BL習作…書いてみました。1分で読める創作小説2025 専用三部作+α。お願いです。ハーゲンダッツください。

しゃもこ

BL短編習作①  倭ブロマンス寄り⁇

雨は朝から、まるで2人を隠すかのように降り続けている。


水墨画のような山々を超えた先にある廃屋で、二つの影は静かに向き合っていた。


一人は、かつて密命を受け、影の世界で数数多かずあまたもの命を奪ったとされる魏から来た男。


名はえん


その視線は刃物のように鋭い。

今は「一大率」の追跡を逃れ、倭の片隅で名を偽り忍び生きている。


もう一人は、新羅からふらりと来た、毒を愛し人をもてあそぶ術に長けた男、こう。今は一大率の刺史ししだ。


その笑みは美しく柔らかく、声は甘葛あまづらのように甘い。それでいて、彼に一度心を許せば、すぐにすべてを呑み込まれてしまう。


存在そのものがまるで毒。

刺史として非常に優れた男。


なのに。

その毒が効かない男が目の前にいる。


「来たのか。」

硝子のような焉の声に、行は目元だけで笑った。


「お前はいつも突然だ。まるで、私の生死を確かめるかのように。」


棘のある言葉も、行にとってはただの褒美だ。

行は手にしていたしゃくをそっと置き、何も言わずに、焉の襟を緩めるように指を滑らせた。


行の湿った髪から落ちたしずくが焉の頬を伝い、うなじに流れる。首筋をつたった露は襟元へ落ちる。


露わになった焉の白い肌に行の視線は吸い寄せられる。焉は何も言わない。


ノーでは無い、つまりはイエス


行は焉の首筋の露を指ですくい取る。すぐに唇を這わせたい衝動を必死で堪え、訪問の目的を伝える。


「楚の南地でまた、目を抉られた遺体が見つかった。やり方が……あなたのそれに似ている。」


「私ではない。しかし私など、今ここで捕まえてしまえば良いだろう。お前はその任にあるのだから。」


焉のその一言を受けて、行の指が焉の胸元に一気に滑り込んだ。


「狂気とは、時に愛に似るのですよ。」

「刺史に愛を語る資格があるとは思えないが。」


行は焉の白い肌に目を落とし、それから耳元でささやいた。

「あなたにだけは語りたいのです。」


焉は行の手を振り払うと黙って立ち上がり、濡れ縁へと歩く。

視線の先には、一本の老木が雨風に揺れていた。


その根の下に、焉がかつて消した者達がいる事を行は知っている。毎日、冥福めいふくを祈っていることも。


「私には、あなたを捉えられない。どうしても。」

その声にいつもの甘さはない。


背後から近づく足音に焉が気づき、振り返った瞬間、行の顔が至近めのまえにあった。濡れた睫毛まつげ、微かに開いた唇。


行がささやく。

「今は何も考えずに私を抱けばよいのです。共に毒にまみれましょう。」


焉と行の影が重なる。

雨音だけが、二人の世界を塗りつぶしていった。




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