悪役令嬢、処刑台の上で空を見上げたら視界の端に『スキル:破滅回避【EX】』っていう文字が見えた

マッツィーニ〜ひよこ作家〜

第1話

「悪役令嬢?

 よく分からんが、とりあえず絶体絶命の状況からなんやかんやで幸せになりたいんじゃな?

 ちょうどよい転生先があるから、転生先の彼女に代わって、なんとか危機を乗り越えてくれ。

 いちおう、わしも手助けするつもりじゃ。

 じゃ、いずれまた会おう」


 神様の掲げた人差し指が、眩い光を放つ。


(ま、まぶしい!)


 瞼を閉じた次の瞬間には、


「お前のせいで職を失った人間が何人いると思ってんだ!」


「おい、早く首をはねろよ! 見てるだけでイラつく!」


「貴族だからって調子に乗りやがって、ざまあみろ!」


 私は、処刑台の上に立っていた。


==========


 この世界に飛ばされる少し前、


 私は彼ぴ(○ね)に浮気されたショックで、

 大阪の道頓堀橋の欄干にもたれながら、

 缶ビール片手に『秒針を噛○』を熱唱していた。


 橋を渡る通行人たちの好奇の目、忌避の目に晒されながら、


「ハレーター! レイラー!」


 気持ちよく歌い終える。

 気持ち良いままビールを仰ごうとしたが、すでに空だった。


「チクショウ!

 ○○(彼氏の名前)も、SDGsもクソくらえ!」


 思いっきり空き缶をぶん投げた。


 空き缶は風の抵抗を受けながら、

 ゆっくりと弧を描くように、水面へ落ちていった。


 力なく揺蕩う空き缶を見つめる。


(あぁ、なんだか私みたいだな)


 酒に酔っていたせいもあるが、

 私はなぜか空き缶と自分を重ねてしまった。

 今になって考えると、

 なぜそう思ったのか我ながら理解に苦しむ。


(わたしも、あの空き缶のように流されたい)


 自暴自棄になった私は、橋の欄干によじ登る。


 そしてそのまま、


ーーーバシャァァンッ!


 阪神が優勝していないのに、私は道頓堀へ身を投げた。

 

==========


「溺死じゃな」


 眠りから覚めると、

 目の前に神様を名乗る爺さんが座っていた。


 どうやら、私はあのまま溺死したらしい。

 飛び込んだ後の記憶がないので定かではないが。


「わしは最近、J-POPにハマっておってな。

 お主の先ほどの歌。

 公衆の面前であれほど堂々と歌い切るとは。

 あっぱれじゃった。

 褒美に、神様であるわし自ら、お主の次の人生を工面してやる。

 ほれ、次はどんな人生を送りたい?

 他人の人生を途中から体験するのもOKじゃ」


 なんかよく分からないけど、

 神様が転生させてくれることになった。


 5分ほどじっくり考えた末、

 私は悪役令嬢に転生することを選んだ。


 地球に再び転生するのはナンセンス。

 あんなゴミみたいな世界に生まれ直したいと思う奴なんて、そうそういない(はずだよね?)。


 となると、やっぱり生まれ変わるならハッピーでファンシーなファンタジー世界になる。

 ただ、普通のお姫様に転生するのは気が引けた。

 正直、私はそんなに性格がよろしくないので、普通のお姫様に転生してもマリー・アントワネットになるのがオチだ。


 なので私は、悪役令嬢を選択した。

 性格は悪いけど、なんだかんだ破滅フラグをへし折って、

 ハッピーエンドを迎える。

 そんな悪役令嬢が自分には向いていると思った。


 だから、神様には悪役令嬢になりたいと伝えた。


 神様は少年ジ○ンプしか読んでいないらしく、

 昨今流行っている悪役令嬢にはぜんぜん詳しくなかった。


「悪役令嬢?

 よく分からんが、とりあえず絶体絶命の状況からなんやかんやで幸せになりたいんじゃな?

 ちょうどよい転生先があるから、転生先の彼女に代わって、なんとか危機を乗り越えてくれ。

 いちおう、わしも手助けするつもりじゃ。

 じゃ、いずれまた会おう」

 

 その結果が、現状(処刑寸前)だった。


==========


(お前はなにか思い違いをしているようだな神様)


 某人気マンガのラスボスみたいなセリフが頭に浮かぶ。

 ジャンプを読んでいるなら、

 神様もこのセリフは知っているだろう。

 私がとても怒っていることも、分かってもらえるはずだ。


 文句その1。

 まず、挽回のチャンスがない。


 普通の悪役令嬢モノは、

 処刑される1年前くらいに飛ばされて、

 そこからなんとか危機を乗り越えて、

 ハッピーエンドを迎えるのがセオリーだ。


 時間がなぁい!

 なんで転生早々、処刑台の上なの。

 ここから私は、どうやって挽回すればいいの。

 「いずれまた会おう」って、そう言う意味なの?

 いくらなんでも死ぬの早すぎでしょ。

 この周回、いらなくない?


 文句その2。

 民衆たちよ、石を投げるな。


 広場を埋め尽くす民衆たちが、

 私に向かって思いっきり石を投げている。

 石を投げられたのは小学生の時以来だが、

 あの頃と違い、相手は本気だ。

 血走った目でフルスイングしている。

 全力投球された石が、私の華奢な体を打つ。

 クッッッッッソ痛い。


 それ以外にも色々言いたいことはあるが、

 とりあえず今は、この状況を打開する策をーーー。


「ヴィオレッタ・エヴェリーナ・フォン・ルーヴェルシュタイン!

 最後に言い残すことはないか!」


(本名長い!覚えられるか!)


 心の中でツッコミを入れつつ、

 もう最後の言葉かよと戦々恐々とする。


(なにか、なにか言わないと!)


 鈍く輝くギロチンの刃を見ながら、

 必死にこの状況を打開する策を考える。


 が、当然何も思いつかない。


 唯一、思い出したのは、

 近代化学の父、ラヴォアジエだった。


 彼は処刑される寸前、

 処刑後、人はどれだけ意識を保っているのか検証するために、

 首だけになった後も、可能な限り瞬きを続けると言ったらしい。

 

 彼が何回瞬きできたのか思い出せないが、

 そういう死に方もありかなと、


 思うわけないだろ。


 そういえば、ギロチンが採用された経緯について、

 受刑者の苦痛を和らげるため、という話も聞いたことがある。


 私はこの話を聞いた時、思った。


(いや、受刑者にどれだけ苦痛を感じているか聞けないから、

 実際のところは分からなくない?)


 だが、今回、

 私はその苦痛を身をもって味わうことができる。


(わーい、わーい、科学の勝利だぁ(?)。

 でも、なんでだろう、目から涙がでてくる)


 私は涙がこぼれないように、空を見上げた。


 空は、青1つない曇り空だった。

 これが入学式だったら、とてもテンションが下がるやつ。


(あぁ、私の人生、ほんとゴミ)


 私を裏切った彼氏も、

 こんな意味の分からない状況に放り投げた神様も、

 石を全力でぶん投げてくる民衆も、


 すべてを憎んだ。


(ーーーん、なんだアレ?)


 ふと、


 曇り空の広がる視界の隅っこに、何か小さな文字を見つけた。

 さきほどは民衆たちの色に紛れて気が付かなかったが、

 何か書いてある。


(スキル:破滅回避【EX】?)


 ……なんかあった。


 いや、これがアレか!

 「いちおう、わしも手助けするつもりじゃ」

 神様が言っていた、手助けというやつか!


 スキルを意識した瞬間、頭の中に一つの選択肢が浮かんだ。


『怒りに任せて、叫べ』


(はぁ?)


 有名な猫ミームが頭に浮かぶ。

 叫べって、何を?

 よく分からない。


「言い残すことがないなら、直ちに処刑を行う!」


 ぐずぐずしている私を見かねた処刑人が、

 苛立ちながら言った。


(ヤバいヤバいヤバい!)


 何か、何か叫べ!


 広場を埋め尽くす民衆を見ながら、


「アハハッ、見ろ!

 人がゴミのようだ!!

 アッハッハッハッハッハッハッ!!」


 何がなんだかよく分からなかったので、

 とりあえず私は、ムスカ大○になった。


 突然の出来事で、

 その場にいた全員がポカンと放心状態になる。


 次の瞬間、


ーーーバァァァァァァァァッン!


 バルスの如き閃光が瞬き、

 広場の真ん中で、大爆発が起きた。


 民衆が、民衆だったモノが、ゴミのように吹き飛ぶ。

 ただ、私自身も暴風に吹き飛ばされて、処刑台から転げ落ちた。


「目がっ、目がぁぁぁぁぁぁぁ!

 うっ、ケホッ、ケホッ」


 閃光による立ちくらみと、全身を襲う激痛を感じながら、埃に咽ぶ。


 何が起こったのか状況を確認するために、周囲を見渡す。


 私のようにうめき声をあげたり、

 頭から血を流していたり、

 そもそも頭を失った民衆が目に入った。


「なにこれ、どういうこと!?」


 たしかに私は「人がゴミのようだ」と言ったが、

 こんなスプラッタ映画のワンシーンを見たかったわけじゃない。


「お前がヴィオレッタだな」


 驚いて固まっていると、目の前に長身の男が現れた。

 すっごい端正な顔立ちをしているが、目がめっちゃ怖い。

 なんかじっと私を見ている。


(ーーーって、私がヴィオレッタか!)


「えっと、はい」


「お前には、俺の国に来てもらう。

 拒否権はない」


「え、ちょ」


 男はそう言って、私を脇に抱えた。

 そしてそのまま、男はすごい速度で駆け出した。


(あれ、いちおう破滅回避はできたけど、

 別の破滅に向かってないコレ?)

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