第22話:ラフマニノフの旋律に、孤独が宿った夜──Eric Carmen《All by Myself》

若い頃、ラジオから流れてきたバラードに、ふと耳が止まった。


切ないピアノの旋律、情感を押し殺すような歌声、そして繰り返されるあの言葉──


All by myself…


その曲が、Eric Carmenの《All by Myself》であり、クラッシック音楽を基に作曲されていると知ったのは、随分と後になってのことだ。


当時はもちろん、クラシック音楽の知識などなかった。


けれど、なぜかその旋律には、もっと古い記憶のような重みがあるように感じていた。


あとになって、この曲の旋律が、ラフマニノフ《ピアノ協奏曲第2番 第2楽章》の一節を基にしていると知った。


ラフマニノフ、名前だけは知っていた。


家にはカラヤンのCDもあったし、「ラフマニノフはすごい作曲家らしい」といった断片的な知識もあった。



でも、ちゃんと聴いたのは、この《All by Myself》からだった。


クラシックに対して、専門的な知識は今もない。


それでも、あの曲に導かれてラフマニノフを聴き、その旋律が、どれだけ深い感情を秘めていたかを“遡って”感じ取った経験が、僕には確かにある。


Eric Carmenは、旋律を“借りた”のではなく、現代に“呼び起こした”のだと思っている。


クラシックの中に眠っていた孤独の旋律に、歌詞という言葉と現代の声を与えた。


それが1975年、ポップ・バラードとして生まれ変わった。


この連作のテーマは、「クラシックは死なない」。


それは、今も旋律のかたちを変えて、生き続けているからだ。


僕のように、ポップスやバラードを通してクラシックに出会う人間もいる。


逆に、クラシックの中に、現代のエネルギーを見出す人もいる。


どちらが先でもいい。

きっと、どちらも正しい。


形は変わる、時代毎に。

編成も、言葉も、聴衆も変わる。


でも、本当に偉大な音楽は、時代を越えて残る。心に届き続ける。


"偉大な旋律は死なない。"

Eric Carmenが歌い、ラフマニノフが奏でた、あの夜の孤独は、今も誰かの部屋のスピーカーから、きっと静かに響いているだろう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る