第3話  『神、堕天する』


ノベルは帰りかけていた冒険者に声をかけ、

整理券18枚を全て、その場で売り捌いた。


そして、タバコ──ゴッドブレス──を三十人の荒くれ者に配り、

低く笑って命じた。


『お前ら、街じゅうで吸い散らかせ。

煙を撒いて、嗅いだ奴らを欲しがらせろ。

──ニコチン中毒者を量産するんだ』


頭のシャイニングヘッドが、禿頭をギラリと光らせる。


『おいノベル、タダで貰っちまっていいのか?』


『かまわねぇ。欲しくなったら──言え』


禿頭がさらに煌めいた。


『でもよ、これ体力落ちるし、健康にも悪いんだろ?

俺ら腕っぷしが全てだ。ギルマスに迷惑かけりゃ、仁義に反する』


『仁義?笑わせんな。いいから吸え、後悔はさせねぇ』


シャイニングヘッドはしぶしぶ火をつけた。


一口、深く吸い込む。


『……な、なんだこれ、身体の芯から力が湧いてくる…!

心まで澄んで、落ち着いてきやがった…!』


ノベルはニヤリと笑った。


『ああ、これがゴッドブレスだ。

神の加護つき、全パラメーター二割増しのバフ──依存性つきだ』


次の瞬間、荒くれ者たち全員が一斉に火をつけ、

白煙が辺りを満たした。


神はその光景を見て、深く頷いた。


『なるほど、こうして信者は増えるのか……

これなら神同士の裏取引にも使えるな。

連載会議も裏で操れる。


神集者め──

俺をただの足に使いやがって。

お前の異世界牙城、俺が終わらせてやる』


男たちは歩きタバコをしながら、ゾロゾロと生産地へ向かった。




ノベルは畑を前に立ち止まり、

冷たい声で言い放った。


『撒け。ニコチアナ・タバカムだ。

光好性種子、深く埋めるな、表面にばら撒け。

七〜十日で芽が出る──それが新しい信者だ』


シャイニングヘッドは額に汗を浮かべた。


『ノベル、ここ……誰かの畑じゃねぇのか?

勝手に撒いたら、仁義に反するだろ』


『お前は仁義しか言わねぇな。

安心しろ、この土地はもう俺のものだ』


そこに異世界農家が現れる。


『こんちわ、ノベルさん。今日から始めるんですか?』


『ああ、生産開始だ。イクオ、指示しろ』


現れたのはイクオ──元・車のディーラー、

ブラック企業で心を潰された異世界主人公だった。


『ノベルさん……例のものは?

あれがないと、俺は……』


『心配するな。お前はもう救われる』


ノベルは、イクオの裏ポケットにタバコの箱をねじ込んだ。


『あっっっっ!!』


イクオの手は震えていた、顔を真っ赤にして小屋の裏へ駆け込み、


『アーーーーーーッ!!!!』


絶叫が響き渡った。


神は目を閉じ、ゆっくりと頷いた。


『分かるぜイクオ、ノベル……お前、教祖の資質があるな』


ノベルは口角を上げる。


『ああ、これが“仲間の増やし方”だ。

最近は一話目で、誰かを殺して仲間を引きこむ、お涙ちょうだい入会方がテンプレだろ?

──俺は煙で繋ぐ。これが俺のやり方だ。


ここはイクオに任せておけば大丈夫だ。

俺達は次の事業に移る』



ノベルと神は街へ戻った。

そこで待っていたのはギルマスだった。


『ノベル、準備は整ったぜ』


無言で頷くノベル。

三人は中心街から少し離れた白い一軒家へと向かう。

周囲から隔絶された、妙に清潔感のある家だった。


ギルマスはドアを開け、中に入る。


『おいノベル、神様、入れ! いいもん見せてやる!』


二人は顔を見合わせ、足を踏み入れた。


神は思わず息を呑んだ。


『……なんだ、この綺麗な室内は。

まるで別世界じゃないか……これが、俺たちの寝床か?

そうだよな、そうに違いない』


ギルマスは肩を震わせながら笑いを堪える。


『ああ、そうだとも。

ここが……神様の“ずっといる場所”になる』


その言葉に、ノベルの鋭い声がかぶさった。


『神、ここはお前の職場だ』


神の目が丸くなる。


『職場……?』


ノベルは一歩踏み出し、淡々と告げる。


『清潔な空間、白衣、聴診器。

屋根裏には小さな研究所も作っておいた』


神は慌てて手を振った。


『お、おいおい! どういうつもりだ!

俺は神だぞ!? 医者じゃない! なんで俺が──』


言い終わる前に、ノベルが白衣を神の肩にかけ、

首から聴診器をぶら下げる。


『似合うじゃねぇか、神』


ノベルは満足そうに笑い、手を叩いた。


『よし、準備完了だ──

ここに禁煙外来を設立する!!』


笑い転げるギルマス。

神はその場で固まった。



『禁煙……外来……?

お、俺がやるのか……?』


ノベルの笑顔は悪魔のように光った。


『ああ。

お前が神なら、魂と肺を救え。

──さあ、患者(信者)を呼び込むぞ!!』

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