第24話 王女、ラブホで会議をする

「じゃ、行きますか」

 騎士団員ドラムスは、馬に鞭を入れた。

 朝8時ちょうどの出発するのは、いいけれど一つ問題をアンが見つけた。

「この馬車、騎士団の馬車じゃないですか!」

 客席の小さい小窓から、御者席のドラムスに言う。

「当たり前じゃないですか!それが何か?」

 馬車の動く音に混ざって、ドラムスの声が聞こえた。

 私はアンの肩に手を置いて首を横に振った。

「ごめんなさい、私の思い違い」

 アンはそう言うと黙って座り直した。

 これは、いまさら引き返したりする時間がもったいないとの私の判断。

 王女の乗る馬車は、王家の紋章入りと決まっているのよ。

 紋章入りの馬車に対して、何かしでかした誰かさんは国家反逆罪に問われる。

 日頃、私への皆の態度が軽いと思うけれど、ここはしっかり守られているのよ。

(それにしてももう少しマシな馬車は無かったのかしら…)

 そう思った途端、この馬車の乗り心地の悪さ、男臭さが気になりだした。

 そんな私に、アンが尋ねた。

「今日、王女や私は、何をすればいいのでしょうか?」

 このケモ耳侍女は、今更何を言ってるのと思ったけど…

「ひどい目にあってる侍女を救うのよ」

 そう、野蛮な男どもに辱めを受けている侍女をね。

「そこへ、私は王女よ、その侍女を渡しなさい!ってそのドレスで乗り込むのですか?」

 それもアリよね、でも王女だと敵に分らせるには、ティアラとか着けないと…

 私は、そういう場面をちょっと考えて顔をしかめた。

(ゴシップ記事になったら、まずいわね)

 アンは、椅子の下の木箱を引き出して開けると、そこには届いた得物があった。

 どれも手入れがちゃんとされている。

「さすが騎士団の馬車ね」

「こういう物を私は持参しております」

 アンは、持ち込んだ手荷物を開けると、一着の侍女服が見えた。

 なるほど、何が言いたいか分かってきた。

「隠密行動ね、それで敵を倒しながら侍女を助けるのね」

 なるほど、身分を隠して敵の本拠地を壊滅か、それは面白いわね。

「そうです、日頃のうっぷん晴らしに、ガチで敵をぶん殴れるのです」

(そ、それは素晴らしいわぁ)

 気が付くと私は深窓の王女から、戦闘メイドへと変身していく。

 最後にアイマスクを着けて、小ぶりのハンマーを手に取ってみた。

「…の名の元に、コホンッ、逝きますわよ、悪者どもの皆さま方、覚悟なさいませ…」

 恥ずかしいでも…

(かい~っかん)

 そう言ってアンと二人で狭い馬車の中でポーズを決めていた。


 そんな事をやっているうちに、馬車がコンポ市の門をくぐった。

 馬車から降り、初めてコンポ市に足を踏み入れた。

 空は澄み、風は穏やかで心地いい。

 そのまま広場まで、辺りを見ながらゆっくりと歩く。

 収穫祭も今日の昼過ぎで終わりらしい。

 そのせいか土産物屋の多くは、少し値を下げて呼びこみをしている。

 私達は、昼食の事を全く考えていなかった。

「侍女服に着替えたのはただしかったわね」

 私は侍女服を持って来ていたアンを褒めた。

 あのドレスでこの街を歩くと注目を浴びてしまう。

 それに貴族御用達の料理店があったけど、そもそもすぐには入れないのよ。

(一時間待ちかぁ)

 侍女服姿で王女の特権の行使をするには、説明がめんどくさいし、悪評が立ちそう。

 服装はどっちが正しかったは、難しいわね。

 一時間待ちと聞いて、余計に空腹感に襲われてしまう。

 どうしても目の前に並ぶ屋台が魅力的に感じる。

「食べ歩きしたい誘惑の駆られるわね」

 と私が愚痴ったけど、ドラムスに却下されてしまう。

「とりあえず、休憩用の部屋を借りて、そこで作戦を考えましょう」

 そう言うと、ドラムスは駆け出して行った。

 残された私はアンと昼食用に屋台から調達することにした。


 そして、私は一般人としての知識が一つまた増えたの…決して経験じゃないから。

 確かに、外で話す内容じゃないわ、それにドラムスはここでは頼りになる。

 しかし、この部屋は何なの!部屋の真ん中にド~ンと大きなベッドが一つ。

 さすがに、世間知らずの私でもわかる。どおりでドラムスの後に続いて部屋に入る私を貸主が、にやにやして見ていたわけだわ。

 突然、壁の向こうから、女性の叫ぶような声が聞こえた。

 もっとも助けにはいかないけど…、あ、まただわ、ああっ勝手に顔が赤らんでくる…

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