第3話 アリスとゴブリンロード

 洞窟の中は暗くて不気味だった。奥に進むにつれて匂いがきつくなっていく、それは、ゴブリンに近づいている証拠だ。ほら、もうそこにいる。

 そこにいたのは二匹だけだが、それぐらいならすぐにかたずいた。それから、調子に乗って二人はどんどん奥へと突き進んでいった。そして気づく、それが罠だったのだと。

 なんとも愚かなことに、ここまで来ないと気付かなかった。調子に乗ってしまったのも、最初のクエストが思いのほか順調に進んだからだろうか。


 そもそもこれまで出た数はとうに30を超えていた。にもかかわらずまだ出てくるゴブリンども。その時、流石におかしいと思い引き返そうとしたのも時すでに遅し。アリスたちの四方をゴブリンたちは囲った。

 このゴブリンの巣にはゴブリンロードがいると思われた。それすなわち、銀級冒険者二名からすると絶望的な状況を意味した。


 ゴブリンロード―以前も触れた通り、ゴブリンの集団の中に君臨し、ゴブリンの王となる者である。

 それからわかる通り、ゴブリンロードは特殊個体である。能力は特にないが、固いのが取り柄だろう。詳しく言うと、物理・魔法どちらの攻撃も30%ほど削減されてしまう。

 まぁ、普通にめんどくさい。

 あぁ、言い忘れていたが変わるのは耐久性だけでなく、大きさもだ。通常のゴブリンの10倍ほどの大きさだろう。その大きさに合う攻撃力と持続力も持ち合わせている。

 故に、王なのだ。圧倒的な個、圧倒的な力、それらが王たらしめるのだ。


「拙者が帰り道を開くでござる。10秒ほど時間を稼いではもらえぬか?」

「わかったよ」


 アリスは神威を信じ、10秒の時間を自分一人で稼ぐ覚悟をする。その覚悟と同時に神威は詠唱を始める。

 アリスはその詠唱を背にレイピアを持ち、ゴブリンめがけて駆ける。


 レイピア。その武器は、貴族が腰に下げているものだ。逆に言えば、貴族のみしか使わない。

 レイピアは、貴族が使うお飾りだ。

 普通の人はレイピアを使うぐらいならけんを使う。そりゃそっちのほうが使いやすいし、強いからね。

 でも、アリスは違った。剣よりもレイピアのほうが手になじんだんだ。

 手になじんだだけではなく、その動きは洗練され美しい。洗練されたレイピアは巨大な岩もを砕いた。

 だが、何故そんなものをアリスが使えるかというと、それは、謎だ。


 アリスは最高の師、パワーレス・ルールドに体の使い方を学んだ。パワーレスは昔、凄腕冒険者としてそこそこ名をはせていたらしい。それは教科書にも載るレベルほどの名を。

 その体の使い方と洗練されたレイピアの二つがそろったアリスは、銀級冒険者と言っても過言でないほどの実力があった。


 アリスはその二つをゴブリンにたたきつける。

 アリスは目の前のゴブリンの顔にレイピアを一突きし、殺す。次に後ろから来た二匹のゴブリンをしとめるためにゴブリンの頭より高く飛ぶ。そして、ゴブリンの頭に足を乗せ踏みつぶす。神威の近くに来たゴブリンどもは覚えたての風の魔法で吹き飛ばす。

 アリスは同じような戦い方をし、10秒の時間を稼いだ。とまり、時は来たのだ。神威の魔法が発動される時が。


「〈淵焔えんえん〉」


 神威は刀を杖代わりの媒介とし、魔法を放つ。

 その魔法は、永遠に続く炎。深い炎、また、定まらない炎、歪んだ炎。

 暗く、禍々しい、少し黒い炎。

 ここら一帯を飲み込むような深さ、全てを燃やし歪ます定まらない炎。

 その炎は次々にゴブリンを飲み込み消し去っていく。

 そうして、周りのゴブリンがいなくなったと思ったその時、不快な声と不気味な魔力のを感じた。

 そちらを振り向くと杖を持つ、少し大きめなゴブリンがたたずんでいた。瞬時にウィザードゴブリンだと判断できた。


「esekowoonoh onak oyuzim」


 ウィザードゴブリンは水魔法を放った。その水は家一つ分ほどの水の玉だった。

 その水の球がアリス達、いや、炎めがけて落ちてきた。その水に炎はかき消される。


「uraninerawaraaguo」


 奇妙なゴブリンの声とともに奥から普通のゴブリンがたくさん現れる。それに続き、よく筋肉のついたいかにも戦士風で2mほどのゴブリン一体。そのあとに出てきたのが5mを超えた巨大なゴブリン、うわさに聞くゴブリンロードであった。

 このゴブリンの集団はそこそこ強い駆け出し冒険者二人ではどうにもならないほどに最悪的な状況で生きて帰れるかすら怪しい状況へと一瞬で変化した。

 この洞窟のクエストは金級冒険者3人以上が適正だろうとアリスは憶測を立てる。

 生きるためには逃げるのが優先だ。だが、逃げようにも逃げられない。せめて、普通のゴブリンの数をほとんど減らし、ウィザードゴブリンとウォリアーゴブリンだけでもしとめる必要があった。


「神威、雑魚を駆除しながらウォリアーゴブリンをお願い。私はウィザードゴブリンのほうを殺る」

うけたまわった‼」


 神威は炎と刀で普通のゴブリンを蹴散らしながらウォリアーゴブリンへと突き進んだ。

 アリスは宙に飛びゴブリンの首を足で折りながらウィザードゴブリンへと向かった。


「〈紅桜流刀術 炎龍〉」


 神威は刀に炎の龍を纏わせゴブリンを切りつけ、燃やす。神威の周りにはもうゴブリンはウォリアーゴブリンのみとなった。


「手合わせ願おう。小鬼共の戦士よ‼」


 神威は刀を地に刺す。


「紅桜流刀術 地火龍突ちかりゅうとつ


 刀に纏っていた炎の龍は地に潜り、ウォリアーゴブリンへと向かう。ウォリアーゴブリンの真下に行くと勢いよく噴き出す。

 だが、ウォリアーゴブリンは盾でそれを防ぐ。だが、流石に耐えられなかったのか盾は破壊された。


「otogim」

「何言ってるかわからないでござるな。貴様も戦士ならこれで語り合おうぞ」


 神威は刀をウォリアーゴブリンへと向ける。ウォリアーゴブリンも満足気にうなずき剣を拙者に向ける。


(やはり、武士ならば刀で語り合うのが一番。否、それしか知らなぬ)


「拙者の全力を叩きつけるでござるよ〈紅桜流刀術我術 焔花火〉」

「〈irgiamay〉」


 刀と剣、激しく交わり合う。人と魔物。今だけは種族を超え会話を果たす。


 (あぁ、やはり刀は良い。 振るうときは、その空間の身に没頭できる。それしか感じなくていい。世界には、まるで拙者と刀しかないようにも思える)


「otogim」

「其方の剣技も見事でござった」


 ゴブリンの剣は斬られており、胸には大きな傷がついた。もう死ぬのもすぐだろう。

 死ぬ前のゴブリンは神威の言葉を聞き、笑みを見せた。そのまま息を引き取った。


(まことに見事であった)


 良い戦をしたな。彼と刀を合わせたうえでそう言おう。

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