第3話 鼠を飼う
エリーは深い森の中をたった一人で走っていた。樹皮を編んで作られた襤褸のサンダルは今にも千切れそうになっている。
背後からは地面を蹴る鈍い音が聞こえてくる。茶色い毛皮をした大きなものが低い唸り声をあげ、少女を追いかけていた。熊だ。
熊とエリーの距離は次第に縮んでいく。小さなエリーの足では追いつかれてしまうのも時間の問題だった。
エリーが走っていると、熊は突然苦しそうな叫び声を上げた。突然の出来事に振り返ると、熊はもう彼女を追ってはいなかった。そこにいたのは宙ぶらりんになる熊と、熊を咥えた化け物だった。
大きさは熊の五倍はある。大きな体躯は緑色をしていて、表面はざらりとしている。爬虫類のような見た目だ。熊を咥えた口からは大きな牙が覗いており、あれに噛まれたらひとたまりもない。
「最悪」
エリーは思わず呟いた。彼女の声は僅かに空気を揺らし、化け物に届いてしまった。
化け物の目がぎょろりと回ると、エリーの姿を捉えて離さなくなった。大きな熊をすっかり飲み込んでしまうと、化け物はエリーをまっすぐに見つめた。
追いかけてくる。
エリーは再び駆け出した。それはもう必死に、真っ直ぐに。
こんな化け物に捕まったら殺されるに決まっているが、彼女はこんな所で死にたくはない。
死にたいとは思っている。しかし、死ぬべき場所はここではない。彼女は故郷で死ぬという強い執念を燃やし、森の中を必死に走った。
森の中を走ってしばらくすると、並び立っていた木々が無くなり少し開けた場所に出た。エリーが逃げるので、化け物は食欲に駆られて足を動かした。
一瞬の出来事だった。化け物が開けた場所に足を踏み入れた途端、地面が盛り上がった。地面はそのまま化け物の体を覆い尽くし、その巨体を締め上げる。
化け物は絶叫しながらなんとか逃れようと上下左右にもがいた。しかしその土が力を緩めることはなく、体を締め上げる力を強くするだけだった。しばらく苦しそうな悲鳴を上げていた化け物だったが、不意に動物たちが一匹残らず逃げてしまうのではないかと思うほど大きな悲鳴を上げた。その声に苦痛を感じたエリーは思わず耳を塞いだが、それでも叫びは止まなかった。それは命が燃え尽きる前に全てを懸けて発された、化け物の最後の抵抗だった。
音が止むと同時に、何かが潰れる硬い音がして化け物の体は力無く項垂れた。変形した地面は力を緩め、化け物の巨体が地面に下ろされる。
エリーは目をみはって言った。
「やればできるじゃない。想定外の獲物だけどよくやったわ」
彼女がそう言うと再び地面が盛り上がった。それは細長い形を成して、みるみる人間になった。
黒くてまっすぐな髪の毛は少し長く、前髪は目にかかっている。しかしそれが妙に静かな色気を醸し出していた。顔を構成している部品たちはそれぞれが特徴的な雰囲気を持っており、いかにもロハンネ人の顔立ちをしている。目は力が入っていないような無気力さがあり、真っ黒な瞳は何も写しておらず、中身のない人形のようだった。
レンは下半身に見窄らしい布を纏い、上半身には何も纏っていなかった。
「地面と一体化して気配を消せば大きな獲物も簡単ですね。しかし、エリーを囮に使わねばならないのが難点です」
人の形を成したままレンが徘徊すれば、動物達は何故か怯えて遠くに逃げてしまう。だからこそ地面と一体化して気配を消すのだが、それだとレンがいる場所に獲物を誘い込む必要があったのだ。そこが難点だとレンは眉を顰めるが、すぐに化け物の体を担ぎ上げた。
彼は華奢ではない。見ればしっかりと筋肉がついているのがわかり、上背もある。しかし熊よりも遥かに大きな化け物を軽々と持ち上げるのを見ると、あまりに不自然な光景に誰もが目を疑ってしまうだろう。目立ちたくはなかったが、他にこの化け物を運ぶ方法をエリーは持ち合わせていない。大人しくレンの隣を歩くことにする。
元は熊や他の野生動物を捕まえて路銀を稼ぐ予定だったが、大物が引っかかってくれた。エリーはそんな大物を見た後、その下で担いでいる男の身なりを見た。
「それを売ったらどのくらいになるかしら。あなたと私の服を買えるぐらいのお金になると良いけど」
「私はお金とやらには疎いのでなんとも言えませんが、熊よりは高くなるのでは?」
レンの声音はいつも通りだった。それがなんともおかしい。大きな化け物を担いで歩いているくせに声の震えさえ見受けられない。それを不思議に思いながら彼女は手首に触れた。つい最近まであった腕輪はもうそこにはない。
この街に来て服を新調しようと話した時、エリーは服を着るのに腕輪が邪魔だと言った。奴隷として買われた際に鎖を繋ぐためにつけられた腕輪だった。逃げた先の村にある職人の店に忍び込んで鎖は断ち切ったが、金属の腕輪まではどうにもできず今の今までずっと付けていた。しかしエリーが邪魔だと言った途端、レンが腕輪を掴んだ。すると腕輪はあっけなく粉々になってしまったのだ。ゴーレムというのはすごい力を持っているらしい。
金属の腕輪を粉々にしてしまったレンを思い出しながら、化け物を軽々持ち上げて隣を歩くレンを見る。エリーの喉からはくつくつと笑い声が漏れた。それを耳にしたレンの表情もまた穏やかになる。
二人が歩いてしばらくすると、森を抜けて視界が開けた。距離はあるが、その先にはとある街が見える。それはサクターダという街で、二人が昨日から情報収集を始めた街だった。
二人が街に入れば、人々は目をまんまるにして道を開けた。大きな化け物を一人で担ぐ青年に驚くのも無理はない。エリーだって目立つ事はわかっているが、解体して運ぶのは時間がかかるのだ。せっかちなエリーは注目される事を我慢する道を選んだのだった。
街を歩いて商店街に入ると、買い取りを受け付けている商店が見えてくる。それは目星を付けていた店で、五日前に狼を一匹売ってエリーの履き物を買ったのだった。二人は迷いなくその店に歩いて行く。
店主は向かってくる二人にぎょっとした。
「ヤバい奴らがいるぞ。あれ、なんかこっちに歩いてきてないか?おい、俺を見てる。俺を見てる!」
妻の肩を叩きながら店主は言うが、その声は次第に小さくなっていった。
「い、いらっしゃい。あれ、この前の二人じゃないか」
店主は小さな声で来客へ挨拶をした。来客の身なりは見窄らしくいかにも奴隷だったが、大きな化け物を担いだ男がいれば誰だって気圧される。
レンは店の前に化け物の体を下ろした。大きな音が鳴り響き、通行人がこちらを見てはひそひそと話しだす。
「買い取ってくれ。それなりの額で頼む」
「あ、あぁ。ちょいと時間をくれ」
恐る恐る化け物の体を確認してみる。部位ごとに売り付けてくるのが普通だが、そのままの形で持ってくる客は初めてだったのだ。店主は面食らって金額を出すのに手間取った。
「こりゃガルガードだね。いやぁ、こんな大物持ってくるとは大した奴だ。ご主人は良い奴隷を見つけたもんだねえ」
二人は店主の言葉に反応せず、ただ黙って立っていた。やっと金額を提示されるとレンはエリーの方を見る。彼女が頷いたのを確認し、レンは金を受け取った。
金を受け取ったは良いが、目立ちすぎたせいで注目の的になった。エリーはまだ良いが問題はレンだった。化け物を担いで街に入ってきた男に人々の視線が突き刺さる。彼はナルノ人からの視線が集まると居ても立っても居られなくなり、エリーの肩を掴んで縋りついた。エリーは困って溜め息をつき、路地裏を利用しながら移動することになったのだった。
二人が次に向かったのは洋服店だ。前の町では身なりのせいでレンまで奴隷だと誤解されてしまい、情報収集に弊害が出ていた。その反省を活かし、きちんとした服を着ようと二人で決めたのだった。
街の中でも洒落っ気のある店に入るには勇気が必要だったが、レンにエリーの前を歩く気は微塵も感じられなかったので、仕方なくエリーが扉を開く。
からんころんと音が鳴り、店の主人が二人を見た。
「おや?見ない顔だね。そんな粗末なの着た人がどうしたんだい」
店主は小さな双眸をぱちりと開いて二人に近付いてくる。エリーはフードを深く被って答えた。
「私のご主人様はそれはもう辺鄙な田舎から出て来たものだから、街を歩くに相応しい服の選び方がわからないでいらっしゃるの。あなた、どうか普通の服を選んであげてくださるかしら?勿論、ご主人様に見合うように私にも服を選んでください」
エリーの言葉に服屋の店主は不思議そうに首を傾げた。
「辺鄙な田舎っつったって、なんでこんな奴隷みたいな格好…」
「ご主人様はいつまでも家に引き篭もっているから、ご両親に身包み剥がされて一人でやって行く力をつける為に追い出されたの」
エリーが答えると、レンは嫌そうに眉を顰める。自分が情けない男として紹介されている事に気付いて不愉快だったのだろう。
咄嗟に考えたおかしな作り話だったが、服屋の店主はなるほど、と言って納得してしまった。
「まぁ、ロハンネ人なら商売やるか家庭教師やるかして、一人で生計立てられるようにならなくちゃいけないもんねぇ。親がいなくなった時に一人で何もできないんじゃ困るし。でも息子の身包み剥がすなんて、ロハンネ人ってのは噂以上にケチなんだね。餞別くれたって良いのにさ」
ロハンネ人は彼らが歩んできた歴史から、世間的にはケチ臭いと言われることが多い。彼らの商売魂がそう言われる理由だった。エリーの作り話は偏見に助けられたのだ。
服屋の店主は二人を店の奥へ案内した。心なしか彼は意気込んでいるように見える。
「よし、僕がしっかりコーディネートしてあげるからね」
その言葉に困惑したのはレンだけではなかった。
「こ、こーでぃねーと?」
困惑したエリーの声を聞き、よく理解できなかったのは自分一人ではなかったと安心する。しかし、そんなレンの安堵はすぐに終わりを告げた。
店主は声を顰めたが、その声音は楽しそうに高揚している。
「やっぱ店にはナルノ人ばっかり来るし、ロハンネ人の金持ちはお洒落にうるさいし、お客にコーディネートなんてあんまり出来ないじゃないか。それに、ロハンネ人やフェルモマ人に服を選ぶ機会ってあんまりないでしょ?ロハンネ人はクセのある顔してて好きなんだよね。旦那男前だしさ。そこの奴隷の嬢ちゃんも美人に育ちそうな綺麗な顔してるし、服選ぶの楽しそう」
店主は相手が田舎者のロハンネ人と奴隷のフェルモマ人だからこんな事を言い出しているのだと悟り、エリーはうんざりして宙を仰いだ。普通の服でいいと言っているのに、この言い様だと好き勝手されるに決まっている。しかし、ここで大人しくしているのは彼女の性に合わなかったようで、店主に図々しく持ちかける。
「ご主人様は急いでらっしゃるのよ。でも、値下げしてくれるって言うなら少しは付き合っても良いわ」
服屋の店主はくしゃりと笑った。
「おや、ロハンネ人の商人みたいな事を言うね。主人が頼りないと奴隷がしっかりするのかな」
失礼な物言いに二人は眉を顰めるが、店主は軽快な鼻歌を歌い出した。こうして二人は多くの時間を費やされたのだった。
先に限界を訴えたのはレンだ。彼はナルノ人を苦手とする節があるし、エリー以外の人間には人見知りなのか、少々無愛想にする。肩に触れられると同時にもう我慢ならないと言うように、ナルノ人の店主の手を振り解いた。
「もう満足だろう。勘弁してほしい」
エリーは彼の声に隠された機嫌の悪さを感じ取ったが、店主は何も感じなかったようで呆れたように溜め息をついた。
「ロハンネ人ってもんは本当にせっかちだよ」
そう言って渋々二人に向き直ると、服の山を指して尋ねてくる。
「さて、目星はついたかい?」
レンはエリーに助けを求めるように視線を寄越した。彼は服の良し悪しが全くわからなかったのだ。エリーはそんな彼の視線をすぐに理解したが、どうもすぐには選べなかった。なぜなら店主が二人を着せ替え人形にして選んだ服はどれも派手で、服に疎いエリーですら市民が街を歩く時に着る服ではないとわかるほどだったからだ。
エリーは目を輝かせている店主を無視し、服の山ではなく店の棚に近寄った。彼女は棚から白いシャツを大きなものと小さなものの二着を取り、男性用の黒い下履きと、子供用のくすんだ青色のロングスカートを取った。替えの服や下着なども素早く取り出すと、彼女の頭にレンはゴーレムだという事実が過る。しかし、念の為彼の分の着替えも選び取ると、抱えた衣服を店主の前に出した。
「これでいくらかしら。ちゃんとまけてくださいね」
そう言う彼女に、店主の顔が曇る。
「ちょっと、僕が選んだ服から選んでよ」
「いくらかしら」
エリーの声は力強くなる。つべこべ言わずに会計をしろということだった。圧のある声を受け、店主は拗ねたように唇を突き出して値段を計算し始める。
店主から値段を聞くと、エリーは先程稼いだばかりの金をぴったり出した。
店内で着替えることにしたエリーは新しい服を身につけると、上から茶色のマントを被った。フードを深く被って大人しくレンの着替えを待つ。待っている間、エリーは破っちゃだめよと声をかけていた。案の定レンの着替えは遅かった。
着替え終わったレンを見ると、やっと用事が終わったという実感に身が軽くなったようだった。エリーは店主の方に向き直って頭を下げた。
「助かりました。ありがとう」
礼を言った後、彼女はレンの方を睨んだ。店主の対応は彼女がやってくれるのだろうと思いぼんやりとしていたレンは、一拍遅れてそれに気付くと慌てて店主に礼を言った。それがおかしかったのか、店主はすっかり機嫌を直して笑い始めた。
「はは!これじゃどっちがご主人様かわかんないね。フェルモマ人に尻に敷かれるような子じゃあ、心配になる親の気持ちもわかる気がする。しっかりしなよ。そんなんじゃ婚期が遅れて、相手してくれる女なんか見つからなくなるよ。服を買うついでに髪でも整えにいったら?」
せっかく身が軽くなったような気持ちがしたのに、用事が終わってもまだ喋り続ける店主が面倒になってくる。良い加減店を出たいと苛立って口を開くが、店主は思い出したようにあっと声を上げた。
「そうだ!最近ここらは物騒でね。小さい女の子が行方知れずになるって事件がちょくちょくあって、大人たちがピリピリしてんの。旦那もこの子に頼りっきりになって一人でお使いなんかさせたら、いくらこの子の気が強くっても連れ去られちまうかも知れないよ。気をつけてね」
「あ、あぁ…わかった」
レンが頷くと、店主は二人に手を振った。
店を出た二人は肩の力を抜いて、一緒に溜め息をついた。
「災難でしたね」
「本当にね」
しかし、もう身なりで奴隷と見間違われることはなくなるだろう。これからは何の支障もなく、目立たずに情報収集ができる。そう思っていた時だった。
「ねぇ、そこのお二人さん」
どこかで聞いたことのある声だった。愛想がよく、底抜けに明るい声。しかし何故か悪寒が走った。
振り返ると、そこには少年が立っていた。
短い茶髪に、大きな垂れ目。短いズボンからは少年特有の細い足が覗いており、その頭には変な形の帽子が乗っていた。
大商人フェリックスの情報屋であるスドゥだ。
二人が身構えると、スドゥは咄嗟に降参の構えをとった。両手を上げて攻撃の意思はないと二人に訴えている。その動きに違和感を感じ、エリーは眉を寄せた。
「何のつもり?」
彼女が問うと、スドゥは嬉しそうに顔を輝かせた。
「君たちの仲間に入れてほしい!」
「は?」
鋭い目付きが一変し、エリーの瞳は驚きで埋め尽くされた。彼女が驚きで固まってしまうと、レンが二人の間に入るようにして前に出る。そこでエリーは我に返った。
この少年はフェリックスの情報屋だ。何を考えているかわかったものではない。
「私たちがそれを信じるなんて本気で思ったのなら、あなたって相当馬鹿みたいね」
煽るような文句を聞いてもなお、スドゥの表情は余裕を醸し出していた。彼は楽しそうに目を光らせてエリーを見つめると堂々と言い放つ。
「僕はフェリックスの元情報屋だよ?交渉材料くらい持ってきてるさ」
そんなこともわからないのかとでも言うように彼は嘲笑した。その表情は自身に溢れている。
「そう身構えられると目立つし、僕は静かに話を聞いてもらいたい。どこかに移ろうよ」
そこで二人は人々の視線が集まっていることに気付いた。目立つのはまずい。ただでさえ目立ってしまっているのだから、これ以上目立つとすぐにフェリックスに居場所がバレてしまう。しかし、スドゥがここにいる時点でもうおしまいなのではないだろうか。もうすでにフェリックスにはエリーがサクターダにいると伝わっているのではないか。
混乱する頭で必死に考えるが、ふいにスドゥの様子が目に付いた。
「僕もフェリックスに見つかるとまずいし、ひとまずここから動こう。ね?」
その言葉が嘘だという可能性は十分にある。しかしスドゥの様子は落ち着かないようだった。それはまるでフェリックスに見つかりたくないと隠れるエリーのように、しきりに周りの様子を確認し、警戒している。
エリーはレンの裾を引っ張り、静かに言った。
「スドゥだけなら私でも勝てるし、他に仲間がいても人質にすれば時間が稼げるかもしれないわ。話だけでも聞いてみましょう」
それを聞いたレンは慌てて振り返るが、エリーが真剣な顔をしている時は逆らう方が面倒だと彼は知っている。納得はいかないが、大人しく引き下がった。
路地裏にある落ち着いた飲食店『パパリア』。外を歩いている人間に見つかりにくい立地は、今の三人にはもってこいの場所だ。
「ね、ねぇ」エリーは困惑した。「ここで出費するのは抑えた方がいいわよね?でも、何も頼まないっていうのは迷惑なお客になるんじゃないかしら」
レンは首を傾げた。長年森に引きこもっていたゴーレムには正解がわからない。
あたふたする二人に、テーブルを挟んで座っているスドゥが声をかける。
「あぁ、僕が奢るよ。フェリックスの所から逃げてくる時に結構盗んで来たんだよね」
スドゥが喋ると、二人の視線が同時に彼に向かった。いかにもお前を怪しんでいるぞという目だ。スドゥはそれに苦笑すると、懐からネックレスを取り出してテーブルに置いた。
「疑われてるね。僕がどういうつもりなのか説明する前に、まずは僕の言葉を信じてもらわなきゃ」
スドゥはネックレスをエリーの方へと近付ける。エリーはネックレスにすら疑いを持ち、体を後にのけぞらせた。
「何なのよ」
尋ねる彼女に、スドゥは答える。
「僕の心臓さ。ゴーレムでいうところの“核”だよ」
二人は言葉を失った。しかしスドゥは何でもないような調子で言っている。それは友人と会話をするように、至って自然な様子だった。
「僕が説明する間、そして僕が同行する間、君達が僕の心臓を持っていて欲しい」
嘘だとは思えない真っ直ぐな声だった。自分の心臓を相手の手中に収めるなど、正気とは思えない。しかもスドゥにとって二人は敵だ。レンはスドゥの仲間だったヴィルマンを気絶させた事があるし、エリーに至ってはスドゥを拘束し、「殺さなければ何をしてもいいと思ってる」と言い放った。いくら商人の仲間とは言え、普通はそんな相手に心臓を預けようとは思わないはずだ。
そう、“普通”ならば。
「何か事情があるの?」
スドゥは頷いた。エリーはスドゥをしばらく見つめ、視線をネックレスに移した。
手に取って見てみるとそれは小さなフラスコだった。中には白い何かが蠢いている。その動きには規則性があり、まるで鼓動のようだ。
エリーはレンに押し付けた。レンは驚くが、彼女は真剣な顔をしていた。
「あなたが持ってて。私よりあなたの方が奪い返される心配がないでしょ」
レンは大人しくネックレスを手に持った。脈動している何かが手の中にあるというのは少しばかり妙な気分になる。彼は手から目線を逸らして天井を見つめることにする。
エリーは姿勢を正し、スドゥの目を真っ直ぐに見つめた。
「ここまでされたら仕方ないわね。話を聞きましょう」
「僕はヴィルマンに作られたホムンクルス。作られた理由はフェリックスの役に立つ為だった」
スドゥは穏やかに話し始めた。
「これからもあそこにいたって良かったんだ。金だけはあったし。でもさ、せっかく生まれたなら楽しみたいと思ったんだ」
その時、スドゥの顔に寂しそうな暗い色が浮き出た。
「僕の仕事は勿論情報の管理。それと、頭だけは使えたからお金の管理もやったりしてた。商売相手のあらゆる情報や、どこにどれくらいの金が流れたか、誰が商談を担当したかの記録を管理する。これってフェリックスにとっては結構重要なポジションでしょ?」
エリーは驚いた。
「そんな立場にある人が逃げてきたら、あの人カンカンに怒っちゃうんじゃない?」
「勿論。フェリックスは金にも裏切りにも自分以外の責任にもうるさいからね。きっと今頃ヴィルマンが怒鳴られて、ハンルークあたりが宥めてるんじゃないかな。それほど僕の立場は必要不可欠だ。つまり、僕はあそこから離れられない立場だった」
少年の境遇がどんなものか理解したのか、普段は無表情なエリーの顔がみるみる変わり、同情するような顔になる。
「僕が回していた仕事も多いんだもの。勝手にどこかへ行ってしまわないように、僕の心臓は常に誰かが持ってた。大体はフェリックスが持ってたけど、この前みたいな出張の時はヴィルマンが持つ事になってる。何故なら僕はそのフラスコに設定された領域から外に出ると死ぬからね。気楽に旅行もできない」
少年の声は、最後の方だけ不自然に上がった。明るく言おうとしてくれた気遣いにエリーの胸が痛む。そんな彼女の心中などお構いなしに、無機質な声が発された。
「常に誰かが持っているなら、何故今貴様の心臓は私の手の中にあると言うんだ」
レンは断固としてスドゥを信用しなかった。人間のエリーとは違って人を信用しなくても生きることができるゴーレムは、情に訴えられると弱いエリーの役に立つことがある。
スドゥは焦る様子を見せなかった。訊かれる事がわかっていたのだろう、準備していたかのようにすぐに返した。
「僕たちの初対面覚えてる?僕はヴィルマンとペアだったんだよ。でも彼の顔はエリーに知られてたから、僕一人で君達を引き離さなきゃいけなかった。幸い僕はヴィルマンがフェリックスの為に作った最初の“子供”だったから信用はされててね。少しぐらいフラスコを持たせても逃げるわけないって思われてたんだと思う。いや、そもそもフェリックスはヴィルマンが作った子供に裏切りの想定もしてなかったろうね」
くつくつと喉が鳴り、スドゥは楽しそうに笑う。そんな彼を見てエリーは言った。
「あなたはずっとフェリックスから離れたかったの?」
スドゥの目が丸くなった。それを見て、エリーの目も丸くなる。スドゥは彼女と目を合わせると、おかしそうに吹き出した。
「はは!確かに暴力振るうし偉そうだし人使い荒いし金に細かいしすぐ人のせいにするし癇癪起こすしクズだけど、嫌いってほどでもなかったよ」
(そんなに沢山悪口が出てくるってことは、嫌いってことなんじゃないのかしら…)
頭の中で疑問に思ったが、スドゥの言葉の続きを待つ。スドゥの目は打って変わって真面目な空気を纏い始めた。
「でもさ、言っただろ?“これからもあそこにいたって良かった”って。これまでの短い人生でフェリックスを裏切ろうなんて思った事なかったし、今も裏切ろうと思って逃げ出してきたんじゃない。僕は君達に出会ったからフラスコを持って逃げてきたんだよ」
エリーの瞳が再び揺れる。予想外の理由に驚いてレンの方に目をやると、レンも驚いたのか僅かに眉が上がっていた。
「僕は君が好きだ、エリー。確かに僕よりは強いだろうけど、流石にヴィルマンには勝てないだろ?小さくてか弱いフェルモマ人の女の子なのに、堂々としてて偉そうだ。それに僕を縛って踏みつけにした時の君の目といえば、あぁ!思い出すだけで面白い!」
スドゥは大きな声を出す。
「あんな感覚初めてだね!フラスコは十分な大きさのはずだけど、縮んだんじゃないかってぐらい僕の心臓は激しく脈打って窮屈だった。これが恋ってやつかな?君達を見ていると知らないことばかり見えてくるようで楽しい」
知らないことといえば、と言って続ける。
「君もだよ、レン。君は謎に満ちてる。僕は君達が追ってるものも、君達の行く末も気になるのさ!レンの殺し方は見つかるのか、そしてあの大商人フェリックスから逃げ切れるのか。フェリックスの所で一生情報屋として変わり映えのない生活をするくらいなら、君達について行って色んなものを見る方が生きてるって感じがするだろ?これは賭けなんだよ。みんなはフェリックスが勝つと思うだろうけど、僕は君達に賭けている。勿論、僕の頭を君たちに貸してフェリックスに捕まらないよう手助けもするつもりさ。それに、僕が少しでも怪しい動きをしたら、その心臓は握り潰して貰っても構わない。だからどうか、僕を君達の仲間に入れて。君達の旅を見て楽しみたいんだ」
興奮しきったスドゥの声は店の中で注目を集めた。店で働く者や客からの視線に気付くと、スドゥは恥ずかしそうに咳払いをして縮こまる。
「ご、ごめんね。商人が多い街ではないけど、目立たない方が良いのに、僕ったら」
すっかり大人しくなった少年の様子を窺いながら、エリーは考えていた。
スドゥを仲間に引き入れられたなら、フェリックスとの勝負において強い駒になるのではないか。フェリックスの手の内も、周辺の人間達や縄張りの情報も握っているはずだ。それに世間知らずの二人には街に慣れているスドゥがいると心強いだろう。しかし、彼にはフェリックスの仲間であった事実がある。
信用したかった。でも怖い。信じて裏切られたら、また金属の手錠を付けられるかもしれない。また髪を引っ張られ、今度こそ全部切られてしまうかもしれない。知らない家に、酷い人に、売られてしまうかもしれない。
ふとレンを見る。エリーが唯一心から信用できる仲間は、彼女の隣に座っていた。彼は手の内でフラスコを転がしながら無表情でスドゥを見つめている。
そのまま視線をスドゥに戻す。スドゥの目には期待があった。これはエリーやレンのように生きる事を望まぬ者ができる目ではない。むしろ、生きる事を望む強い生者の目だった。
エリーは溜め息をついてレンの手に自分の手を重ね、フラスコを弄ぶ動きを止めさせた。
「レン。そのネックレスは私が持つわ。あなたいつ壊すかわからなくて怖いもの」
「エリー?」
「利用できるものは使わなきゃね」
レンは戸惑い、スドゥは飛び跳ねた。
「やったぁ!」
「でも」エリーは声に力を込める。「少しでもあなたが怪しい行動を取れば、私はこのフラスコを地面に叩きつけるわ」
エリーは人を殺したくはない。初対面の時、ホムンクルスだと言われてもそれが何なのかよくわからず、人の形をしていたせいで殺すことを躊躇した。しかし、今は彼が自ら“人間ではない”と認識させる材料を提示してきた。
「あなた人じゃないんでしょ?あなたを殺しても殺人にはならない。それにあなたが命を預けてきたんだから…仕方ないわ」
何かを殺害するというのは罪だと思っているが、エリーはレンを殺すという約束をしている。レンがそれを望んでいるからこそ、彼の命を握るのは良いと思っている。
スドゥもエリーに命を差し出してきたのだ。彼の命をどう扱ったって、もうエリーに罪など生まれない。
少しでも怪しい動きをしたら、殺していい。
「うん、そうだね。僕が決めたことだから責任は僕にある。君達にはない」
スドゥが満足そうに頷いたのを見て、エリーも頷き返す。レンは嫌そうに顔を歪めているが、大人しくネックレスをエリーに渡した。
そうして話していると、三人に声をかける者がいた。
「あのぅ、お客様。ご注文は…」
「あっ、ごめんなさい!」
スドゥとエリーは急いでメニューを開いたのだった。
結局エリーはスドゥに急かされて軽食を注文した。レンは食べなくても問題がないと言って頑なに選ぼうとしないので、彼の分は注文しなかった。
エリーが頼んだのは可愛らしい形をした焼き菓子パン。特徴的な結び目をしており、茶色い焦げ目が何とも美しい。スドゥも同じものを頼んで食べ始めた。菓子パンを食べてお茶を飲み、口の中に何も無くなる。そこでやっと改めて尋ねた。
「ところで、情報収集の方は順調かな?そういえば君たちは利害の一致で一緒にいるって言ってたけど、利害ってどんな?ゴーレムの殺し方なんて調べて何がしたいの?」
彼は本当におしゃべりな質のようで、一度気になることができると好奇心のままに聞いてくる。質問攻めというやつだ。
レンは面倒臭そうに眉を寄せ、威圧するように低い声を出した。
「自分の立場を忘れるなよ。質問ばかりしていればこちらの情報を探っているという疑いが生まれる。貴様は情報屋だからな」
レンの威圧的な態度は大人でも怯むような圧がある。エリーとの旅が始まったばかりの頃は、肩がぶつかったという理由で絡んできた面倒なナルノ人の男二人を震え上がらせていたほどだ。そんな彼の威圧すら軽く受け流してしまうのがスドゥのすごい所だった。
「落ち着きなって。目的がわからないと協力のしようもないだろ?」
二人の間に火花が散る。レン一人ですら扱いに困っているというのに、一癖ある旅の仲間が増えたことでエリーの心労も増えたのだった。
「二人とも落ち着きなさい。でもそうね、今私たちに出来ることはレンの殺し方を探すことしかないの。それが見つからないと進めないから」
しつこく聞かれると身構えていた二人だったが、予想は外れ、スドゥはエリーの言葉を聞いてすぐに頷いた。
「そっか。見つけないと進めないということは、レンの殺し方を見つけないと出来ないことが君たちの目的なんだね。じゃあまだ知らなくたって、情報を収集することに集中すれば僕は役に立てるってことになる」
「そ、そういうこと」
「了解したよ。なら今の時点で君たちが得た情報を教えて。僕の方でも把握しておいた方が色々とスムーズだしね」
彼は物分かりが良いようだった。エリーの言葉からすぐに状況を把握し、知らなくていい情報は無理には聞かない。とにかく今やれることをやるという方向に切り替え、手帳を取り出しペンを走らせた。
「とにかく僕が教えた情報は知っているよね。他に得た情報はある?」
エリーは困ったように答えた。
「それが、ゴーレムの殺し方なんて聞いても返ってくる答えは同じなのよ。だから、ゴーレムは体にある印を消したら体の形を保てなくなって崩れるっていうのと、核を破壊したら死ぬってことしか知らない」
「だろうね」
エリーの話に相槌を打ちながら、スドゥは手帳に書き込んでいく。その様子を見てエリーは続けた。
「あと、レンは核を破壊することだけは嫌がるっていうのも追加して」
「ちょっと、エリー!」
嫌味のように言うエリーに居心地を悪くし、レンは彼女の肩を掴んだ。
「本当に核を破壊するだけで死ぬのなら、あなたの護衛をするゴーレムは今ここにいませんよ!」
騒がしくなる二人を無視し、スドゥは手帳に書かれた字と向き合った。しばらく考えふと顔を上げると、二人に問いかける。
「そうだ。そこらへんを歩いてる普通のゴーレム…あぁ、モダンゴーレムっていうんだけど、彼らの核は魔術石ってもので作られてるのは知ってる?」
エリーとレンはぴたりと動きを止めると、スドゥの方を向いて首を横に振った。初めて聞く情報だった。
ぽかんとしている二人を見て、スドゥはやっぱりねと溢した。
「当たり前の知識すぎて話題に出されなかったんだろうね。ほんと、君たちって世間知らずだよ。ブラックヘイデイが黒魔術で作られたゴーレムなら、モダンゴーレムは現代魔術だ。黒魔術よりも簡略化されていて比較的多くの人が気軽に扱えるようになってる。魔術石は現代魔術においてオールマイティなアイテムで、魔力が込められた特殊な石のことだよ。ゴーレムの場合、その魔力を源として生きている。だから破壊されると死ぬんだよ」
そこまで言うと、スドゥはレンの目を見つめた。
「レン。君の核は何かな?」
その問いに、レンは言いづらそうにして黙ってしまった。それを見かねてエリーが横から言葉を挟む。
「“貰い物”だそうよ」
「貰い物?」
スドゥの声はレンを急かす。レンは抵抗を抑え込み、ゆっくりと声を絞り出した。
「人のもの、だ。少なくとも石ではない」
「そっか。それが本当なら君がモダンゴーレムではないことは確定だね。それが人や動物の毛とか腕とか臓器とかでもないならブラックヘイデイでもないだろう。どう?」
レンが頷いたのを確認すると、スドゥは続けた。
「じゃあ、核を壊しても死なないような、何か特別なゴーレムって可能性が高いわけだ」
スドゥの目が楽しそうに光る。
「良いね、楽しいね。謎解きは大好きだよ」
そう言って手帳に書き加えながら、彼は独り言を呟き始めた。
「核を破壊しても死なないということは、核は別の機能を担っているのかな。もしや印の機能?だとして、核の機能を担っているのはどこだろう?僕が知ってるゴーレムにはこんなものいなかった。新しい魔術?それとも黒魔術をいまだに継承している違法魔術師の仕業か?いや、レンは大昔の生まれだって言ってたから、その線はなしか。なら古い魔術で作られているはずだから、調べれば残っているはずだけど……クソ、フェリックスが全然本を買ってくれないから」
スドゥは考え始めると止まらない人のようだ。レンやエリーが声をかけても気が付かない様子で、何かを呟いては手帳に書き込み、消してはまた書きを繰り返していく。エリーはスドゥと話すのは諦めて、彼が呟いている間に自分の分のみならずスドゥが頼んだ菓子パンまで全て平げた。
しばらくして顔を上げると、スドゥは息をついた。
「いやぁ、聞いたこともないよ。もっと情報が必要だな」
そこで彼の視線がテーブルの上に移った。そこにあったはずの菓子パンがなくなっていることに気付くと、にこりと笑って席を立った。
「丁度いい。情報も欲しいし、そろそろ店を出ようよ。ずっと同じ所にいるのも危ないしさ」
「そ、それもそうね」
怒りもしないスドゥに、エリーはかえって驚いた。
二人が席を立つ間、スドゥはカウンターの方へと進んで行った。見るともう会計を済ませている。エリーは慌てて駆け寄って鞄から金を取り出そうとするが、スドゥはそれを止めた。
「言ったろ?フェリックスから結構な額盗んできたんだ。あいつの金で美味しいもの食べるの、ちょっといい気味だろ。君の髪の毛に比べればこのくらいなんてことない。罰なんて当たらないさ」
エリーの髪の毛はフェリックスに切られてしまったのだ。それを考えたら、確かにいい気味だと思えた。
それにしても、スドゥが髪の毛のことを知っているとは。いや、エリーが驚いたのはそこではない。彼はエリーの髪の毛を切られたことをフェリックスの非だと思っているのだ。そして、エリーの気が晴れるような言い方をしてくれた。それが彼女の心に響いたのだ。
「ありがとう」
感謝の言葉に、スドゥは満遍の笑みを溢した。
こうして旅の一行は三人に増えたのだった。彼らは情報の専門家を迎え、再び情報収集に戻った。しかし、この街に来てから目立ちすぎたせいで少々動きづらくなり、スドゥからもレンの噂が広がっているという報告を受けた。
スドゥは人々の噂をよく掴んできた。彼が言うには、モンスターを抱える怪力男の噂が特に大きくなっているらしい。実際彼らが情報収集で手こずった原因はレンを見る人々の目と対応だった。彼を見て何かを話しだす人もいれば、彼が近付くと怖がって逃げる人もいた。情報を集めているのはレンのためだというのに、当の本人が収集で一番邪魔になっていた。
スドゥはとにかくこの街を離れようと提案した。この街にフェリックスの仲間が来れば、レンの噂などすぐに聞きつけて見つかってしまう。スドゥの必死な様子を見ると、彼がフェリックスの元から突然姿を消した事も、フェリックスの金を少しくすねてきた事も、フェリックスに見つかればエリーだけでなくスドゥもただでは済まされない事も事実のようだ。
勿論エリー達も見つかることは避けたかったので、一行はすぐに街を離れてすぐ隣の街に移ったのだった。
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