星の模様替え

K-enterprise

立会人に選ばれて

 ふうふうと息を切らし一心不乱に稜線を登っていた私は、気が付くと色鮮やかな花に囲まれた広場に居た。

 何度も登っている山だったが、こんなところがあったのか、と呆けてしまった。


「お、立会人だね」


 そんな声に振り返ると、そこには大きな青黒い球体を抱えた、白装束の子どもがいた。髪の長さは襟元ほどで、一見して性別の差は分からない。


「立会人とは、なんでしょう?」


 おそらく子どもが事情を知っていると理解し聞いてみる。


「星霊の譲渡が終わったからね、模様替えに際して住民の意見も聞かなくちゃだろ?」

「……あの、何を言ってるかさっぱり分からないのですが」

「分からなくていいよ。とりあえず星霊を運ぶのを手伝ってよ、これ意外に重くてさ」


 子どもは、青黒い球体を少しだけ掲げ苦笑する。

 私が球体の下部に手を添えると、確かにずっしりとした重みを感じた。


「これをどうすれば?」

「あそこの祭壇の上に台があるだろ? あそこに置くのさ」


 子どもの視線の先に、確かに祭壇らしき舞台と円柱の台が見えた。

 歩幅を合わせてゆっくりと運び、よいしょという声と共に球体は台に収まる。


「さて、ボクは静かな一面の白か、赤銅色の少し禍々しい模様にしたいと思うんだけどどう思う?」

「あの、なんの話です?」

「だから、模様替えだってば。きみだっていつまでもこんな青と茶と緑と白の非調和模様じゃつまらないだろ?」


 球体はよく見ると、宇宙から見た地球にそっくりだった。


「えっと、私はこれしか見たことがないといいますか、まあ実際にこの目で見た訳じゃないのですが、特に変える必要はないんじゃないでしょうか」

「変える必要はないけど、変えてもいいだろ? 変えない理由があるならともかく」

「変える必要と変えない理由?」

「きみだってなんとなくカーテンの柄を変えるだろ? それと同じさ」


 確かに、何かを変える時に必然性のないものはある。なんだこの日本語。

 でもそんな、カーテンの柄を変えるように、星の色を変えてしまっていいのだろうか?


「……私たちに影響は?」

「きみは目に見えない細菌の生活環境を気にしたことがあるのかい?」

「確かに!」


 いやまて、そうだけどそうじゃない。


「やっぱ極寒の白がいいかな~」

「あの! やっぱり青が、いまのままがいいと思います!」

「こんな混沌とした色が? その理由は」

「私が好きだからです!」


 子どもは少しだけ思案したあとで言った。


「うん。分かった。好きって気持ち大事だもんね」



 気が付くと私は山道途中のベンチに寝そべっていた。

 なぜこんなところで眠っていたのか思い出せないけれど、新緑の間から見える青空と、遠目に見える蒼海と、白い入道雲を見て、なんだかとても嬉しくなった。



―― 了 ――

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