おばあさんはそう言うと、「本当なら2回目はないけどサービスだよ」と言って俺にその不思議な腕時計を渡してくる。

その言葉に、「当たり前だ」とも思ったが…その前に。


「この時計の針を…回せば、時間が戻るんだよな…?」


俺が確かめるようにそう言うと、おばあさんが頷いて言った。


「そうだよ。お前さんだって体感したからこうやってまた店に来たんだろ?」

「そうだけど」

「だったらほら、昼間のあの時間まで時間を戻せばいい」

「…っ」


その言葉に、俺はゆっくりとその時計の針に指を近づける。

…これを回せば、俺は仕事をサボったという事実がなくなるんだ。

そう思いつつも躊躇っていると、やがて不思議そうにおばあさんが言った。


「…?どうしたんだい?えらい目に遭ったんだろ?早く時間を戻せばいいじゃないか。何を躊躇ってるんだよ」


おばあさんのそんな言葉に、俺は口答えするように言う。


「う、うるさいな。だってそんなことしたら、せっかく三時間も残業したのに全部無駄になるじゃんか」

「だったらやめることだね。気になるなら無理はしない方がいい」


おばあさんは俺の言葉にそう言うと、特に興味なさそうに欠伸をした。

くそ、他人事だと思いやがって…。


しかしその直後、俺はふと「良いこと」を思いつくと、おばあさんに言った。


「っ…ね、これいくらで販売してんの?」


俺がそう問いかけると、おばあさんが「1000円」と答える。

その驚きの価格を聞いて、今度は怒りやもどかしさが吹っ飛んで目を丸くする俺。


「せ、1000円!?」


思わずそう言って大きな声を上げると、おばあさんが言った。


「ちょっと高いんだけどね、時間を調節できるからそのあたりが妥当だろうと思って」


おばあさんは特に気にしていないようにそう話すが、腕時計で、しかも現実世界の時間の調節だってできるのに、それがたったの「1000円」なんて正直言ってあり得ない話だ。

いや、というかそもそも…。


「な、なぁ、ばあさんアンタ何者なんだよ?ここ、ただの雑貨屋じゃないよな?店の中もやたら寒いし、この店の建物も何か変わった雰囲気だし、俺の腕時計を直すのもマジ一瞬だったし」


俺がそう言うが、一方のおばあさんは俺のそんなことばに「そうかい?」と何とも呑気な返事をする。



「ばあさんアンタ、魔女か何かか?」






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