腐れ縁の終着点

舞夢宜人

友人を辞めて、夫婦になる夜。

### 第1話:予感と違和感


 蒸し暑い初夏の夜、大学の近くにある居酒屋は、バスケサークルの熱気に包まれていた。テーブルには飲み干されたジョッキが並び、揚げ物の匂いが充満している。その喧騒の中心にいたのは、チームのエースである翔と、マドンナ的存在の凛だった。二人は周りの声も気にせず、顔を寄せ合って楽しそうに話している。


 圭介は、その光景を少し離れた席から見つめていた。賑やかな会話に相槌を打ちながらも、彼の視線は何度も凛へと向かう。黒髪のロングヘアを揺らし、上品に笑う凛の姿は、圭介にとって手の届かない憧れだった。隣では、優香が同じように翔を見つめ、時折、はにかんだ笑顔を見せている。優香の視線の先にある翔は、明るい茶髪に、引き締まった体格。グループの中心で誰よりも大きな声で笑う彼の存在感は、圭介とは正反対だった。


「ねえ、圭介はさ、凛ちゃんのこと、どう思う?」


 優香が耳元でひそやかに尋ねてきた。アルコールのせいで少し上気した優香の肌が、すぐ近くでほんのりと赤く染まっている。


「え、どうって……そりゃ、いい子だよ。俺なんかには、もったいないくらい」


 圭介が素直な気持ちを口にすると、優香は少し寂しそうな顔で笑った。


「だよね。私も翔くんのこと、遠い存在だなって思うもん。みんなに人気で、明るくて、周りを明るくする感じが、私にはないから」


 そう言って、優香はまた翔に視線を戻した。圭介は、そんな優香の横顔を見て、胸の奥がきゅっと締め付けられるのを感じた。凛への想いは確かにある。だが、優香が翔に抱く気持ちを、まるで自分のことのように受け止めている自分がいる。


 一次会が終わり、三々五々に帰り始める中、圭介と優香は二人きりになった。サークルでの集合場所からそれぞれの自宅へと続く道は同じだ。二人は並んでゆっくりと歩き出す。夜風が火照った身体を冷やし、少しだけ酔いが醒めていく。


「それにしてもさ、今日、なんかおかしくなかった?」


 優香が突然、立ち止まって圭介に問いかけた。


「何が?」


 圭介は、とぼけてみせた。もちろん、優香が言いたいことは分かっていた。居酒屋での翔と凛の親密な雰囲気。あれは、ただのサークル仲間とは思えない、特別な空気をまとっていた。


「翔くんと凛ちゃん。なんか、前よりもっと仲良くなってなかった? クリスマス、どうするのかな……」


 優香の声が、少しだけ不安げに震えている。その様子を見て、圭介は胸のざわめきを覚えた。優香が翔に惹かれていることを知っているのに、なぜか安堵している自分がいた。翔と凛の関係が進展すれば、優香は翔のものではなくなる。その事実に、圭介は心の底から安堵しているのだ。


 その夜、圭介は凛のことを考えるよりも、優香の言葉や表情を反芻していた。互いの片思いを応援し合っているはずなのに、いつの間にか圭介の心は優香で満たされていく。この予感は、吉と出るのだろうか、それとも──。


 帰り道、二人は互いの恋がうまくいくようにと、それぞれの心の中で密かに願った。しかし、その願いが叶うことはないと、圭介はもう薄々気づいていた。


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### 第2話:クリスマスの誘い


 あれから数日後、圭介と優香は学内で顔を合わせた。互いの表情を探るように見つめ合った。あの夜の安堵と違和感が、まだ二人の間に微かな緊張感を残していた。


 その日の夕方、圭介のスマートフォンが震えた。画面に表示されたのは、翔からのメッセージだった。


 『クリスマス、空いてる? 凛と、圭介と優香の四人でパーティーしない?』


 圭介は心臓が跳ねるのを感じた。ついにこの時が来た、と直感した。彼は迷った末、優香にメッセージを転送した。


 『翔くんから来たんだけど、どうする?』


 数分後、優香から返信が来た。


 『え、ほんとに? 行く! 圭介も行こうよ!』


 そのメッセージには、迷いはなく、純粋な期待が溢れていた。圭介は、優香のその前向きな姿勢に背中を押された気がした。もし、優香が「やめとこう」と言っていたら、圭介もきっと参加を断っていただろう。圭介は、優香の返信に倣う形で翔にOKの返事をした。


 それからの一週間、圭介と優香は何かにつけてクリスマスの話をした。


「どんな服を着ていこうかな。気合入れすぎても浮いちゃうかな」


 優香は楽しそうに悩んでいた。圭介は、そんな優香の姿を眩しく感じた。自分は、凛にどう見られるかというよりも、優香が楽しそうにしているのを見ているだけで満足していた。


 圭介は、クリスマスパーティーに向けて、翔との共通の話題であるバスケのプレイについて、これまで以上に熱心に話しかけるようになった。優香もまた、凛の趣味や好きなものをリサーチしているようだった。二人は、自分たちの恋を成就させるために、まるで共闘する戦友のようだった。


「優香なら、絶対大丈夫だよ」


 圭介がそう言うと、優香は満面の笑みで答えた。


「圭介だって! 凛ちゃん、絶対圭介のこと、意識してるって!」


 互いに励まし合う言葉は、次第に嘘めいて聞こえてきた。心の中では、お互いの想いが叶わないことを、どこか望んでいる自分がいる。このまま四人の関係が進展すれば、優香は翔と、圭介は凛と、それぞれの道に進むことになる。そんな未来を想像すると、圭介の胸は、期待よりも寂しさでいっぱいになった。


 クリスマスパーティー当日。


 圭介と優香は待ち合わせ場所で合流した。少しだけおめかしをした優香は、普段よりもずっと可愛らしく見えた。


「圭介、どうかな? 変じゃない?」


 優香は、少し恥ずかしそうに圭介に尋ねた。圭介は、そんな優香の姿を、ただただ見つめていた。


「──すごく、似合ってる」


 その言葉は、誰にでも言えるような社交辞令ではなかった。圭介は、優香への特別な感情が、もう抑えきれないほどに膨らんでいることを自覚した。


 圭介と優香は、互いの恋の結末を、そして自分たちの関係がどうなるのかを、期待と少しの不安を抱えながら、待ち合わせ場所へと向かった。


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### 第3話:告白と衝撃


 クリスマスパーティーの会場となったのは、翔が選んだおしゃれなカフェレストランだった。店の入り口には、きらびやかなイルミネーションが施され、足を踏み入れるだけで心が浮き立つ。


 店内に入ると、すでに翔と凛が席についていた。二人は少し離れた場所に座り、談笑している。その距離感は、圭介と優香が見慣れた友人としてのそれよりも、ずっと近く感じられた。


「翔くん、凛ちゃん、お待たせ!」


 優香が元気な声で二人に挨拶する。翔はいつものように明るい笑顔で応え、凛は優しく微笑んで「遅れてないわよ」と返した。


 四人がテーブルを囲むと、最初は和やかな雰囲気に包まれていた。サークルの話題や、大学での講義の話。しかし、圭介は違和感を拭えずにいた。優香も同じだったのだろう、食事中、彼女は何度か圭介にアイコンタクトを求めてきた。その瞳は、「ね、やっぱり変じゃない?」と語りかけているようだった。


 食事を終え、デザートが運ばれてきたとき、翔が突然、グラスを手に立ち上がった。


「みんな、ちょっといいかな」


 彼の真剣な声に、圭介と優香は顔を見合わせる。優香は、期待と不安がないまぜになった表情を浮かべていた。


「今日は、みんなに報告したいことがあるんだ」


 翔はそう言うと、凛の手をそっと握った。凛は少し恥ずかしそうに顔を伏せ、その指を絡ませるように握り返した。


「俺と凛は、付き合うことになりました」


 圭介の頭の中で、何かが弾けたような音がした。予想はしていた。しかし、実際にその言葉を聞くと、まるで胸を殴られたような衝撃が走った。隣に座る優香の身体が、微かに震えるのを感じた。


「おめでとう!」


 優香は、震える声で精一杯の笑顔を作り、祝福の言葉を口にした。その声は、いつもよりも少し高くて、無理をしているのが圭介には痛いほど分かった。圭介もまた、平静を装いながら祝福を口にした。


「おめでとう、翔、凛」


 翔は嬉しそうに「ありがとう!」と笑い、凛は「ありがとう、二人のおかげだよ」と優しい声で言った。その言葉の「二人」には、優香と圭介が互いの恋の相談に乗っていたことが含まれている。


 翔と凛は、祝福を受けた後も、お互いのことばかりを話していた。二人の世界は、圭介と優香の存在を忘れているかのようだった。


 圭介は、凛への失恋の痛みを感じながらも、それ以上に優香のことが気になって仕方がなかった。優香は、時折グラスを握る手を強くし、顔を俯かせる。圭介は、彼女の強がりの裏にある悲しみと、それでも祝福しようとする健気さに、胸が締め付けられた。


 帰り道、圭介は優香と二人きりになるのを想像し、何て声をかけようかと考えていた。しかし、その夜の二人の道は、別々の方向に進むことになった。


「優香、大丈夫か?」


 圭介が声をかけると、優香は笑顔で「うん、大丈夫!」と答えた。


 クリスマスパーティーという、特別な日に、二人の想いは、あっけなく終わりを告げた。そして、圭介は、凛への想いが、実はそれほど強いものではなかったことに気づき始めていた。失恋のショックよりも、優香の悲しみに寄り添いたいという気持ちの方が大きかったからだ。


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### 第4話:失恋の夜


 クリスマスパーティーの帰り道、圭介と優香は、重苦しい沈黙の中を歩いていた。街路樹に施されたイルミネーションが、二人の顔をぼんやりと照らす。先ほどまで翔と凛がいた場所は、もう遠い。たった数時間で、二人の関係は「互いの恋を応援する友人」から、「共に失恋を味わった仲間」へと、形を変えてしまった。


 優香は、俯いたまま歩いている。彼女の肩が微かに震えているのを見て、圭介はたまらず声をかけた。


「…大丈夫か?」


 優香は顔を上げず、小さな声で「…うん」とだけ答えた。その声は、いつもよりもずっと弱々しく、今にも泣き出してしまいそうだった。圭介は、優香のそんな姿を見ているのがつらかった。


 圭介のアパートに着くと、優香は足を止めた。


「今日は、ありがとう」


「優香…」


「…私、大丈夫だから。一人で帰れるよ」


 強がっているのが痛いほど伝わってきた。圭介は、優香を一人で帰らせるわけにはいかないと思った。優香が翔と凛に気を遣っていたこと、そして彼女が抱えている悲しみが、自分のことのように感じられたからだ。


「うち、寄ってけよ。一杯だけ、付き合うからさ」


 圭介は、そう言って優香の肩を優しく掴んだ。優香は一瞬、戸惑いの表情を浮かべたが、やがて力なく頷いた。


 二人で部屋に入り、缶ビールを二本開けた。いつもならくだらない話で盛り上がるのに、その日は沈黙が支配していた。一缶目を飲み干した優香が、ようやく口を開いた。


「…ばかみたいだよね」


 そう言って、優香は自嘲気味に笑った。


「ばかって、何が?」


「私、ずっと翔くんのこと、特別な人だと思ってた。でも、圭介が隣にいる方が、ずっと安心する」


 優香の言葉に、圭介の心臓がどきりと跳ねた。優香は圭介の目を見つめ、少し涙ぐんだ瞳で続けた。


「私、翔くんじゃなくて、圭介とクリスマスを過ごしたかったのかな。そんな風に思っちゃうの、ひどいかな」


 圭介は、優香の言葉に嘘偽りがないことを感じ取った。そして、自分もまた、心の中で同じことを願っていたことに気づく。圭介にとって、凛への想いは、優香の存在によって、いつの間にか過去のものになっていたのだ。


「…ひどくないよ」


 圭介は、優香の言葉を肯定した。


「俺も…凛じゃなくて、優香とここにいたいって思ってた」


 互いに秘めていた本心を打ち明けた瞬間、二人の間に流れる空気は、友情とは違う、もっと濃密なものに変わった。失恋の痛みと、互いへの特別な感情。それが混ざり合い、二人の心を揺さぶる。


「私たち、負け組だね」


 優香はそう言って、再び自嘲した。


「負け組で、いいじゃん。俺と優香だけの、負け組同盟だ」


 圭介の言葉に、優香は初めて心からの笑顔を見せた。それは、とても切なくて、同時に美しかった。


 優香は、ふらりと立ち上がると、そのままバスルームへと向かった。


「ちょっと、シャワー借りるね」


 圭介はただ無言で頷いた。聞こえてくるシャワーの音に、圭介の心はざわめき始めていた。失恋の痛みから解放され、そして友情を超えた関係へと向かう予感。その夜、二人の関係は、もう後戻りできないところまで来ていた。


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### 第5話:無防備な優香


 シャワーの音が止まり、バスルームのドアが開く。圭介は、背筋を伸ばしてリビングのソファに座り、スマートフォンをいじっているフリをした。しかし、彼の意識はすべて、ドアの向こうから現れる優香に集中していた。


 ふわりと、石鹸の香りが漂ってくる。その清潔で甘い匂いに、圭介は思わず息をのんだ。優香が、バスローブではなく、圭介が普段着ているパーカーを身につけて、部屋に戻ってきたのだ。圭介の体には少し大きめのパーカーが、華奢な優香の身体をすっぽりと包み込んでいる。パーカーの裾から伸びる白い足は、風呂上がりの熱を帯びて、艶やかに光っていた。


 濡れた肩までの髪をタオルで拭きながら、優香は圭介に笑顔を向けた。


「圭介のパーカー、借りちゃった。なんか、圭介の匂いがする」


 屈託のないその一言が、圭介の心を激しく揺さぶった。自分の服を着た優香。その無防備な姿は、圭介の理性を蝕んでいく。優香の無垢な言葉とは裏腹に、圭介の身体は、彼女を「友人」としてではなく、「異性」として意識し始めていた。


 圭介は、優香の視線から逃れるように、スマートフォンに目を落とした。画面に映る、凛とのやり取り。他愛のないメッセージの履歴をスクロールする。しかし、圭介の心は、凛への失恋の痛みよりも、目の前の優香への抗えない衝動で満たされていた。


 ふと、優香が圭介の隣に腰を下ろした。


「ねえ、聞いてよ。さっき、シャワー浴びてたらさ、翔くんとのことが全部、どうでもよくなっちゃった」


 優香は、圭介の肩に頭を乗せ、甘えたような声で言った。その声が、圭介の耳元をくすぐる。圭介は、優香の言葉に驚き、スマートフォンを持つ手が震えた。


「だってさ、結局、翔くんが好きなのは凛ちゃんで、私はただの友達だったんだって。でも、それでいいやって思えたの」


 優香は、圭介の肩にさらに体重を預け、安堵の息を吐く。圭介は、そんな優香の頭をそっと撫でた。


 優香の言葉は、圭介にとって、まるで免罪符のように聞こえた。彼女が翔への想いを手放したことで、圭介が優香への特別な気持ちを抱くことに、もう何の罪悪感も感じなくなった。むしろ、優香の隣にいることが、当然のように感じられた。


 圭介は、凛に失恋したはずなのに、心がこんなにも満たされていることに、改めて違和感を覚えた。この感情は、単なる友情ではない。この心地よい感覚は、間違いなく「恋」なのだと、圭介は確信した。


 夜は更け、二人の間に漂う空気は、徐々に熱を帯びていく。それは、失恋の痛みからくるものではなく、新たな関係を予感させる、甘く、危険な予感だった。


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### 第6話:本音の告白


 圭介の少し大きめのパーカーに包まれた優香は、圭介の肩に頭を乗せたまま、小さな寝息を立て始めた。圭介は優香が完全に眠りについたことを確認すると、そっと身体を動かし、ソファから立ち上がる。


 優香をベッドまで運ぼうと、彼女の身体に手を伸ばしたその時、彼女はゆっくりと目を開けた。


「…圭介、寝かせてくれるの?」


 優香は、まだ少し眠たげな、とろりとした瞳で圭介を見上げた。その無垢な視線に、圭介は再び心を揺さぶられる。


「…ああ、その方がゆっくり眠れるだろ」


 圭介がそう言うと、優香はふわりと笑った。


「ねえ、圭介」


 優香は圭介の腕にそっと手を添え、彼の顔をじっと見つめた。


「私、本当に翔くんのこと、どうでもよくなっちゃったみたい。圭介と一緒にいる方が、ずっと落ち着くし、楽しいし…」


 優香は言葉を区切り、少しだけ恥ずかしそうに続けた。


「…本当は、翔くんみたいな人から、無理やり襲われたいとか、そういう願望、あったんだけど」


 圭介は、優香の予期せぬ言葉に、息をのんだ。優香が、そんな大胆な願望を口にするとは、想像もしていなかったからだ。優香は、圭介の驚いた表情を面白がるように、さらに言葉を続けた。


「だって、いつもみんなの前ではいい子ぶってるからさ。たまには、乱暴に扱われたいって、思うの。ダメかな?」


 その言葉は、優香の本音だった。彼女の瞳は、冗談を言っているようには見えなかった。圭介は、優香の内に秘められた大胆さに触れ、自分の心臓が激しく脈打つのを感じた。優香が「襲われたい」という願望を抱いていることを知り、圭介の心の中に眠っていた、優香への欲望が、堰を切ったように溢れ出す。それは、理性では抑えきれない、純粋な男としての衝動だった。


「…ダメじゃない」


 圭介は、そう呟くのがやっとだった。優香の言葉が、圭介の心の中にある特別な感情を、さらに強く、深くしていく。圭介は、優香の言葉が、自分に向けられたものであることを、本能的に理解していた。優香は、圭介に、自分を「襲ってほしい」と願っているのだ。


 優香は、圭介の返答に満足したように、にこりと微笑んだ。その無邪気な笑顔が、圭介の理性の最後の砦を崩していく。圭介は、もう後戻りできない場所にいることを悟った。優香の言葉は、二人の関係を決定的に変える、一つの合図だったのだ。


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### 第7話:初めてのキス


 優香の「襲われたい」という言葉は、圭介の心に火をつけた。彼の理性の最後の砦が、音を立てて崩れていく。圭介は、ゆっくりと優香に近づき、彼女の身体に覆いかぶさった。


「…優香、本当に、いいのか?」


 圭介の声は、情欲に震えていた。優香は、圭介の顔をじっと見つめ、ゆっくりと頷いた。彼女の瞳は、不安と期待がないまぜになり、潤んでいる。


「うん…」


 その小さな返事を聞くと、圭介はもう何も考えられなかった。彼の唇が、優香の唇に吸い付く。初めてのキスは、ぎこちなく、どこか不器用だった。唇を重ねるだけの、純粋な口づけ。しかし、その刹那、圭介の身体中に電流が走る。初めての経験は、想像をはるかに超える快感と興奮をもたらした。


 優香は、驚いたように目を丸くしていたが、やがてゆっくりと目を閉じ、圭介のキスを受け入れた。彼女の唇は、柔らかく、甘い香りがした。圭介は、優香の唇を優しく啄むと、舌を絡ませ、さらに深くを求めた。


 優香は、圭介の突然の変化に、戸惑いながらも、その情熱的なキスに応える。彼女の身体が微かに震え、圭介のパーカーの袖をぎゅっと握りしめた。圭介は、優香のその反応に、さらなる興奮を覚えた。


 長い、長いキスだった。互いの息が熱を帯び、絡み合う。圭介は、優香の頭を優しく押さえつけ、さらに深くキスを続けた。それは、二人の間にあった「友人」という壁を、破壊していく行為だった。


 キスを終え、唇が離れた瞬間、優香の頬は真っ赤に染まり、息が上がっていた。その瞳は潤み、圭介をまっすぐ見つめている。


「圭介…」


 優香は、圭介の名前を、甘く、切ない響きで呼んだ。その声が、圭介の心の奥底にまで響き渡る。圭介は、優香のその反応に、自分の中にある感情が、もう引き返せないところまで来ていることを確信した。


 互いの身体を重ね、ただキスをするだけの行為が、二人の関係を決定的に変えた。それは、単なる口づけではなく、友情の終着点であり、新たな関係の始まりを告げる、化学反応だった。


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### 第8話:身体の探求


 キスを交わし、互いの唇の熱が冷めやらぬまま、二人はソファに横になった。優香は、圭介の胸に顔を埋め、大きく呼吸を繰り返している。その身体は、まだ微かに震えていた。


「…優香、大丈夫か?」


 圭介が優しく尋ねると、優香は小さく頷いた。


「うん…圭介の心臓の音、すごい…」


 そう言って、優香は圭介の胸にさらにしがみついた。圭介は、優香の柔らかな髪に顔を埋める。シャンプーの甘い香りが、圭介の理性をさらに揺さぶる。


 圭介は、ゆっくりと優香の肩に手を回した。その指先が、優香の柔らかな肌に触れる。優香の身体が、びくりと震えた。圭介は、優香の髪を優しく撫で、その指先をゆっくりと耳へと滑らせる。小さな、可愛らしい耳に触れると、優香の身体がさらに大きく震えた。


「…ひゃっ」


 優香から漏れた、初めて聞くような甘い声。その声に、圭介はさらなる興奮を覚える。圭介は、優香の耳にそっと唇を寄せ、囁いた。


「…優香、気持ちいいか?」


 優香は、答えなかった。しかし、その身体は、圭介の問いに正直に反応している。圭介は、優香の耳たぶを舌でなぞり、ゆっくりと唇を這わせた。優香の身体が、ぞくりと震える。


 圭介の指は、優香の髪から首筋、そして背中へと、ゆっくりと滑り降りていく。パーカー越しに伝わる、優香の温かい体温。その熱が、圭介の指先から身体全体に伝わっていく。


 圭介は、ゆっくりと優香のパーカーの裾に手を入れ、その柔らかな肌に直接触れた。優香の身体は、圭介の触れた部分から、熱を帯びていく。圭介の指は、優香の腰のくびれをゆっくりとなぞり、その滑らかな感触を堪能した。


「圭介…」


 優香は、甘い声で圭介の名を呼んだ。それは、もう友人としての呼びかけではなかった。それは、圭介にすべてを委ねるような、甘く、無防備な声だった。


 互いの肌に触れることで、二人の関係は、もう「友人」から「異性」へと、完全に変化していた。それは、抗いようのない、自然な流れだった。そして、この夜の探求は、まだ始まったばかりだった。


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### 第9話:ブラと官能


 キスと愛撫によって、二人の間には甘い緊張感が満ちていた。圭介は、ゆっくりと優香のパーカーを脱がせ、彼女の肩を包む下着のストラップに指をかけた。華奢な背中に回された圭介の手が、優香のブラジャーのホックを外していく。


 パチンと、小さな音が静かな部屋に響いた。


 圭介は、ゆっくりと優香のブラジャーを剥がし、彼女の裸体を目の当たりにする。その瞬間、圭介の心臓は激しく高鳴った。優香の肌は、きめ細かく、風呂上がりの熱を帯びて、艶やかに光っていた。


 優香は、少し恥ずかしそうに胸を腕で隠そうとしたが、圭介はそれを許さなかった。彼は優香の腕を優しく引き寄せ、その白い胸に顔を埋めた。ふわりと香る、優香の肌の匂い。


 圭介は、欲望に突き動かされるまま、優香の胸を揉みしだき始めた。優香は、初めての感覚にびくりと身体を震わせ、甘い声を漏らす。


「…ん、圭介…」


 その声は、圭介の官能をさらに刺激した。圭介は、優香の胸を手のひらで包み込み、ゆっくりと揉み続けていく。弾力のある柔らかな感触が、圭介の指先に伝わってきた。


 圭介は、優香の乳首を指先で優しくなぞる。硬く尖っていく小さな塊に、圭介は自らの興奮を抑えられなかった。彼は、優香の胸に顔を埋めたまま、その先端を舌でなぞり、ゆっくりと舐め始めた。


「ひゃ…っ」


 優香は、想像もしていなかった快感に、声を上げた。全身がびくんと震え、甘い喘ぎ声が喉から漏れる。


 圭介は、優香の反応に、さらなる興奮を覚えた。彼の愛撫は、ますます大胆になっていく。片方の乳首を舌で弄びながら、もう一方を指で摘まみ、優しく揉む。優香の身体は、快感の波に翻弄され、大きくのけぞった。


 優香の甘い声と、圭介の荒い呼吸が、部屋を満たしていく。二人の間にあるのは、もはや友情ではなく、熱い欲望と、互いの身体がもたらす官能的な快感だった。


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### 第10話:指先の快感


 胸を愛撫された優香は、甘い喘ぎ声と荒い呼吸を繰り返している。圭介は、優香の胸からゆっくりと手を離すと、その手を優香の身体を下へと滑らせていった。優香の柔らかな腹部を優しく撫で、その指先は、彼女の下半身へと向かう。


 圭介の指が、優香のデリケートな部分に触れた瞬間、優香の身体がびくりと震えた。そこは、すでに熱を帯び、しっとりと濡れている。圭介は、その湿り気に、優香の内に秘められた欲望と、自分に対する信頼を感じ取った。


「…優香、濡れてる…」


 圭介が囁くと、優香は羞恥に顔を赤く染め、圭介の胸に顔を埋めた。


「…や、だ…」


 その声は、拒絶ではなく、むしろ、もっと深くを求めているように聞こえた。圭介は、優香のその言葉に背中を押され、指をそっと優香の秘所へと差し入れた。


 圭介は、中指で優香のひだをゆっくりとなぞり、その熱い感触を確かめる。そして、指先を優香の性器の奥へと滑り込ませた。優香は、初めての異物の侵入に、身体を硬直させたが、痛みではなく、快感の予感に、身を委ねた。


 圭介は、優香の秘所のクリトリスを、親指でゆっくりと刺激し始めた。小さな突起を優しくなぞり、ゆっくりと圧力をかけていく。優香の身体は、快感の波に揺れ、腰がゆっくりと浮き上がっていく。


「…っ、あ…ん…っ」


 優香から漏れる、途切れ途切れの甘い声。その声に、圭介はさらに興奮し、指の動きを速めていく。


 圭介の指は、優香の秘所を的確に捉え、快感のツボを刺激した。優香の身体は、すでに圭介の指の動きに合わせて、小刻みに震え始める。


 そして、その快感は、ついに優香の許容範囲を超えた。


「ぁ…っ…!!!」


 優香は、激しい声で叫び、全身を硬直させた。腰が大きく浮き上がり、身体が痙攣する。それは、優香が経験したことのない、強い絶頂だった。


 優香の絶頂は、圭介の指先に、びくびくと伝わってくる。圭介は、優香の初めての絶頂を、自分の指先で感じ取り、深い感動を覚えた。それは、単なる快感の共有ではなく、優香の最もプライベートな部分に触れ、彼女の心を解き放った証だった。


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### 第11話:口の技巧


 指による愛撫で、優香は初めての絶頂を迎えた。その身体の震えが収まった後も、彼女は熱い息を吐き続けている。圭介は、優香の髪を優しく撫でながら、彼女の顔を覗き込んだ。優香の瞳は潤み、どこか放心したような表情を浮かべていた。


「…圭介、もう、無理…」


 優香は、掠れた声でそう呟いた。しかし、その言葉とは裏腹に、彼女の身体は圭介の次の行動を求めているようだった。


 圭介は、ゆっくりと優香の身体から離れ、自分のズボンを脱いだ。優香は、その光景をただじっと見つめている。そして、圭介の熱を帯びたペニスが姿を現したとき、優香の頬が再び赤く染まった。


 優香は、ゆっくりと上半身を起こすと、圭介のペニスに視線を落とし、戸惑うようにそっと手を伸ばした。圭介は、優香の初めての接触を、息を詰めて待つ。優香の指先が、熱を帯びた圭介の先端に触れる。


「…熱い…」


 優香は、驚いたように呟いた。その声は、恐怖ではなく、好奇心に満ちていた。優香は、圭介のペニスを手のひらで包み込む。経験のないその行為は、ぎこちなかったが、圭介の身体には、彼女の温かさが伝わってきた。


 優香は、ゆっくりと顔を近づけ、圭介のペニスに唇を寄せた。そして、そっと舌を這わせる。圭介の身体が、びくりと震えた。優香は、圭介の反応を確かめるように、さらに深く、口の中へと含んだ。


 優香の拙い愛撫は、圭介にとって、想像以上の快感をもたらした。優香の口の中の温かさと、柔らかい舌の動きが、圭介の理性を完全に吹き飛ばした。圭介は、優香の髪を優しく掴み、彼女の口の中で腰を動かし始めた。


「ん、んん…っ」


 優香から漏れる、途切れ途切れの声。それは、快感と、どこか楽しんでいるような響きを含んでいた。圭介は、優香の口の中を、さらに深く、激しく突き上げていく。


 そして、圭介の身体は、優香の口の中で、ついに限界を迎えた。


「っ…優香…ッ、」


 圭介は、熱い精液を優香の口の中へと放出した。優香は、そのすべてを飲み込み、圭介のペニスからゆっくりと唇を離した。


 優香の口の周りは、圭介の精液で少し濡れていた。彼女は、それを舌でなぞり、ゆっくりと飲み込んだ。その姿は、圭介にとって、優香がもう後戻りできないところまで来ていることを証明していた。


 互いの官能を解放した二人は、荒い呼吸を繰り返しながら、見つめ合った。それは、もう友人でもなければ、ただの恋人でもない、二人だけの特別な関係の始まりを告げる瞬間だった。


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### 第12話:侵入と痛み


 口の中での圭介の射精は、優香の身体の奥底に眠っていた性的な欲求を完全に呼び覚ました。優香は、まだ熱を帯びた圭介のペニスを愛おしむように見つめ、ゆっくりと身体を起こした。


 圭介は、ベッドサイドに置いてあったコンドームを手に取ると、ゆっくりと優香の顔を見つめる。


「優香、もう、止められない…」


 圭介の声は、本能的な欲望に突き動かされていた。優香は、圭介の言葉に静かに頷き、その瞳に一滴の涙を浮かべた。それは、恐怖や後悔の涙ではなく、この夜の行為が、二人の関係を決定的に変える瞬間を悟った、感動の涙だった。


 圭介は、コンドームを丁寧に装着し、優香の脚をそっと開かせた。優香は、少し緊張した面持ちで、圭介の行動を受け入れる。


 圭介は、優香の濡れた秘所に、熱を帯びた先端をそっとあてがった。そして、ゆっくりと、慎重に、優香の膣へと侵入していく。


 優香の身体が、びくりと震えた。圭介の先端が、優香の処女膜に触れ、小さな抵抗を感じる。優香は、少しだけ顔を歪め、圭介の背中に爪を立てた。それは、僅かな痛みと、初めての経験への戸惑いだった。


「…優香、ごめん…」


 圭介は、優しく優香に語りかけた。しかし、優香は首を横に振り、圭介の目をじっと見つめる。


「…いいの。圭介なら…」


 その言葉を聞き、圭介は再びゆっくりと、優香の中へと深く侵入していった。柔らかな壁を破る、僅かな抵抗。そして、それは、痛みを乗り越えた先にある、二人の身体が一つになる瞬間だった。


 圭介のペニスが、優香の膣の奥まで完全に埋まった瞬間、優香の身体は、再び大きく震えた。それは、もはや痛みではなく、快感の予感に満ちた震えだった。


 圭介は、優香の顔を覗き込んだ。涙を浮かべていた優香の瞳は、快感に潤み、熱を帯びている。そして、その表情は、痛みが快感へと変わる、奇跡的な瞬間を物語っていた。


 二人の身体が、完全に一つになった。それは、友情の終着点であり、互いのすべてを受け入れる、新たな関係の始まりだった。


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### 第13話:身体の相性


 痛みから快感へと変わった優香の表情を見て、圭介はゆっくりと、そして慎重に腰を動かし始めた。初めは恐る恐る、優香の身体の反応を確かめるように、ごく浅く、小さく。優香は、その動きに合わせて、小さな息を漏らした。


 圭介は、優香の髪を撫でながら、耳元で優しく語りかける。


「優香…無理してないか?」


 優香は、ゆっくりと首を横に振った。


「…大丈夫。もっと…」


 その言葉に、圭介の理性の箍は完全に外れた。圭介は、優香の身体が求めているものを正確に感じ取り、腰の動きを大きく、深くしていく。


 圭介の熱いペニスが、優香の膣の奥をゆっくりと満たしていく。初めての行為にもかかわらず、二人の身体は驚くほど相性が良かった。それは、まるで長年連れ添った夫婦のように、互いの身体が、互いの動きを理解し、受け入れていくようだった。


 圭介は、優香の膣内にある、特定の場所を意識的に突き上げた。その瞬間、優香の身体が大きく跳ね上がった。


「っ…ぁ…そこ…っ…!」


 優香は、初めて聞くような、甘く、切ない声で叫んだ。それは、圭介が優香の膣内にあるGスポットを正確に突き上げた証拠だった。圭介は、その反応に、さらに興奮し、同じ場所を何度も何度も突き上げていく。


 優香の身体は、快感の波に抗うことができず、大きくのけぞり、絶叫した。


「あああああ…っ! やだ…っ…! むり…っ…!」


 優香の声は、拒絶の言葉を叫んでいるにもかかわらず、その表情は快感に歪み、その身体は圭介の動きに合わせて、腰を振っている。その激しい矛盾が、圭介の心をさらに掻き立てた。


 そして、優香は、再び、最初の絶頂をはるかに超える、強い絶頂の波に襲われた。身体全体が痙攣し、腰が激しく震える。それは、今までのどんな快感とも比べ物にならない、純粋な、身体の歓喜だった。


 圭介は、優香の初めての、そして二度目の絶頂を、自身の身体と、そして彼女の甘い声で感じ取った。それは、二人の間に、ただの友人でも恋人でもない、もっと深く、強い結びつきを生み出した。


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### 第14話:二度目の絶頂


 優香の絶頂は、圭介の身体をさらに激しく突き動かした。優香の膣内は、快感で収縮を繰り返し、圭介のペニスを強く締め付けてくる。その感触に、圭介はもう理性を保つことができなかった。


 圭介は、優香の身体から一度離れると、体勢を変え、優香の腰の下に枕を差し込んだ。そして、優香の脚を肩に担ぎ、彼女の身体をさらに奥まで見つめる。


「…優香、まだ終われない」


 圭介の声は、情欲に震えていた。優香は、ぼんやりとした表情で圭介を見つめている。まだ、最初の絶頂の余韻の中にいるようだった。


 圭介は、優香の脚を広げ、もう一度優香の膣へとペニスを侵入させた。


「っ…んっ…!」


 優香は、再び圭介の熱いペニスを受け入れ、甘い声を漏らした。圭介は、先ほど発見した優香のGスポットを、再び、そして今度はより強く、深く突き上げていく。


 優香は、圭介の激しい突き上げに、身体を反らせ、悲鳴のような喘ぎ声をあげた。


「ああああ…っ! やだ、やめてぇ…っ…!」


 優香の声は、圭介の動きを止めろと懇願している。しかし、その声は、快感に満ちており、身体は圭介の突き上げに合わせて、腰を激しく振っている。その矛盾した反応に、圭介は優香の隠された一面を知った。それは、いつも明るく社交的な優香からは想像もつかない、官能に溺れ、快感に身を任せる、大胆な優香だった。


 圭介は、優香のポルチオを指で優しく刺激し、さらに追い打ちをかけた。膣内の刺激と、外側の刺激。その二重の快感に、優香の身体は、完全に制御を失った。


「…ひぁっ…! んぐ…っ…! だめ…っ…!」


 優香の瞳から、快楽の涙がこぼれ落ちる。彼女の身体は、再び痙攣し、腰が激しく震えた。それは、最初の絶頂をはるかに超える、強い、強い絶頂だった。


 優香の二度目の絶頂は、圭介の心に、深い感動と、征服感をもたらした。優香は、圭介に、自分の身体のすべてを、そして心のすべてを、委ねてくれたのだ。それは、もう友情でもなければ、単なる肉体的な関係でもない、二人の魂が深く結びついた証だった。


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### 第15話:射精と安堵


 優香の二度目の絶頂を受けて、圭介の身体は、もはや限界を迎えていた。優香の膣内の温かさ、そして激しい締め付けが、圭介の快感を極限まで高めていく。圭介は、優香の脚を肩に担いだまま、最後の力を振り絞るように、腰を激しく動かした。


 優香は、圭介の動きに合わせて、甘い悲鳴をあげ、圭介の背中に爪を立てる。


「っ…圭介…っ…! もう、だめぇ…っ…!」


 優香の声が、圭介の耳元で響く。その声に、圭介はもう何も考えられなかった。ただ、優香との一体感と、溢れんばかりの快感だけが、彼の意識を支配していた。


 圭介は、深く、深く、優香の身体の奥まで突き上げた。その瞬間、圭介の身体全体が、稲妻に打たれたように震えた。


「うっ…ああああっ…!」


 圭介は、熱い精液を、コンドームの中へと放出した。それは、優香の子宮に吸い込まれていくかのような、確かな感触だった。圭介の身体から、すべての力が抜け、優香の身体に崩れ落ちた。


 二人の荒い呼吸が、静かな部屋に満ちる。互いの体温、そして心臓の鼓動が、静かに重なり合っていく。


 しばらくして、圭介はゆっくりと優香の身体からペニスを抜き取った。その瞬間、優香は、安堵の息を吐き、圭介の胸に顔を埋めた。


「…圭介…」


 優香は、掠れた声で圭介の名前を呼んだ。その声は、もう官能に溺れた声ではなかった。それは、すべてを終え、心から満たされた、安堵の声だった。


 圭介は、優香の身体を優しく抱きしめ、彼女の髪にキスをした。


「…優香で、よかった」


 圭介の言葉に、優香は微笑み、さらに強く圭介にしがみついた。


 互いの身体と欲求を満たした二人は、静かに抱き合った。それは、一夜の衝動から始まった行為ではあったが、二人の間に、それまでにはなかった、深く、そして強い絆を生み出した。失恋の痛みも、友情の終着点も、すべてはこの夜の行為のためにあったのだと、二人は静かに悟った。


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### 第16話:クリスマスの朝、そして恋の始まり


 夜が明け、冬の澄んだ光がカーテンの隙間から差し込んでくる。圭介と優香は、互いの身体を抱きしめ合ったまま、朝を迎えた。優香は、圭介の腕の中で、すやすやと穏やかな寝息を立てている。その無防備な寝顔を見て、圭介は昨夜の出来事が夢ではなかったことを改めて実感した。


 ふわりと、優香の身体が動いた。彼女はゆっくりと目を開け、圭介の顔を見つめる。そして、照れたようにくすりと笑った。


「…おはよう、圭介」


 優香の声は、いつもよりも甘く、そしてどこか幼い響きがあった。


「おはよう、優香」


 圭介は、優香の髪を優しく撫でた。


「なんか、変な感じ…」


 優香は、圭介の胸に顔を埋め、そう呟いた。


「何が?」


「だって、私たち、昨日までただの友達だったのに…」


 圭介は、優香の言葉に笑った。


「そうだな。でも、俺、昨日から優香のこと、友達だとは思ってない」


 圭介の言葉に、優香は顔を上げ、圭介の瞳をじっと見つめた。


「…私も」


 優香は、そう言うと、圭介の唇にそっとキスをした。それは、昨夜の情熱的なキスとは違い、優しく、そして愛おしさに満ちたキスだった。


 二人はベッドから起き上がり、顔を洗った。鏡に映る優香の顔は、ほんの少しだけ大人びて見えた。


「ねえ、圭介」


 優香が、突然、圭介に問いかけた。


「うん?」


「圭介の童貞、奪っちゃった?」


 その言葉に、圭介は思わず噴き出した。優香は、恥ずかしそうに頬を膨らませる。


「…そうだな。優香のせいで、童貞じゃなくなった」


 圭介がそう言うと、優香は満面の笑みを浮かべた。


「やった!」


 優香のその無邪気な反応に、圭介は心が温かくなるのを感じた。


「じゃあ、優香も…処女卒業、だな」


 圭介の言葉に、優香の顔が真っ赤に染まる。


「…もう、言わないでよ」


 優香は、そう言いながらも、とても嬉しそうだった。


 二人は、リビングへと向かった。窓の外には、薄く雪が積もっている。ホワイトクリスマスだ。


 圭介は、優香の手を優しく握り、言った。


「優香で、本当によかった。翔とか凛とか、どうでもいい」


 その言葉は、圭介の偽りのない本心だった。


「…私も、圭介でよかった。翔くんに振られた時、正直、どうしようかと思ったけど、圭介がいてくれて、よかった」


 優香は、そう言うと、圭介の手に、自分の指を絡ませた。


 二人の間には、もう友情という言葉では収まらない、深く、確かな絆が生まれていた。それは、一夜の衝動から始まったものだったが、二人の魂を深く結びつけ、新たな関係へと導いてくれた。


「…優香、俺と、付き合ってくれないか?」


 圭介がそう言うと、優香は、にっこりと微笑んだ。


「うん。私たち、もう、付き合ってるでしょ?」


 優香の言葉に、圭介は嬉しそうに頷いた。二人は、友人という関係性の終着点を迎え、恋人として、新たな一歩を踏み出したのだった。


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### 第17話:結婚を前提とした恋人


 クリスマスの朝、雪がうっすらと積もった静かな部屋で、優香は朝食の準備をしていた。圭介は、ベッドからゆっくりと身体を起こし、その背中を愛おしむように見つめる。


 パンをトースターに入れ、コーヒーを淹れる優香の姿は、まるで長年連れ添った妻のようだった。圭介は、ゆっくりと優香の背後から近づき、その華奢な身体を抱きしめた。


「…圭介、くすぐったいよ」


 優香は、少し照れたように笑った。


「このままずっと、こうしていたい」


 圭介は、優香の肩に顔を埋め、そう呟いた。優香は、ゆっくりと振り返り、圭介の瞳を真っ直ぐに見つめる。


「…圭介、本当に、それでいいの?」


 優香の真剣な眼差しに、圭介は迷いなく頷いた。


「ああ。優香と一緒なら、何もいらない」


 圭介の言葉に、優香はそっと微笑んだ。


「じゃあ、結婚を前提に、ね」


 優香の言葉に、圭介は驚き、目を丸くした。


「え…?」


「だから、結婚を前提にお付き合いしてください、ってこと」


 優香は、少し恥ずかしそうに、でも、とても真剣な眼差しで圭介に告げた。圭介は、優香の言葉の意味を理解すると、胸が熱くなった。一夜の衝動から始まった二人の関係が、こんなにも早く、こんなにも確かな未来へと向かっている。


「…ありがとう。俺も、同じ気持ちだよ」


 圭介は、優香をさらに強く抱きしめた。


 朝食を並べたテーブルを囲み、二人は未来の話をした。互いの将来の夢、仕事のこと、そして二人で住む場所。


「ねえ、圭介は、どんな家に住みたい?」


「優香が選んでくれたら、どこでもいいよ」


「もう、圭介ったら」


 優香は、そう言いながらも、とても嬉しそうだった。


 パンをかじりながら、優香は楽しそうに話し続ける。


「ねえ、いつか、圭介のご両親に、私を連れて行ってくれない? ちゃんと、紹介したいの」


 その言葉に、圭介は少し驚いた。優香が、そこまで真剣に考えてくれていたことに、感動を覚えたからだ。


「ああ、もちろん。俺も、優香のご両親に、ちゃんと挨拶させてほしい」


 二人の会話は、尽きることがなかった。それは、一夜の衝動から始まった関係が、恋愛を経て、やがて生涯を共にするパートナーシップへと発展していく、希望に満ちた未来の計画だった。


 窓の外に広がる、白銀の世界。それは、二人の新しい関係の始まりを祝福しているかのようだった。


『腐れ縁の終着点』 完

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腐れ縁の終着点 舞夢宜人 @MyTime1969

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