第2話

2話



 空腹の無一文2人。

 食×水浴び×無料=川にでも行くか。

 

 川って流されたり硬いモンスター(主にカニ)が居たりのイメージだけど動かなければ餓死だ。

 早々に出発。

 森のなんとなく湿っている方に行けば着くだろう。



 妙だ・・・モンスターが全く来ない――

 木の裏にケルベロス!

 動かない、気絶している。

 見ると、3つの鼻を痙攣させて3つの口から嘔吐している。

 そうか悪臭も犬の嗅覚で3倍拾うのだろう。

「何事も使いようだな」

 使い・・・。

「あぁごめん」

 多分そういうワードに敏感だろう。

「ぜんぇん」

 弱々しい声。

 ・・・飯が先か。

 試しにケルベロスの"首元"へ思いっきりボロ剣を振り下ろす。

〈ベチッ〉

{critical! 6damage}

 首が"弱点"か!ダメージが通ったぞ!

 けど時間がかかる――

〈ベキョッ〉

{critical! 6damage}

〈バゴョッ!〉

{critical! 6damage}


〈ガサガサッ〉

 斜め後ろの茂みが揺れた。

 低い。

 真っ白なイタチだ。

「(こっち来て・・・!)」

 小声で赤髪の子([サヤ]と名付けるつもり)を呼ぶ。

 熊に遭ったかのように、目を合わせながらジリジリと後退しつつ観察する。

 {ステンチイタチ 臭いものに敏感 出没はごく稀}

 緑の中を白い体で悠然と歩んでくる様はボス・番長の風格。

 ズンズンと[サヤ]に近づいていく。

(危ない!)

 間に入ってボロ剣の剣先を置く。

 

 白イタチは水色の目をくりくりとさせて特に襲ってくる気配がない。

〈クククク〉

 物欲しそうに鳴いている。

〈キー、キーキー〉

 二人でそろーそろーっと離れようとするがついて来る。

 サヤの足に体をくねらせ擦り付けてようとしている。

(これは・・・求愛?)

 警戒して川へ向かおう。

 

 途中で美味しそうな実、{ロモンの実 毒はない}がなる木を見つけた。

 小さなメロンぐらいの大きさの実。

 ボロ剣を何度か振って枝を切る。

(この剣って木の枝もワンパンできないのかよォ〜!)

 2つしか取れなかったが1つをイタチと半分こした。

(媚びを売っておきたいしな)ヌッ

 中にはつぶつぶの種が多くあって食いづらいが甘酸っぱくて美味い。

「んぅ〜!」

 サヤは夢中で丸々一個にかぶりつきガブガブズルズルと高速で食べている。

 皮ギリギリまで、種まで食べている。

 白イタチも種をバリボリと食べ、汁をすすっている。


 一息ついていると木の陰からサーベルを持ったサルが来た。

 グレーの体で顔と尻は赤い、[サーベルマントヒヒ]だ。

 果物に反応したのか縄張りだったのか。

 剣を構える。

 走り向かってきた瞬間——

〈ジイィィィィ!バゴオォォン〉

{177damage!}

 白いイタチのお尻付近から蒼いビームが出ていた。

 黒煙があけても中には何も居なかった、[サーベルマントヒヒ]は消し飛んだのだ。

 {ヨウ Lv1→3 ハヨシロを覚えた!  サヤ Lv1→3 ボヤヤを覚えた!}

 戦いをじっと見つめているだけでも多少は経験になるらしい。


 あっけに取られているとまた〈キーキー〉とサヤの足へすり寄っていった。

 恐る恐る頭を撫でようとするサヤ。

「病気持ってるんじゃ——」

 言いかけると白イタチはギッとした目で振り返ってきた。

(言葉分かるのか!?)

 あんなビーム打てるならそれぐらい分かるかもしれないし、これなら寄生虫いても自力で殺せるだろうか。

 すっすっと頭や首を撫でられてご満悦。

 開けた口から鋭利な牙が見えるもサヤを噛むことはなく、舌をベロンベロンに放り出していた。

 

 川に着いた。

 魚や色々な山菜・貝類が目白押し!

(・・・この世界って寄生虫とかいるのか?)

 念じてヘルプ画面を出す。

{Q寄生虫はいる? Aキミの目で確かめてみよう!}

(なんのヘルプにもならねェ・・・!)


 まずはサヤの"風呂"だな。

「これで拭い・・・ちょっこの剣は布も満足に切れっフンッフンッ。はい」

「ありがとぅ」

 [布の服]をいくらか切って拭く布をサヤに渡した。

 [ボロ切れ]になったけどまあお揃いでいいか、守備力1しか落ちてないし。

 浅瀬かつ滑りづらそうなところでサヤを水浴びさせる。

 その間に自分は山菜取りだ。

 {ナニソンガラシ 辛味がある}

 食えそうだな。

〈ブヂッ〉

 {イイネヨシ 芽は柔らかい}

 芽だけもらっていくか。

〈ブチチッ〉

 サヤは水をすくってピチャピチャかけて洗っている。

(平気っぽいな。おっ依頼のハイクスリ草もあるぞ!)



「ふぅ・・・こんなとこでいいだろう」

 片手で抱えられないぐらいには葉が集まった。

 サヤを見ると[ボロ切れ]を着ていて水浴びは終わった様子。

 ボサボサの髪→ロングヘアになったようで、ニオイも少しマシになった気がする。

 鼻が慣れただけってことはないだろう多分。


 片手に何か隠し持っていた。

「見て」

「すっげぇ!」

 小さな魚を持ってきた。

 {カユッ 塩焼きが人気}

「焼いて食べよう」

「ぅん」


 歩きながら山菜を先に半分食べてはサヤに渡す。

 俺はまだ腹下しても耐えられるが彼女は怪しいため毒見だ。

「これ辛いね・・・」

「うん、おいしい!」

 好評だった。


「これとかよさそうだな」

 乾燥した木の枝を見つけた。

 葉っぱ・細い枝・樹皮を置き、ボロ剣で火を起こす木の台座を作る。

 サヤが不思議そうに見つめる。

「なに?」

「これは火を起こす・・・やつだよ!」

「やってみたい!」

 食べて元気になったようで声色が弾んでいる。

〈グリグリグリグリ〉

 水浴びして湿気っているはずなのに火花が散る。

「ぅぉおー」

 火が起こった!

「上手いぞサヤ!」

{炎の扱い:北京原人→マッチ売りの少女}


みんなで小さな焼き魚1/3を食べた。

 内臓は・・・白イタチにあげよう。

 バクっとひと飲み。

「ん〜〜〜!」

 サヤは切り株の上で足をパタパタさせて噛みしめている。

(うんめなぁ〜、貴重なたんぱく質だ。そういう栄養の概念あるのかな『キミの目で確かめてみてくれ』)


 帰る途中でハイクスリ草も16個取れた。

 まだ諸々貧弱だし早く出よう。



 {アーモンドローズ]略してアモズに戻ってこれた。

 白イタチも無言で着いて来ていた。

「どこだァ雑貨屋ぁ」

 フラフラとまだ行ってない場所を見ていくと、バスケット(かご)が描かれた看板を見つける。

〈ガチャン〉

 ドアを開けると草やポーチなど小物を入れた棚が目に飛び込んでくる。

 奥のカウンターには牛アクセをつけたようなお姉さん。

(ほぼ人っぽい)

 ハーフにも色々あるようだ。

 俺が手に持っている草を見てパッと眉が上がった。

「依頼のハイクスリ草15個です」

「まあ!ありがとうねぇ。あら、超クスリ草も混ざってるわぁ」

「なっまずい」

 一つ多めでは甘かったか。

「いえいえむしろ嬉しいわあ」

 ハイより超の方が貴重だそうで2ウェンをオマケで貰った。

 {0ウェン→9ウェン}


〈ジャラジャラジャラ〉

 硬貨これ全部持つのか。

 現在の服[ボロ切れ]のポケットを信用するべきかどうか・・・入れてガッツリ破けたら{全裸}からの逮捕までありうる。

 サヤが棚の小物をじーっと見ている。

 [魔法のポーチ 4ウェン]

「あらあら〜。1ウェンまけますよ〜」

「よし買おう」

 サヤは驚いた顔で嬉しそうにカウンターへ持ってきた。

 お姉さんはピンクの布きれを出し入れして不良品でないかチェックしてくれる。

「うん大丈夫」


「はいどうぞぉ」

「「ありがとうございます」」

 {9ウェン→6ウェン 魔法のポーチを手に入れた!}

サヤがじーーっと見てくる。

「着ける?」

「うん!」

 まるで金メダルでもかけるかのようだ。

{E 魔法のポーチ}

 お洒落した気分なのだろうか、体をひねったり手を腰や頭に置いてポーズを取ったりしている。

 白イタチもクネクネとダンスして喜びを分かち合う。

「ふふっ!」

(この笑顔、プライスレス・・・!)

 ひねる身に

 光宿して

 ポーチ揺れ

  評価:プ

(そういえばここって季節はあんのか?『キミの目でたし——』)


〈ガチャン〉

「暗くなってきたね」

「うん!」

 そんな景色よりもポーチを見てウキウキしている。


(まだにおうし野宿の準備もできてない・・・宿屋だな!)

 通ったことない道を進み二階建ての建物を見つけた、ビンゴ。

 ベッドとパンが描かれた看板これは宿屋だろう。

 グッ。

「えっ」

 豪華な装飾のされた"重厚"な扉がびくともしない。

(扉がやたら重いィィ・・・!!)


「ハァハァハァ」

 俺1人の体をねじ込むので精一杯だった。

 扉前で一息つく。

「こんばんわ〜」

 受付は犬耳カチューシャをつけた人間で白を基調とした服。

 カチューシャ抜きでもハーフじゃないと分かりそうなほど目が鍛えられていた。

「一部屋を・・・朝まで」

「ご朝食がつきまして5ウェンになります」

(一夜で5ウェンか・・・足りただけマシと思おうそうだそうに違いない)

{6ウェン→1ウェン}

(もう1ウェンかよ!)


(ん?)

 受付上方の四角いボードに書かれた案内文——

『風呂、なし』

「えぇこの宿風呂ないの!?」

「はい。ですが当宿のご利用者様は温泉をご利用になれます。

斜向かいの道を突き当たりまで直進後、右折してすぐ左斜向かいへ、その先50m信号を右折・・・」

(Qカーナビ?A部分的にそう→あなたが思い浮かべているのは:斜向かい。ってか信号あるんだ)

 犬耳受付嬢の右の手のひらから透明な水色がビュンッと発射される。

「ウッ」

 俺の心臓に突き刺さる。

{たまご温泉券:2枚}

 5枚までストックできるらしい。

(良心的だ)


 そろそろ疲れも取れてきた。

「グッヌヌヌヌヌ・・・ヌァァ!!) 」

 二人で重すぎる扉を開け、サヤと白イタチが遅れて中へ入って来た。

 受付嬢の顔が歪む。

「ちょっと!こっちにきてください。速く!」

 睨むような鋭い目と声。

 ついていくと宿屋のカウンター奥、従業員部屋の奥の扉へ。

 犬カチューシャ女が扉を開くと、そこには風呂があった。

 「特別に貸してあげますから速くそのクサイ臭いを取ってください」

 鼻をつまみながらキレてしかめっ面だが優しい人だろう。

〈バタン〉


〈ジャーーー〉

 中から声が聞こえてくる。

「あ〜!こうやって泡立てて使うんですよ」

「ふふふ!!」

〈バチャッバチャッ〉

「わ〜はしゃぎすぎ!」

「もうっ腋が洗えてません!『ここを洗え』って義務教育でやらなかったんですか」


シャンプーの匂いがこっちまで漂ってくる。

 振り返ると白イタチは遠くでこちらを見ていた。

 その顔はグワっと不快感をあらわにしたしかめっ面だった。

(表情豊かだな)

〈ズドオォォン〉

 あの重い扉を蹴飛ばした。

{ステンチイタチは去っていった}

「行ってしまわれた・・・」

 ごく稀に現れるというあの白いイタチ。

 サヤのニオイがごく稀な臭さだったのが姿を見せた理由だったのかもしれない。


***


「お姉ちゃんありがとう!」

「まァッ・・・フフン当然のことです」

 ドヤ顔というには顔がゆるみ切っている。


 サヤはとても快適そうだ。

 眉間にちょっと皺が寄っていたのも無くなった。

 痒かったのだろう。

 濡れた犬カチューシャが近づいてくる。

 

 青筋が立ちそうに片口角を上げて〈ギリギリ〉と歯を鳴らしている。

「もうこういうこと無いようにっ!」

 ここまで不快感をあらわにした人からサービスされるのは初めてで新鮮だ。

 まるでそういうプレイのよう。

〈ギリギリギリ〉

 念を押されつつ温泉へのメモ紙を貰った。

 受け取ると自然と脳内の3D地図が埋まったように道を覚えた。

{記憶:[宿屋パンボボ]→[たまご温泉]への道}


「ではさっさとお部屋へ戻ってくださ〜い」

 主に俺の体を強く押される。


「シロは?」

(名前つけてる・・・!)

「行っちゃったよ」

「そっか・・・」

 俯いてポーチを握りしめている。

 ちょっと残念そうだ。

「でもまた会えるかもしれない、もっともっと臭くなれば・・・!」

「ヤ、お風呂すき」

(もう会えないかも)


〈カチャ〉

 部屋は1人想定っぽい小ささだ。

 中央に小さな丸テーブル。

 ベッドだけは大きめで二人寝も出来そう。


 俺がベッドに座るとサヤが床に座り込んだので手を軽く引っ張る。

 そのまま2人でベッドに座った。


「ロモンの実美味しかったね」

「・・・うん」

「焼き魚バリバリでうまかったわ」

「・・・うん」

 眠気もあるだろう、それでもラインを超えないよう出てこないみたいな反応、または"薄い"話に興味がない。

「・・・名前ある?」

「名前・・・?」

 やっぱり無いのか。

「よし、じゃあ今日からあなたは[アマギ・サヤ]だ。・・・どう?」

「アギサ・サヤ・・・?」

「あっサヤって呼ぶね」

「アッサヤ・・・」

「わ〜、サヤ!サヤ!」

「プフフ!わサヤ!」

 いたずらっぽく笑われる。

「あれ!?分かっててやった!?」

 聞くとベッドに寝転がってしまった。

 そして布団の中に完全にくるまった。


「お〜い、サヤ〜」

 もぞもぞと揺れた布団。

 遊んで欲しいのかと思いきやじっとしている。

 そっとしておこう。


「ふぃ〜疲れた〜。そういや今日は"ハヨシロ"を覚えたのか」

{ハヨシロ:対象の動きを速くする}

 小さい丸テーブルをベッド近くに寄せ、床にしゃがむ。

 備え付けの冷水と[あちちお茶]の粉を混ぜて飲む。

「あちっ!」

({逃走:鬼ごっこ強者}にもなったし課題は攻めだろうなあ)

 お茶をフーフーと冷ましながら魔物の殺し方を考える。


 サヤが布団から顔だけを出した。表情は遠くを見るような、どこかエモーショナルな顔。

 そばへ向かい、布団を軽く抱きしめると布団内に取り込もうとしてきた。

(寂しいのかな・・・?)

 手足がバタバタと触れる謎の攻防戦が始まる。

 暗黙のルールの中、なぜ布団内から出る出ないで戦うのか、なぜこうしてベッド上で2人転がっているのか、不明さをぶつけ合うようにペチペチと手足を当てる。


 飽きたのか疲れたのか力が弱まってそれが止んだ。

 手を伸ばすと頭を乗っけてきた。

 抱きしめて頭を背中をさすると胎内の赤ちゃんみたいに縮こまった。

 閉じた目に涙が溢れる。

「よかった・・・」

 震える握りこぶしと腕。

 気持ちしめ付けるように抱きしめて眠った。


***

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伝説のボロい剣で異世界変革譚{耐久力∞ 攻撃力2} @syun791

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