怪奇ニュース

でんでん虫

第1話 サンタクロース


(SE:重々しいニュースオープニングジングルがフェードイン)


(テロップ:『緊急速報 サンタクロース 日本上陸の見込み 政府広域安全対策室が全国に警戒呼びかけ』)


キャスター

「速報です。先ほど、政府広域安全対策室が緊急会見を開き、サンタクロースが3年ぶりに日本に上陸する可能性が極めて高いと発表しました。

 3年前の12月24日――1283人の子どもたちが、忽然と姿を消しました。

 残されたのは、防犯カメラに映る、子どもたちが自ら玄関を開け、夜の闇へと歩み去る姿。

 いなくなった子どもたちは、いまだに一人として発見されていません。」



(映像:政府緊急会見場。閃光が瞬く)


政府広域安全対策室 管理官

「本日21時30分をもって、政府広域安全対策室は、“サンタクロース”の存在を確認しました。

 現在の航続経路から推測すると、日本に上陸する可能性が極めて高いと思われます。

 12歳以下のお子さんがいる家庭は、12月24日から25日にかけて、最大限に警戒してください。

 12歳以下のお子さんがいる家庭は、玄関ドア、窓の施錠を徹底し、カーテンを閉め、外部から子どもの存在を悟らせないようにしてください。

 玄関のチャイムが鳴っても、ドアを開けてはいけません。窓の外から声や鈴の音が聞こえても、決して応じてはいけません。

 そして、もしお子さんが自ら外へ出ようとした場合は、力ずくでも止めてください。

 躊躇してはいけません。これは命を守る行動です。」


(会場ざわめき)


管理官

「3年前に失踪した1283名は、依然として行方不明のままです。

 今回の上陸で、これ以上の犠牲を出さないことが最優先です。

 国民一人ひとりの協力を、強く求めます。」


(フラッシュが絶え間なく焚かれる。映像終了)


(日本地図が表示され、赤い点が全国に広がっていく)


キャスター

「こちらは3年前に被害が発生した地点を示すマップです。

 都市部、地方を問わず、被害は同時多発的に広がりました。特定の地域ではなく、全国すべての家庭が狙われていたことが分かります。」


(画面にフリップ:防止マニュアル)


キャスター

「政府広域安全対策室は、12月24日から25日にかけて、12歳以下のお子さんがいる家庭に、次の行動を徹底するよう求めています。


・家の施錠を徹底する。

・カーテンを閉め、外から子どもの姿を見せない。

・夜間の会話はできるだけ控える。

・チャイムが鳴っても、絶対にドアを開けない。

・子どもが自ら外へ出ようとした場合は、力ずくでも止める。


 これは単なる注意喚起ではありません。命を守るために必要な行動です。

 政府が“力ずくでも止めよ”とまで呼びかけるのは前例がありません。

 続いて、実際に被害に遭ったご家族の証言です。」


(インタビュー映像①:娘を奪われた母親。)


母親(涙をこらえきれず)

「あの夜……娘は眠る前に“サンタさん来るかな”って、本当に楽しみにしてたんです。

 夜中にチャイムが鳴って、私が慌てて部屋を出たら……もう娘は玄関に立っていました。

 “サンタさんだ!”って……笑って、ドアを開けようとして……。

 私が止める間もなく、扉は少し開いて、冷たい風と……鈴の音が聞こえました。

 外には赤い布のようなものが揺れていて、影が……。

 娘は手を伸ばして……一歩、二歩……。

 私が抱きとめようとした瞬間……もう姿はありませんでした。

 それから3年。捜しても、呼んでも……何の手がかりもないんです。

 今でも、あの子はどこかでサンタに連れ去られたまま……笑って待っているんじゃないかって……。

 どうして……どうしてあの時、もっと強く止められなかったのか……。」


(インタビュー映像②:生還した子どもと両親。)


小学5年生の男の子

「窓の外から、“シャンシャン”って鈴の音がして……。

 すごくワクワクして、気づいたら玄関に行ってました。

 ドアに手をかけたら……勝手に開いたんです。

 外から冷たい風が入ってきて……誰かが立ってるのが分かりました。

 でも、お父さんが後ろから抱きついてきて……必死に止めて……。」


父親

「あの時、力いっぱい引き戻しました。

 息子は“行かせて!行かせて!”って泣き叫んで……。

 親の言葉なんか届かないんです。

……もし一瞬でも遅れていたら、今ここにいなかったでしょう。」


母親

「あんなに必死に“行きたい”って暴れる息子を見たのは初めてでした。

 ……普通の子どもじゃなかった。まるで何かに取り憑かれてるようで……。

 だから、今思うんです。あれは……サンタに呼ばれてたんだって。」


(インタビュー映像、終了。)


キャスター

「これらの証言からも、“サンタクロース”には子どもを抗えなくする何かがあることが分かります。

 ここからは犯罪心理学の専門家、**教授にお話を伺います。」


**教授

「サンタクロースの最大の脅威は、“子どもに自ら外へ出させる”ことです。

 通常の誘拐は強制的に連れ去るものですが、これは違う。子ども自身が“望んで”ついて行ってしまう。つまり、親が制止しても効果が薄いのです。」


キャスター

「やはり、何らかの心理的作用が働いているのでしょうか。」


**教授

「ええ。鈴の音、低い笑い声、赤い衣装――これらが子どもの信仰心や期待と結びつき、“抗えない衝動”を生み出します。

 一種の催眠、あるいは幻覚に近い現象と考えられます。

 ですから、子どもに理屈で言い聞かせることはできません。

 唯一の対策は――物理的に外へ出られないようにすることです。

 ドアチェーンや窓の補強、親が常に傍で見守ることが必要です。」


キャスター

「最後に、全国の保護者へのメッセージをお願いします。」


**教授

「“うちの子は大丈夫”という油断が、一番危険です。3年前の失踪も、そう思っていたであろう家庭で起きました。

 一瞬の油断が命取りです。どうか、子どもの未来を守るために、徹底して警戒してください。」


(画面下テロップ:『注意喚起 子どもを守れるのは保護者だけです 決して油断しないでください』)


キャスター(まっすぐ画面を見据えて)

「再び迫る“サンタクロースの夜”。

二度とあの惨劇を繰り返さないために――。

クリスマスイブの夜は、どうかご家族を守り抜いてください。」


(無音。数秒の沈黙。画面は暗転し、赤帯テロップだけが残る)


「続いては、天気予報です。⋯⋯」

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