④
おばあさんはそう言うと、「本当なら2回目はないけどサービスだよ」と言って俺にその不思議な腕時計を渡してくる。
その言葉に、「当たり前だ」とも思ったが…その前に。
「この時計の針を…回せば、時間が戻るんだよな…?」
俺が確かめるようにそう言うと、おばあさんが頷いて言った。
「そうだよ。お前さんだって体感したからこうやってまた店に来たんだろ?」
「そうだけど」
「だったらほら、昼間のあの時間まで時間を戻せばいい」
「…っ」
その言葉に、俺はゆっくりとその時計の針に指を近づける。
…これを回せば、俺は仕事をサボったという事実がなくなるんだ。
そう思いつつも躊躇っていると、やがて不思議そうにおばあさんが言った。
「…?どうしたんだい?えらい目に遭ったんだろ?早く時間を戻せばいいじゃないか。何を躊躇ってるんだよ」
おばあさんのそんな言葉に、俺は口答えするように言う。
「う、うるさいな。だってそんなことしたら、せっかく三時間も残業したのに全部無駄になるじゃんか」
「だったらやめることだね。気になるなら無理はしない方がいい」
おばあさんは俺の言葉にそう言うと、特に興味なさそうに欠伸をした。
くそ、他人事だと思いやがって…。
しかしその直後、俺はふと「良いこと」を思いつくと、おばあさんに言った。
「っ…ね、これいくらで販売してんの?」
俺がそう問いかけると、おばあさんが「1000円」と答える。
その驚きの価格を聞いて、今度は怒りやもどかしさが吹っ飛んで目を丸くする俺。
「せ、1000円!?」
思わずそう言って大きな声を上げると、おばあさんが言った。
「ちょっと高いんだけどね、時間を調節できるからそのあたりが妥当だろうと思って」
おばあさんは特に気にしていないようにそう話すが、腕時計で、しかも現実世界の時間の調節だってできるのに、それがたったの「1000円」なんて正直言ってあり得ない話だ。
いや、というかそもそも…。
「な、なぁ、ばあさんアンタ何者なんだよ?ここ、ただの雑貨屋じゃないよな?店の中もやたら寒いし、この店の建物も何か変わった雰囲気だし、俺の腕時計を直すのもマジ一瞬だったし」
俺がそう言うが、一方のおばあさんは俺のそんなことばに「そうかい?」と何とも呑気な返事をする。
「ばあさんアンタ、魔女か何かか?」
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