BL習作② 江戸ブロマンス寄り?

苔むしたほこらが見えた。


れんが刀を静かに構える。


「離れるな。俺の背を守れ。」

貞次ていじは小さく頷き、灯籠を手に蓮の後ろに立った。


祠の奥から、低い唸りが聞こえる。

闇が揺れ、影が形を持って現れた。


影狼だ。


黒い毛皮が月光つきあかりに照らされ、双眸ふたつのめが赤く光る。


「またやられに来たのか、人間よ。」


その声に貞次の心が一瞬凍る。震える胸を押さえて彼は答えた。


「来ました。」

影狼は嘲笑った。


「ふん、愚かで弱い正直者め。」


貞次は一歩後退する。

足元の苔が滑り、灯籠の光が揺れた。


蓮が刀を振り上げ、影狼に斬りかかる。だが、影狼の動きは素早く、半身をかわされ刃は空を切った。


「危ない!」

貞次は叫ぶ。だが体が固まり思うように動けない。影狼は低く唸りながら貞次を見据えた。


「弱いお前など奴の荷物でしかない。奴は最後しまいにはお前を見捨てるだろう。」


その言葉に貞次の胸が締め付けられる。しかし、彼は自分の心を立て直した。


「そんなはずはありません!」


影狼の動きが一瞬止まる。


その隙を突き、蓮が剣を横一文字に振った。剣先は影狼の前脚を斬り、動きを封じた。


貞次は灯籠を高く掲げ、影狼の胸元に光を当てた。影狼は光に弱い。


やがて、二人は影狼を祠の中心に追い詰めた。


影狼は呻き、影の形を乱しながらも抵抗したが、貞次の灯す光と蓮の剣が重なり、影狼はついに地面に崩れ落ちた。


祠の扉は再び閉ざされ、中に静寂が戻った。

辺りには二人の息づかいだけが響いた。


貞次は膝をつき、額の汗を拭う。

「……終わりましたね。」


蓮は刀を鞘に収め、うなずいた。

「俺だけでは倒せなかった。」


 初めて、蓮の瞳が柔らかく光った。貞次はその光を胸に刻み、少しだけ自分を誇りに思った。


その刹那、月光が差し込み、地面に二人の影が伸びる。



「よくやった。」

 蓮からかけられたのは、あまりにも無骨な言葉だが、その眼差しは慈愛に満ちていた。


貞次は顔を赤らめ、恥ずかしさと安堵で微笑んだ。

「……ありがとうございます。あなた様とご一緒だったからこそでございます。」


貞次が恥ずかしさのあまり下を向くと、蓮の手の甲に傷を認めた。


「蓮様、お手に傷が…。」

「構わぬ。かすり傷だ。」


即席の焚き火で冷えた身体を温めながら、貞次は自ら手縫いした手巾をそっと蓮に差し出した。


蓮が手を伸ばすと、貞次の指先に軽く触れた。

貞次の体が無意識にぴくりと応えた。


2人の顔は赤らんでいる。焚き火とは関係なく。


半刻の後、貞次の腰は蓮の腕の中にあった。

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