②
俺はそのポップを見て、時間を操ることが出来るらしいその腕時計を手に取る。
デジタルではないアナログ時計。
造りはシンプルだ。
真っ黒の牛革に、赤い時計の針。カレンダーの表記もあって便利だが、一見普通の時計すぎて、とても時間を操れるようには見えない…。
なんて思いながらまじまじとその時計を見ていると、いつの間にか腕時計の修理から戻ってきていたらしいおばあさんにいきなり声をかけられた。
まさかここで声をかけられるなんて思ってもみなかった俺は、思わず驚きで大きな声を上げる。
「その時計が気になるかい?」
「っ、うわ!?」
俺が驚くと、おばあさんは「驚かしてごめんね」と笑った。
…一体いつの間に戻って来てたんだ…。
おばあさんは右手に俺が預けた腕時計を持ちながら、俺がつい先ほどまで見ていた腕時計の話をし始めた。
「その時計はそこに書いてある通り、時間を巻き戻したり早送りしたり出来るんだよ」
しかし、そんなおばあさんの言葉に俺は半信半疑で答える。
「ええ?そんな…スマホで見るような動画じゃあるまいし…」
でも…
「…試してみるかい?」
「え、」
おばあさんがふとそう言って問いかけてくるので、俺は興味本位でその問いかけに頷いた。
「ハイ。…是非」
俺がそう言うと、おばあさんは俺からその時計を受け取って、俺がついさっき修理に出したばかりの腕時計を俺に返す。
「え、あの、これ修理…」
あまりにもさっさと返されるから不安になって俺がそう問いかけると、おばあさんが言った。
「ああ、それならもう直ったよ」
「え、早くないですか!?」
俺がおばあさんの言葉に再び驚いた声を出すと、おばあさんがその不思議な腕時計を見つつ言う。
「じゃあ、早速時間を動かすよ。3時間後までスキップしようかね」
「え、さ、三時間!?」
それじゃああまりにも時間が進みすぎだろ!
しかし俺が何かを言う隙も無く、一方のおばあさんは時計の針をぐるぐるぐる…と遠慮なく回した。
「ほら、これで時間が三時間ほど進んだよ」
…しかし、そうは言われても…一見周りの状況はさっきとさほど変わらない。
時刻的には16時ごろまで進んだ。
本当に16時ごろになっているのなら、学校の授業はとっくに終わっているはず…。
俺がそう思っていると、おばあさんが言った。
「腕時計なら特に修理代は要らないからね」
その言葉に、自分の腕時計とその不思議な腕時計を見比べると、2つの時計は全く同じ時間帯になっていた。
え…マジ?
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