第14話 アリスと戦の始まり

「ここに皆さんをお呼びしたのは、この国の存亡にかかわる予言を数日前に受け、それが今だとわかったからです。その内容は、道化共が国を火の海に変える。そして、異国から来る世界の種によって、この世の中は危機を逃れるであろう。という予言だ」


 そして、少しの沈黙があり、ルークが口を開いた。


「ステラさん、一ついいか。どうして、奴らはここを狙うんだ?」


 ルークはステラに対し、敬語を使わずに話す。だが、サン付けで呼ぶのが彼なりの誠意だ。


「さぁ、私にもわかりません。が、思い当たる節なら...三つほど、ありますよ」

「本当ですか!?」


 室内が、がやがやし始めた。そんなものがこの国にあるとは知らないかのように。

 それでも、ステラは平然と進める。まるで、そうなることが分かっていたかのように。


「えぇ」


 ステラは一本ずつ指を立てる。


「一つ、この国に恨みを持つ、または、邪魔だから。二つ、この国で捕まっている、ウロボロス教団【正義】の開放。三つ、この国に眠るソロモンの遺産、ソロモンの指輪」

「えっ!?ソロモンの指輪!!」


 アリスは声を荒げて、驚く。その隣では、きょとんと首をかしがせている神威がいた。


「アリスよ、ソロモンの指輪とは何でござる?」

「ソロモンの指輪は、ソロモン王が天使からもらった指輪で、それには悪魔と天使を服従させる力があるの。それだけじゃなくて、魔力向上、魔法威力向上、魔力変換率向上、魔力回復率向上などなど、様々な魔法に対する効果付きの神具だよ」


 アリスは、神威に少し長めの説明を興奮気味に聞かせた。

 ソロモンの指輪、伝説上のアイテムと考えていたが、実在していたとは思わなかった。

 実際、ソロモンの指輪は世界を揺るがしうる力があるのだろう。


「アリスといったか?よく知っているな、そのソロモンの指輪だ。俺らもてっきりそんな物がある事を忘れていたよ」


 皆同じ意見だったのか、教会の者は皆うなずいた。


「そんなすごい物なのに、どうして誰も使わないんですか」

「使わないんじゃない、使えないんだ。あれは、天使に愛されて、その上、神に選ばれた者でないと使えない」


 ルークは少し悔しそうに言う。やはり魔法使いは、神具にあこがれを持ってしまう。


「もし、そうなら問題ですね。ソロモンの指輪がここにある事を、ここにいる人以外知らないはずですから。どこから漏れたのか...とね」


 漏れたとするならば、きっとこの国の人間。多分だけど、皆が皆、知っているわけではないから、機密情報的なものなのだろう。


「ソロモンの指輪のことを知っているのはどういう人なんです?」

「ここについている人と過去の聖者だけですね」


 そうなると、そこから裏切り者が出たと考えられるだろう。


「これは勘ですが...過去の聖者が漏らしたことはないと思うよ」


 フラマの顔はにこやかなものだった。だが、目は全く笑っていなかった。


「まぁ、決まったわけではありませんしね。」


 こうは言うが聖者達は知っていた。ステラの勘がよく当たることを。

 アリスはソロモンの指輪に驚いて、スルーしていたことを思い出した。


「ていうか、この国に【戦車】が幽閉されているのですか?」

「えぇ、一年ほど前に捕まえましてね」


 最悪の場合、ウロボロス教団の幹部が二人か。結構きつい戦いだろう。


「そこでアリスさん、神威さん。二人にはこの道化共の戦いに参加していただきたいのです」


 フラマはアリスと神威に提案をしてくる。まるで断られないと知っているかのように、自信満々の笑みで。

 二人の返事よりも先に、第三者の声が聞こえてきた。


「待って、こんな子供たちを危険な目にあわすっていうんですか!?」


 そう言う、サナティオの目には涙が少し流れようとしていた。まるで、聖母のようであった。


「そうですね。ですが、予言では彼女によって危機を免れるとされているのです。だから、私はこれが正しい判断だと思う」 


 フラマはこれが最善の策だと考える。よほどのことがない限り、予言は覆らない。それこそ神の域に達しでもしない限りは。


「ですが、彼女らは...」

「えぇ、分かっていますよ。確かに彼女らはこの国の人間でもないし、関係もない。でも、予言に出ているんですよ。異国から来る世界の種とは彼女とことだと思っているんですよ」


 もはや、ステラが何を言っているのかが、アリスには理解ができなかった。


「おい、サナティオ。思うところがあるのは分かるのだよ。だが、これはこの国のためなのだよ。いや、世界のためなのだよ。ステラさんのよげんがまちがってることが今までになかったのだよ。そうだろう?」

「それは...」


 エクセルキトゥスの言葉に、サナティオは言葉を詰まらせた。


「どうでしょうか?お二人とも」


 ステラは改めて問う。

 二人の答えはすでに決まっている。


「協力させてください」

「同じく」


 それは、冒険の匂いを感じたから。

 それは、強者との戦を感じたから。

 いや、アリスに至ってはその限りではないだろう。なぜなら、ジェスターが兄の知り合いであるのだから。

 彼から何か聞き出せるかもしれない。

 二人は、それぞれの思い意を胸に、誘いを受けた。


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