~エピローグ~
「ルーワン、またね」
「また電脳フィッシングしようね、今度は私が大物釣り上げるんだから!」
「ふふ、楽しみにしてるよ、ナーラ。
それと、ワカヒコ」
スイーとルーワンが俺に近づいてくる。
「この先、君にはおそらく数々の試練が襲いかかってくる。でも忘れないで。何が大切なのか。この世界は、自然はとても美しいから。」
俺はルーワンのその言葉に、言葉は返さなかった。ただ、心からの笑顔で頷いてみせる。
その瞬間、周りから光の粒が湧き上がる。2人が驚いた顔でこちらを見る。しかし、すぐに理解したような態度で優しい笑顔を向けてきた。
「帰る時間みたいだね。これで会うのは最後だ。あとは...上から見守っていることにするよ」
「ルーワン?やっぱお前、壁画の」
俺の言葉を遮り、バッとナーラがこちらに抱きつく。
「え、え?!どうしたの、ナーラ」
突然のハグに慌てた俺はしかし、ナーラの体がボヤけて見えることに気がついた。ナーラの存在を確かめるように背中に腕を回す。
「あぁ、なるほど。俺か」
そして気が付いた。
俺自身がボヤけて光の粒のように崩れている。
「ようやく帰れるってことだよね?」
ナーラが涙をこらえ明るく振る舞うような声でそう問いかける。
「そうみたいだ、ありがとう。ナーラ。ルーワン。」
「そっか...ワカヒコ。ありがとう、私を助けてくれて。」
ナーラは初めて、笑顔から零れる涙を見せてくれた。それはどんな自然よりも美しいと思った。
キーンコーンカーンコーン
「はい、今日はここまで。じゃあ日直さん」
「はい!起立!」
学級委員の呼び掛けに俺は焦って席を立つ。
ガタンと大きな音を立て、適当に挨拶をして椅子に座る。
...長い夢を見ていたのだろうか。
体にはまだ、ナーラの体温が残っているように感じ、俺は窓の外を見る。
ビュウッと吹く風がとても心地よい音色に聞こえ、俺は目を閉じた。
「ワカヒコーー!」
次の瞬間、大声で俺を呼ぶいつもの声に、俺は笑いを噛み殺しながら返事をした。
「待って、今いく!」
「でさ〜、失くしたと思った500円玉がたまたま見つかったってわけ。奇跡じゃない?!」
「神様がお前の元に運んでくれたのかもな」
「えっ...?」
タカヒコが信じられないといった顔で俺を見る。
「今なんて...?あのワカヒコが神様の話した?ど、どうしたの!?熱でもある?!」
「ねぇよ!...別に、科学だって仮説に過ぎないなら神様を信じるのだって悪くはねぇなって思ったんだよ」
「えぇ?!やっぱおかしいよワカヒコ!病院いこ!絶対おかしい!」
「んだよお前!反発したら怒るくせに同調したら病気扱いしやがって!」
「だって、えぇだってさぁ?!...なぁワカヒコ、見て、あの木。葉が左右に揺れて俺らに挨拶してるみたいじゃない?」
「ん?あぁほんとだ。...うん、心に溶け込む良い音色。歓迎してくれてるなら感謝しなくちゃな」
「ほらおかしい!!やっぱ変だよ!だって、ワカヒコは目を閉じて自然を感じたり、木に挨拶なんて非科学的なこと絶対しないもん!」
「改めて聞くと酷いな俺。まぁあれだ、今日の夢が心地よくて俺も生まれ変わったんだよ」
「えぇ〜?なにそれ?...まっ、個人的には今のワカヒコの方が好きだからいいけどねっ!」
ほら、行こ!とカラオケ屋に駆け出すタカヒコを俺は待てって!と追いかけた。
向かい風、隣を白いワンピースを着た少女が通り過ぎた気がした。俺は慌てて振り返る。
少女の姿は見えなかった。
どうしたんだよ〜?と声をかけるタカヒコに、なんでもない!と声をかけ、もう一度少女がいた方へ向き直す。
笑顔を作り、空に手を伸ばした。今ならナーラに届くような気がして。
その日の風は、青空のように透き通っていた。
カナタハルカ くっきー @puraguma
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