第2話 観葉植物


(SE:静かなニュースジングル。背後に風のようなざわめき)


キャスター

「続いてのニュースです。

 いま、家庭用の観葉植物に関する不可解な報告が、全国で急増しています。

 その報告とは――“植物を置いた家で、家族の名前が思い出せなくなる”というものです。」


(映像:一般家庭のリビング。日当たりのよい場所に置かれた、ツヤのある深緑の観葉植物)


キャスター

「この現象が最初に報告されたのは、今年5月。関東地方に住む主婦が、自宅で家族との会話中、息子の名前が突然思い出せなくなったと行政相談窓口に通報しました。

 当初は一時的な記憶障害とみられていましたが、同様の症状を訴える家庭で、特定の観葉植物を置かれていたことが判明。問題は一気に拡大します。」


(インタビュー映像①。被害に遭った男性のインタビュー。顔は映像処理。)


男性(40代・仮名)

「最初は、“疲れてるのかな”って思ったんです。奥さんの名前が出てこなかった。でも……よく考えたら、名前どころか、顔も思い出せないことに気づいて。

 その瞬間、隣に座ってた女の人が、急に他人に見えたんです。……怖くて、そのまま家を飛び出しました。」


(インタビュー映像、終了。)


キャスター

「この家庭では、異変が起こる数日前にある観葉植物を購入し、リビングに置いていたことが分かっています。

 調査の結果、同様の症状が現れたほぼ全ての家庭に、“ルチアーナ・グリーン”という種類の植物が置かれていたことが判明しました。

 この植物は、インテリアショップやホームセンターなどで、“ストレス軽減”を謳って販売されていたもので、今年に入って急激に流通が拡大していました。」


(資料映像:販売促進の映像、SNS投稿、インフルエンサーが紹介している様子)


キャスター

「当初は“癒やし”として人気を集めていたこの植物ですが、最近では“声が聞こえた”、“呼ばれる夢を見た”といった報告も後を絶ちません。」


(インタビュー映像:少女と両親の証言)


少女(12歳・仮名:ミオちゃん)

「夜、部屋で寝てたら、リビングの植物が“おいで”って呼んできた……。その声が、お母さんの声だった。でも……少し違うの。なんか、奥にもうひとりいる感じがして……。」


父親

「植物に近づこうとした娘を、妻がとっさに止めたんです。その瞬間、植物の葉がすべて閉じて、音もなく枯れ始めました。あまりに驚いて、植物はすぐに捨ててしまいました。」


(インタビュー映像、終了。)


キャスター

「現在、“ルチアーナ・グリーン”は一部の輸入業者しか流通経路が分からず、植物学的にも未登録の種であることが判明しています。

 この植物を調査した研究機関によると、特定の条件下で、この植物から"外部の記憶情報を読み取るような反応”が確認されたとの報告もあり、現在、政府広域安全対策室は、全国的な回収と廃棄の検討に入っています。

 政府広域安全対策室は、以下の特徴を持つ植物を即座に屋外へ出し、触れないように指示しています。

・深い緑で光沢のある楕円形の葉

・夜間になると葉がわずかに動く

・水やりをしていないのに枯れない

・近づくと眠気が生じる」


(資料映像:ルチアーナ・グリーンのイメージ図。)


キャスター

「あなたが“癒やされている”と思っていたそれは、あなたの名前を忘れさせ、あなたを誰にも思い出させなくしていくものかもしれません。記憶を吸い取る植物。それはただ、そこに“置かれている”だけで、ゆっくりと、確実に侵食してくるのです。」


「次は、天気予報です。⋯⋯」

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