第23話 冷静な男
あとは、短剣の男が依頼主だのなんだのに俺の強さを吹聴してくれれば、今度襲撃があるときには幹部クラスか、トップの人間が直々にやってくるだろう。
そうなりゃ、余計な手間が減った助かるってもんだ。
「ほら、お前もやるか?」
俺は丸腰になっている短剣の男にそういうと、奴は仲間の事など見捨てて店から出て行った。まぁ、こいつらはただの同業者で仲間でも何でもないか・・・・・・
そして、店内で足腰が立たない残りのヒットマン共は情けなく足を引きずりながら店を後にしている様子を眺めていると、カウンターにいるエルフの店主が話しかけてきた。
「やるじゃないか、さすがは元ギルドマスターだ」
「・・・・・・」
元ギルドマスター、その表現は間違ってないがどうも釈然としない。そんな事を思いながら再びカウンターの席に座ると、エルフの女店主は俺の目をじっと見てきた。
「なんだ?」
「あんた、本当にいい男だね」
「生憎、ここには情報を貰いに来たんだ、お前の相手はしてやれない」
「つまらない事を言わないで、いいでしょ?」
まるで俺を誘惑するような目つきを見せるエルフの店主は徐々に俺に顔を近づけてきた。だが、俺は近づく顔に手で防いで距離をとった。
「そうやって俺を誑し込もうって魂胆か?とっとと情報屋の婆を出せ」
「情報屋の婆?」
「そうだ、この貧民街にある仕立て屋のヤンキー女がそういってた、用があるのはその婆だ」
俺はありのままの事をエルフの店主に伝えると、彼女は子よトンとした様子を見せていたが、すぐに眉をひそめて不機嫌そうに舌打ちをした。
「あいつ、私の事を婆呼びとはいい度胸だ」
「・・・・・・」
エルフの店主はポケットから煙草を取り出すとすぐに火をつけ、まるで深呼吸するように吸い始めた。
その突然の豹変ぶりに、これがこいつの本性かと思っているとエルフの店主は俺の事をにらみつけてきた。
「で、あんたは情報を貰いに来たってわけだね?」
「そうだ」
「あんたが探している情報屋の婆ってのは私の事だよ」
「お前が?」
「そう」
「嘘つくな」
俺はすかさずカウンター越しにエルフの店主に詰め寄ると、彼女はわずかに驚いた様子を見せた。
「な、何よあんた」
「正直の答えろ、てめぇのような若くていい女が情報屋の婆な訳がねぇ、婆にどんな音があるのかは知らねぇが、俺に尋問されたくなきゃ正直に答えるのが賢明だぞ」
「だ、だからあたしがそうだって」
「なんだてめぇ、男になぶられる趣味でもあるのか?」
エルフの店主はあからさまに俺から顔を逸らして嘘を重ねてはぐらかす様子を見せ始めた。
「そ、そんな趣味は無いし、あたしは正直に言ってるんだけど」
「・・・・・・おい、婆だっつってんだろ、てめぇは若くて良い女だっ」
「それは多分、仕立て屋のブランが婆って言ってたのはあたしの年齢の事だよ」
「年齢?」
「あたしはもう百年以上生きてる、だからあいつはあたしの事を婆って呼んでるんだよ」
「・・・・・・」
エルフの店主は、頬を赤らめた様子でそんな事をつぶやいた。その様子を見て俺はわずかに我に返った。どうやら、女相手に年齢を吐かせるなんて真似をしてしまったらしい。
「悪い、野暮な真似したな」
「別にいいよ、その代わり信用して」
「あぁ、つまり、お前がブランの言う情報屋って訳なんだな」
「BARの店主でもあり、情報屋の【バーバラ・スピネル】だ、以後よろしく」
「あぁ」
エルフの女店主バーバラは、先ほどとは打って変わって俺と目を合わせる事もなく、そっぽを向いていた。
くそ、せっかくの情報や相手だってのに、少々やりすぎたのかもしれない。
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