3時限目 ミステリーの用語でもっと面白くなる!

Ep.15 ミステリーの謎って何でしょう?

「に、してもアイデアがテンプラ屋以外に思い付かないわね……結局、テンプラ屋も事件のせいで潰しちゃったし」


 風村さんは今日も生徒会室の中で悩んでいる。頭をぐるんぐるんさせて、思考中。そこに飛び込んでくるは何かお決まりのパターンになってきた少女、水野さん。


「今日も二人共いるんですね」


 何だか溜息を吐きそうな雰囲気。僕のことが邪魔だと思っているのだろうか。しかし、何日か前の威圧的な態度よりはよくなったと思うのだが。

 彼女が不意に告げる。


「ミステリーの講義とか、みたいですが……ミステリーの謎って何ですか? 何かあやふやじゃないですか?」


 ドキリとする言葉。すぐに風村さんが以前、僕から習った話を伝えていく。


「探偵が謎を追う話ってところかしら」

「じゃあ、やっぱドラゴンの弱点が謎って場合はミステリーになるの? 勇者がミステリーになるんじゃ……?」

「あっ、いや、だからそれは……」

「ヒロインの恋愛だって女心はミステリーって言いますよ? 落とす方法を探すのもミステリーになるんじゃないんですか?」

「ええ……そこ、どうなの?」


 たぶん、それに関しては課題と謎の違うところだと思うのだ。


「それは全部課題だと思うんだ。何が起きたから、何かしなきゃいけない。例えば、違法駐車があるから追い出さないといけないってなるけど……今の話だと水野さんは追い出す話もミステリーになると思ってるよね」

「ええ……」

「確かにそこに違法駐車をしなきゃいけない特別な理由があって、それを明かすんだったらミステリーだと思う。どうして、を探るものだから」


 僕の話に風村さんが思考を進めていた。


「じゃあ、車の前に画びょうを置くっていうのはどう? そうすれば、どうしても何も関係なくもう二度と駐車してこなくなるんじゃ?」

「そんなんじゃダメですよ。車上のもの全部盗んで、座席には剣山貼り付けておきましょう」


 違法駐車に関する罰が重すぎないか。逆にこちらが窃盗、殺人未遂の犯人になりそうな話題なのだが。


「こっちが探偵に追い詰められる側になるよ」

「それも悪くないかも……探偵さんや刑事さんにあんなことこんなこと……」

「水野さん、何考えてんのか分からないけどそんな理由で犯人なるのは絶対やめて」


 風村さんは「やりかねない」と危惧して「この子の前から違法駐車の車を消さなきゃ」とまで言っている。本当に信用がないのだろうか。

 それはさておき、だ。


「とにかく、何か答えがいくつもあるってものはミステリーとは違うと思うんだ……謎ではなくて課題になる。他にもその車の持ち主に直訴するって手もあるし。逆に動機というのは大抵一つだからね。そう。よく言うでしょ? 真実はいつも一つ! 起こったことは一つ。動機はまぁ、例外もあるけどだいたい一つ」

「ああ、よく言うわね。じっちゃんはいつも一つって!」

「全然言わないし。もう片方のじいちゃん何処行った?」


 人間生まれるには二人以上の祖父は必要なんだが。との風村さんのイタズラな話は忘れておいて。

 水野さんは少しは納得した様子。顎に指を付けて、考えている。


「なるほど。じゃ、答えが一つだと謎。答えがいくつもあるとミステリーね」


 勿論、課題にも意味はある。


「ストーリーを円滑に進めるためには探偵の成長のための課題だとか、物語のきっかけが課題だとかはいいと思う。それはどの物語を進める上でも不可欠なものだからね。主人公が課題に悩んで挑んでいくっていうのはいいと思う」

「確かに今も私達ってミステリーをどうするかって課題に挑んでるし。人間、皆同じなのかも」

「なかなか深いことを言い始めるな。流石……生徒会長」

「いやぁ、それ程でも」


 その褒められように嫉妬したのか、水野さん。


「人生、課題ね」

「浅いことしか言わねぇな」

「いやぁ、それ程のものです! もっともっと……」


 どうにかなんないのかな、この女性。と思っていたが、またまた彼女はドキリと刺さることを言う。


「あっ、それ程と言えば……ちょくちょく思うんだけど、ミステリーって難しいわよね。というか、ミステリーってなんか偉そうじゃない?」


 僕に向けての発言なのか。先輩だろうが、偉そうな者には歯向かう。その勇気と胆力だけは見習うべきなのかもしれないと思いつつ。

 彼女は風村さんの軽い拳骨をいただいていた。


「偉そうって、間違いなく偉いでしょ?」


 彼女は脳天をぐりぐりされながらも痛そうな様子は見せず。そのまま発言を続行させた。


「いやいや、そうじゃなくって。何か難しいワードを使えばいいってなるし……不在証明とか、密室だとか……何か宿題をさせられてる気分になるんです」


 風村さんはピンと来ていないらしい。


「宿題……? 別にそんな大変かしら……?」


 しかし、僕はあるチャンスだとも気付く。


「そう言えば、風村さん。さっきアイデアが思い付かないって言ってたよね」


 彼女は目を大きく開けて、静かに頷いた。


「そ、そうだけどどうしたの? 藪から棒棒鶏ばんばんじーに」

「どういう覚え方したらそうなったの? じゃなくって。アリバイとか、密室だとか、もっとミステリーに重要な単語について学んでいけば、もしかしたら書く内容が出てくるかも。難しい単語と何かを組み合わせるパターンも多いから」


 先に例を挙げたのが水野さんだった。


「例えば違法駐車と密室とか? 違法駐車とアリバイとか?」

「そうだね。そこからトリックとか話の展開を考えていくのもアリだと思うよ。だから、まずはそのミステリーならでは単語に親しみ慣れるというのがいいと思うんだ。ミステリー単語で遊ぼうの時間だね」

「ミステリー単語……!」


 難しいと思う必要はない。ミステリーは少し捻れば、親しみやすい友達になれるはず。気難しい人だなんて思わないで。


「そのためにはまず、アリバイについてもうちょっと詳しく解説していこうか……」


 そこでふと水野さんが一言。


「もしかして、それってイタズラにも使えるんですか?」

「水野さん、何をするつもりなの?」

「いや、アリバイとか使ってそんな罪から逃れないようなどしてないので、お気になさらず……」

「風村さん捕まえて。この人!」


 彼女は何かハートが付くような言葉遣いで「あー、もっともっとー! 先輩ー!」だとか言っている。この子にはアリバイとか、密室だとかは永久に教えない方が良さそうだ。

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