ。


「そんなにそいつを嫌いにならないでくださいよ、王女殿下」

ドラムスの声がした。ダリウスがシーラの前を片膝をついてシーラの手を取った。

「すべてを許す、そして結婚してくれ、シーラ」

「…」


正直者のドラムスは、ここで嘘をついた。

さすがに廊下ではまずいと思って私は二人を部屋に招き入れた。

「さぁ、誓いのキスくらい、してもらうわよ」

いい大人のキスってものを拝見させていただきましょうか。

私の後ろで、アンの鼻息が私の髪を揺らす。

ダリウスはシーラの乳を揉むと言ったくせに、いきなり彼女を抱きしめて唇を合わせている。分かりました、それは二人きりの時って事ね、いやらしい。

嘘つき女のシーラは、ペテン師よ、大嫌い!

結婚の返事もそう、誓いのキスもそうよ。

あれだけ、恥ずかしそうに頷いたくせに、涙も流したくせに、自分から唇を重ねに行ったのよ。私とアンが近くに見てるのによ!

それがドラムスの背中に手を回してまさぐっているのよ…、なんか腹が立つ。

とにかく、二人は以前からの知り合いだったのね。今更、どうでもいいわ。

「長すぎませんか、水掛けましょうか?」

アンの提案に私は即答する。

「濡れた床、貴女が掃除するならね」

それでも、いい加減にして欲しいわ。

私は、パンッ、パンッ、パーンと最後にドラムスの尻を叩いた。

「ドラムス!貴方、何の為にここに来たのよ!」

そう言うと、ドラムスはシーラから唇を離した。

二人の唇は少しの間、透明の輝きで繋がっていたけど、切れた。はい、終了。

「申し訳ございません」

そう言ったドラムスに私は指示を出した。

「報告書は…、明日、暇な時に書いておいて、後は…、もう部屋を締めるからシーラを連れて出てって!」

「は、はい」

私は出ていく二人を見ながら思い出したようにシーラに言った。

シーラはビクッとして、私に振り向いた。

「貴女はクビなんだけど、悪いけど明日は、ロックと番をしてちょうだい」

私は銀の硬貨を一枚彼女に投げた。




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