第3話 給食


(SE:穏やかで落ち着いたニュースのオープニングジングル。後ろでかすかに「いただきます」と複数の子どもたちの声が交錯して聞こえる)


キャスター

「続いてのニュースです。

 今月初旬より、全国の小学校で提供されている給食に関して、保護者から違和感を訴える報告が相次いでいます。きっかけは、ある一通の通報でした。」


(映像:都内の公立小学校。モザイク処理された正門前の映像)


キャスター

「今月3日、東京都内の小学校に通う児童の母親から、“給食の内容がおかしい”と教育委員会に通報がありました。問題とされたのは、当日提供された給食の中に献立表にない"赤いスープ”が含まれていたという点でした。

 しかし、学校側の記録、給食センターの出荷履歴、配膳担当の教員の証言などから、そのようなスープは提供されていないということが判明。にもかかわらず、クラスの全員が赤いスープを食べたと記憶していることが、保護者の証言によって明らかになりました。」


(インタビュー映像①:児童の母親。)


母親(仮名・声変換)

「息子が帰ってきて、“赤いスープ、ちょっとしょっぱくて残しちゃった”って……。でも、学校の献立表には“ワカメスープ”って書いてありましたし、給食センターに確認しても、“そういうスープは一切納品していない”って言うんです。

 でも息子は、“みんなで食べた”って言ってるんです。“あの人が来て食べろって言ったから”って……。あの人が誰か聞いたら、“担任の先生の服を着た知らない人”って……」


(インタビュー映像、終了。)


キャスター

「子どもたちが同一の存在しない記憶を共有していることは、極めて異常な事態と言えます。さらなる調査で明らかになったのは、この赤いスープの記憶を持つ児童たちが、全員、同じ夢を見ていたという事実です。

 その内容は、食堂で白い服の女性に見つめられながら食事をしていた、というもので、夢の描写は細部に至るまで一致していました。」


(インタビュー映像②:児童本人の証言。)


児童(小4・仮名:カズキくん)

「スープを残したら、名前を呼ばれた。“カズキくん、がんばって飲もうね”って……あの声、先生の声じゃなかった。だけど、飲まなきゃいけない気がして……その人、みんなの名前を知ってたから。僕は残しちゃったけど……最後まで飲んだ子が、次の日から学校に来なくなった。」


(映像:空席のある教室。黒板には「給食の時間に注意するように」という張り紙)


キャスター

「取材班が調査を進める中で、複数の学校で、欠席連絡がないまま登校しなくなった児童が存在することが判明しました。学校側は“体調不良による長期欠席”と説明していますが、保護者と連絡が取れないケースも確認されています。そして、そのような小学校では、決まって“赤いスープの記憶”が共有されていました。しかしながら、今のところ赤いスープの出所の特定には至っていません。

 “食べた記憶”と、“存在しない記録”。私たちは今、記憶と現実の境界がどこから崩れているのかさえ分からない事態に直面しています。

 政府広域安全対策室は、当面の間、献立表にないメニューが提供された場合、食事を中断し、すぐさま当局に報告するようにという緊急通達を全国の小学校に発出しました。

 繰り返します。知らない料理が出されたら、決して口にしてはいけません。赤いスープの記憶と不可解な夢、そしてその後の失踪⋯⋯。これらの因果関係は明らかになっていませんが、何らかの繋がりがあることは間違いないと考えられます。

 どうか、ご家庭でお子さんにこの事件のことを話してあげてください。知らない給食が出たら、決して食べないように伝えてあげてください。それだけで、あなたのお子さんを守ることができるかもしれません。」


(SE:チーン、という給食の終了ベルが、どこからともなく鳴る)


キャスター

「次は、天気予報です⋯⋯。」

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