Ep.14 オチをつけるのが難しいですか?

「ついに起承転結の結について、来ることができたな……」


 なんだかんだあったけれども、やっとやっとオチのところまで解説できるとは。ほんの少しだけ感無量である。

 目の前にいる風村さんもそうではないだろうか。


「こうやって生きて解説することができて良かったわね」

「え?」

「途中、何回か輝明くんが死にかけたし、世界が滅亡の危機にあって、コールドスリープ計画とか出た時は驚いたけど、まさかやっと最後を描けるとは」

「え? 何それ?」

「冗談よ。こういうことで感動してたから……世界の終わりになんてなったら、どれだけ感動するのかなぁって」

「僕のこと、ヤバい奴だと思ってる?」


 聞いてみると、彼女はこくりと頷いた。

 僕の中のヤバい奴とは。いや、僕がヤバい奴なのか。

 圧倒されそうになったが気付かなかったことにしておく。それよりも解説だ。


「今後動機について解説もしていきたいと思うよ。それ位、動機が大事だね」

「あっ、これは分かる。犯人が長々と聞いてもいない動機を喋り始めるシーン!」

「そ、そこは多少不自然なところもあるかもね。まぁ、流れとしては他の容疑者ががっと掴みかかるってところがいいかもね」

「なるほど……あっ、うちのテンプラの話でもそれをやって……あっ、あの場所だと犯人に掴みかかったら、一緒に油の中にドボンだ」

「……な、何か次の殺人が起きちゃってない?」

「ううん……折角、殺人事件を解決したのに……後味悪いね。テンプラなのに!」


 と言っても、だ。何も後味の良さがミステリーの良さに通じる訳ではない。


「後味の悪さもいいと思うよ。ミステリーの中では犯人が自殺してしまったっていうオチもあるし……犯人が最後の抵抗で何人か殺害するってオチもあったり。シリーズものとかじゃなければ、探偵自身が最期の時を迎えるっていうのもあるからね」

「そ、そんなのがあるの!?」

「まぁ、特に命を扱う以上は重いテーマもあり得るからね。この探偵は頑張ったのに報われない気持ちは何故っていうモヤモヤがまた読者を楽しませるっていうのがあるんだよ。それで僕がどれだけモヤモヤしたか」

「ま、前に凄くふさぎ込んでいた時あったけど、まさか……それが原因?」

「えっ、ああ……」


 いきなりの発言に驚いた。まさかミステリーのこと以外で彼女が僕を見ていたとは。生徒会長はやはり、僕達のことをしっかり見ているらしい。立派過ぎて、眩しい。

 彼女にはやはり明るいものが似合っているのかもしれない。

 哀しい展開だけではなく、面白い展開も解説しておこう。


「でもでも、ミステリーによっては命が助かったっていうオチとかもあるしさ。結構探偵が笑っているエンディングとかもあるよ。まぁ、動機に関してオチを付けるのもいいかもね」

「動機、かぁ」

「お金系統のトラブルだったら、まぁ、主人公がお金について愚痴を言うみたいなコメディチックなオチもアリだと思うよって」

「そっかそっか……それもアリだね! 楽しそう! 色々勉強になったよ。ありがとうね……にしても、そうだ。そうそう。君の言ってた犯人になるっていうのってどういうことなの?」


 あっ、そう言えば、だ。

 完全に忘れていた解説だ。


「話を形成するためにはやっぱり、犯人の気持ちになった方がいいって話だったね」

「犯人の気持ち。トリックが思い付かなくてもって話だよ。まずそうなればオチとなる動機を作るんだ。どうして、恨んでいるのか。どうやりたいと思っているのか。実際にどんな気持ちで相手を被害者にしてやろうかって悩むだろ?」

「うん……」

「で、そのまま即行動。今回の場合はテンプラ屋だったね」

「あらら……」

「で、後はどうすれば、自分が犯人と疑われないのかの工作を考えればいいってことだよ。近しい人に罪を擦り付けるか。自殺に疑わせられるのか……いろんな犯行方法に関してはここから色々解説できればな、って思うけども」

「そっか。犯人の気持ちになってこの順序を捉えれば……トリックが無くても殺人事件に挑む探偵の構図ができるから……書きやすくなってくるかも。ミステリーって案外ちょろい?」


 ちょろいって訳ではないと思うが。今までの意識を持てば、だんと書けるようになると思う。楽しめると思う。


「後は何回も書いてレベルアップだよ。テンプラの話が書けたら、その主人公で同じものを書くのも良し。また別のキャラクターを作って楽しむのも良し。とにかく、自分のやってみたいシチュエーションをやってみるんだ。トリックが思い付いたなら、そのトリックを書くのも良し。自分で推しの探偵を作ったのなら、探偵のこういう素敵なところが見たいって言うのも良し」

「輝明くんはどんな探偵の良いところが見たい?」

「オチの話にも通ずるけど……」


 一応やってみたい話とかはある。格好悪いかもだけれども。


「そんな簡単な話じゃないんだ」

「えっ?」

「そんな人を殺せば、解決するってそんな簡単な話じゃないんだ! そのアンタが簡単だと思った行動でどれだけの人が悲しんだのか、分かるのか? どれだけの人が巻き込まれたのか、分かるのか? その重みが分かってるんだろうな? おい! 分かってやったんだろうなぁ!? おい!」

「おお……迫力」


 他にもやってみたいものはある。

 次は殺人をする前の人間。時折ある探偵が殺意に気付いて事前に止める系統だ。


「やめろよ。そんなことをしたって何にもならない。後悔するだけだ。君はいい人だ。ここでやめてくれると思ってる。分かってるよ」

「……おお、結構渋い探偵さんなのかな……でも、その言葉君が紡いでいるんだろうな」

「ん? まぁ……」

「スキ」


 一瞬、何があったのか。ハッと思って、考えた。「スキ」は自分の言葉に対して、かと。彼女は顔を真っ赤にして。


「でもこういう探偵ってすぐ風村さんなら作れそうな気がするよ。好きになれる探偵」

「そ、そうね……! 自分の書いてみたい探偵は……スキなんだって……」

「なるほど……謎を解くのが好きなんだってっていう探偵なんだな」

「え、ええ……そうよ! そういうこと言っちゃう探偵が好きなのよ!」


 何だか彼女がもじもじとしているが。きっと自分の考えた探偵にうっとりしたのだろう。そうに違いない。たぶん。

 うん、そのはず。僕なんか、ね。

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