Ep.15 エリートの掟
3 Years Ago
February, 2019
晴れ
Virginia Dam Neck, United States
海軍特殊戦開発グループ(DEVGRU)
(BUD/SとSQTという、一年近くに及ぶ地獄のふるいを生き延びた俺たち三人は、奇しくも同じチームへの配属が決定した。バージニア州に拠点を置く、DEVGRU……通称「SEALチーム・シックス」。SEALsの中でも、さらに選び抜かれた者たちだけが集う、エリート中のエリート部隊。俺の、贖罪のための戦いは、ここから始まる)
カリフォルニアの乾いた風とは違う、湿り気を帯びた大西洋の風が、バージニア州ダムネック海軍航空基地に吹き付けていた。
コロナドの訓練施設が、候補生をふるいにかけるための、剥き出しの闘争心と汗に満ちた場所だったとすれば、ここは全くの別世界だった。施設は近代的で、静寂に包まれている。すれ違う隊員たちは、誰もが歴戦の猛者特有の、静かで、しかし底光りするような鋭いオーラを放っていた。彼らの視線は、俺たち「新入り」を品定めするように、一瞬だけ鋭く突き刺さり、そしてすぐに逸らされる。そこには、あからさまな敵意はない。だが、もっと冷徹で、本質的な「問い」が込められているようだった。
――お前たちは、俺たちの背中を任せるに値するのか、と。
配属された「エコー分隊」のブリーフィングルームで、俺たちは、生ける伝説の一人、シニアチーフ・マーク・ジャクソン、コールサイン「ストーン」と対峙していた。彼は、ハリウッド映画に出てくるような筋肉質の英雄ではなかった。中肉中背で、その顔には深い皺が刻まれ、静かな瞳は、まるで全てを見透かすかのように俺たち三人を順番に見た。
「Welcome to Echo(ようこそ、エコーへ)」
ストーンの声は、静かだが、部屋の隅々まで響き渡った。
「First of all, let me tell you that the trident you have in your chest is just a key to unlock the door here. No one cares about your heroic tales at BUD/S or your outstanding performance at SQT. The only thing that matters here is whether you can give your all for the team.(まず最初に言っておく。お前たちの胸にあるトライデントは、ここのドアを開けるための鍵に過ぎない。BUD/Sでの英雄譚にも、SQTでの優秀な成績にも、誰も興味はない。ここで問われるのはただ一つ。チームのために、自分の全てを捧げられるかどうかだ)」
その夜、割り当てられた宿舎の部屋で、ブラッドが苛立ったように言った。
「...What's with that attitude? We overcame that hell to get here.(……何なんだ、あの態度は。俺たちは、あの地獄を乗り越えてここに来たんだぞ)」
「Can't be helped, Brad(仕方ないさ、ブラッド)」クリスが、静かに装備を整理しながら答えた。「To them, we are still unknown quantities. Trust can only be shown through actions, not words.(彼らにとっては、俺たちはまだ未知数なんだ。信頼は、言葉じゃなく、行動で示すしかない)」
クリスの言う通りだった。ここは、すでに完成された「家族」の中だ。俺たちは、その家族の一員になるための、新たな試練を課せられている。
三日後、その「テスト」は行われた。人質救出を想定した、実弾によるキルハウスでの演習。敵役は、ストーンたちベテラン自身。
「Within 30 seconds of entering, secure the hostages and neutralize the enemy.(突入から三十秒で、人質を確保し、敵を無力化しろ。――開始しろ)」
ストーンの言葉を合図に、ブラッドが先頭でドアに突進する。俺とクリス、そしてジェスターを始めとするベテランたちが、彼の背後に続く。
ドアが蹴破られる轟音と共に、閃光弾が投げ込まれる。強烈な光と音が、狭い空間を支配した。硝煙と埃が舞う中、ブラッドが獣のように突入し、入り口に最も近いターゲットを瞬時に無力化する。ジェスターたちが、流れるような動きで後に続き、アイコンタクトだけで担当セクターを制圧していく。それは、何百回と繰り返されてきた、洗練された死の舞踏だった。
俺は、最後尾から全体の状況を把握し、死角をカバーする。右手の通路から、銃口の閃きが見えた。ストーンだ。
「Passageway, right! One enemy!(通路、右!敵一名!)」
俺の叫びと同時に、クリスが寸分の狂いもなく通路に向けて二発の弾丸を送り込む。
だが、その一瞬の攻防が、俺たちを危険に晒した。ブラッドが制圧したはずの部屋の奥、家具の陰から別の銃口が覗く。彼の狙いは、ブラッドの背中だ。
「Brad, get down!(ブラッド、伏せろ!)」
俺は叫びながら、ブラッドの横をすり抜け、ターゲットに向けて発砲する。同時に、敵の銃も火を噴いた。俺のプレートキャリアに、鈍い衝撃が走る。「ヒット」判定だ。だが、俺の弾丸もまた、彼の身体を捉えていた。
残るは、人質のいる最深部の部屋。ストーンがそこにいるはずだ。
ブラッドが、俺の肩を叩き、無言で前に出る。俺たちは、三位一体となって部屋に突入した。ストーンは、人質を盾にするようにして、こちらに銃口を向けていた。絶望的な状況。
その瞬間、クリスが動いた。彼は、ストーンの肩と、壁とのわずか数センチの隙間に向けて、一発の弾丸を撃ち込んだのだ。狙撃されたと錯覚したストーンの身体が、コンマ数秒、硬直する。その隙を、ブラッドは見逃さなかった。彼は、弾丸のように踏み込み、ストーンの銃を叩き落とすと同時に、その身体を壁に叩きつけた。
「All clear!(オールクリア!)」俺が叫ぶ。タイマーは、二十八秒を指していた。
演習後、ジェスターが、ニヤニヤしながら俺のところにやってきた。
「Good job, Newby. You've got my back. But you're dead too.(やるじゃねえか、ニュービー。俺の背中を取るとはな。だが、お前も死んでるぜ)」彼は、俺の胸を軽く叩いた。「Well, a draw would be great. You're welcome, brother.(まあ、相打ちなら上出来だ。歓迎するぜ、兄弟)」
その一言が、分厚い氷の壁を溶かした。俺たちは、まだ家族ではないかもしれない。だが、間違いなく、エコー分隊というチームの、本当の一歩を踏み出したのだ。
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