第4話  『元悪役令嬢、真の女王様になる』



男三人がわちゃわちゃやっているところに、カツ、カツ、カツ、とヒールの音が響く。ドアがゆっくりと開き、赤いナース服に身を包んだ絶世の美女が現れた。空気が一瞬、凍りつく。


「よく来てくれたな、ローゼ」


ノベルは立ち上がり、胸を張る。


「彼女はローゼ。異世界主人公早期退職プログラム、第1号として転職を支援した元・悪役令嬢だ」


ギルマスと神は同時に絶句した。


「お、お前……悪役令嬢をリクルートしてきたのか……!?」




ローゼは優雅にカーテシーをし、甘やかに笑う。


「お初にお目にかかりますわ。ワタクシ、ローゼリア・フォン・バーネット。どうぞローゼとお呼びくださいませ。ノベル様よりスカウトを受け、その熱きミッション、ビジョン、バリューに心震え、ここで働かせていただくことにいたしましたの」


神は思わず立ち上がり、感動で手を叩いた。


「ノベル……お前、やはり良い仕事をするな! こういう優秀な人材こそ、神の下で働くべきだ!」


ノベルは満足そうに頷く。


「神よ、やっと分かったか。ローゼ、神に理念を叩き込んでやれ」


そう言って、ノベルは彼女に黒革のムチを手渡した。ローゼは微笑み、カツン、とヒールを一度鳴らして姿勢を正す。


「それでは──ミッションから参りますわ」


バシィッ!! ムチが空気を裂き、壁に文字が浮かび上がる。


『ミッション』──異世界テンプレを打破し、物語に創造性を取り戻す。

『ビジョン』──勇者も魔王も、健康で文化的なセカンドライフを送る世界。

『バリュー』──禁煙・禁ハーレム・禁追放系。



「……以上ですわ。さあ、理念を胸に、患者をお呼びしましょう?」


神は震えていた。


「……これだ! これこそ俺が求めていた神の仕事だ!!」


ギルマスは青ざめながらぼそりと呟いた。


「……こえぇ、完全に女王様じゃねぇか……」



ノベルは口角を上げ、静かに笑った。


「それでいいんだ、ローゼ。……それがお前の存在意義だろう?」


ローゼはゆっくりとムチを肩から滑らせ、自分の腰に巻きつけると、妖艶に微笑んだ。


「ええ──これこそがワタクシの生きる意味ですわ」


彼女は片足を組み、椅子に腰かける。ムチを指先で弾き、ムチが空気を裂く音と共に、彼女は高らかに宣言した。


「ワタクシは元・悪役令嬢、婚約破棄と国外追放をコンプリートした、悲劇と美貌の女王様。だからこそ言わせていただきますわ──勇者も魔王も、この世界の豚どもは、全員ワタクシの下僕ですの!」


ギルマスが背筋を凍らせる。


「お、おいノベル……こいつマジで世界征服する気じゃねぇか……」


ローゼはさらにムチを『パシンッ』と鳴らす。


「勇者はワタクシの足を磨き、魔王はワタクシのティーセットを揃え、ギルマスはワタクシのヒールを脱がせる役。そして残りの豚どもは、ハァハァ言いながらひれ伏していれば良いのですわ!!!」


『パシイイイン!!!』


ムチの先が壁に突き刺さり、「YES, QUEEN!!」の光文字が炸裂。神は両手を広げ、感涙。


「これだ……!これぞ神罰……いや、神託だ!!!」


ノベルは腕を組み、満足げにうなずく。ローゼはクルリと振り返り、冷笑を浮かべる。


「お客様は……全員まとめて、ムチとカウンセリングで根性を叩き直して差し上げますわ♡」


ギルマス(小声)

「勇者より勇者だし、魔王より魔王だな……こんな即戦力な人材、居るもんなんだな…」

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