第4話



「話には聞いてたけど、劉備りゅうび殿って噂通りの人なんだね」



 寝台で、馬岱ばたいが目を覚ましていた。


「なんだ起きていたのか。だったら劉備殿にきちんと挨拶くらい……」


 ニコニコとしている馬岱に、馬超ばちょうは一瞬間を置き小さく息をついた。


「まあいい……そんな寝癖でボサボサの顔で主君に挨拶するのもかえって失礼だからな……日を改めてちゃんと挨拶に行こう」


「へへ」


「なに笑ってる」

 馬超が不満顔をした。

「いや……成都せいとに兄貴が入ったことは聞いていたけど、ちゃんと好意的に迎えて貰ってるのかなあって心配してたから。本当だったから、嬉しくて」


 相変わらず暢気なことを言う従弟だった。

 これでは兄らしく説教をなどと意気込んでも、毒気を抜かれる。


関羽かんう殿が江陵こうりょうに行くらしい」

「うん。聞こえてた。どんな人?」


「立派な武人だ。劉備殿の大望の為に、ご自分の全てを尽くしておられる。

 勇猛だが俺のように軽薄な所がない。慎重で揺るぎない。

 あの方が江陵に入られれば、孫呉も迂闊な動きは出来まい」


「ふーん。

 兄貴がそう言うならそうなんだろうけど。

 でも劉備殿、張飛ちょうひ殿、関羽殿は流浪時代からどんな時も共に過ごした三人だって聞いたよ」


「その通りだ」



「つまり、離れることに慣れてない。

 あの三人は一緒にいなきゃいけない人達なんだよ。

 そういう人達がバラバラになると、駄目になることがある」



 馬超が思わず、馬岱を見た。

 馬岱ばたいはニコッと笑った。


「だからちゃんと見ておいてあげないと」


 馬超は瞬きをしてから、半眼になる。

 盛大に溜息をついた。


「早く怪我を治せ、馬岱。

 関羽殿が江陵に行く前に、どうにかお前に数日修練を施して頂いて、扱いてもらいたい。

 あの御仁の槍を受けたらお前の暢気も少しは治るだろうよ。

 間に合わなかったら江陵にまで指南を受けさせに行くからな」


「江陵なら長江ちょうこうの側だ。

 おれ、長江はまだ見たこと無いんだよ。

 兄貴はある?」


 口笛を吹いて目を輝かせた馬岱ばたいに、馬超は口許を引きつらせた。



「――馬岱!」



 遊びじゃないぞ、と素早く緊張感のない従弟の首を絞めに掛かる。



「あ~~~~~~! そんなに全力で絞めたら傷に響く!」


「さっきまで間抜けヅラで緊張感なく寝てただろ!

 こんな時だけ痛がるな!」


「兄貴は馬鹿力過ぎんの!」

「誰がバカだ!」

「わーっ! 違う違う! 頭がバカって言ったんじゃなくて力の加減が……」


「誰が力の加減が出来ないバカだ!」


「違うってば! お願いだから話ちゃんと聞いて⁉」



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