Ep.13 推理シーンは圧巻ですか?

「謎が解けましたよ……」


 そこに佇むは風村さんの姿が。そして、そのそばには水野さんが今にも涎を垂らしそうな顔で発言を待っている。


「犯人は貴方です!」

「ああ、先輩、もっともっと言ってください!」

「犯人はドブカスみたいな貴方です!」

「先輩……先輩!」


 ここを達観していたら、たぶん自分までヤバい人になる。そう判断した僕は大声で制止させてもらった。


「何やってるんだよ……!?」


 すぐに睨みつけてきたのは水野さん。


「ちょっと、今大事なシーンなんだから邪魔しないでください」

「そんなアホな」

「ああ……もっと……」


 そんな馬鹿な。何が起きているというのだ。

 今は本当なら、風村さんにミステリーのことについて教えている時間だ。

 僕にツッコミを入れられ、正気を取り戻したらしき風村さん。彼女はこほんと咳払いを一回、後僕に事情を口にする。


「い、いや、今日教えてもらうのって推理ショーのシーンなんでしょ?」

「その予定だったね」

「だから、ちょっと一人で練習してたのよ! 『犯人は貴方です!』とか『分かったんですよ、全て、ね』とか『この桜文様が目に入らぬか!』とか『真実はいつも一つ!』とか『じっちゃんはいつも一つ』とか」

「うん、色々めっちゃ混ざってるね。最後の方なんて推理ショー関係なくなってきちゃったじゃんか」


 分かる。格好いいセリフを口に出して言いたくなる気持ちとか。キャラクターに言わせたくなって、自分も声に出してみようなどそういう気持ちは百歩譲らんでも分かる話。

 しかし、その後の儀式については例え一万歩あげたとしても全く理解ができない。

 ただ、その理由を当の本人、水野さんから語られていく。


「やっぱ、先輩の凛々しいお姿にはいつまでもついていくので……どんどん追い詰めちゃってくださいね」

「ってことで……」

「か、風村さんも困ってはいるんだよね? ヤバいんだよね」


 そう呟く僕に対して、水野さんからポツリ。


「アンタも薄汚い話術で、お、追い詰めてきなさいよ」

「僕の場合ディスられてるの? でもディスられたいんだよね……? その話し方」

「先生に、言われたの。人にされたら嫌なことはしない。でも、されてほしいことはした方がいいってことだよね?」

「先生もここまでの使い方をされるとは思ってないと思うよ!?」


 とにかくここは落ち着いて推理ショーの解説から始めようではないか。風村さんも期待していることだし。


「で、探偵さんの場合ってどういう風に推理ショーをすることが多いの?」

「事件による、って場合が多いけど。今回の解説では小説を書くためのものでもあるからね。順番を決めさせてもらおっか」

「輝明くんのお勧めは?」

「まずは事件の概要を説明するところだね……だって、結構長文で話されて……もしかしたら、だよ。もしかしたらだけれども、事件のこと忘れてる読者もいるかもしれないんじゃん」


 その発言にハッと反応したのは、水野さん。キラキラした目で風村さんを見たかと思えば、何か物欲しそうな表情で。


「……この忘れん坊さん……」

「はうっ、せ、せんぱ……おねぇ様の優しい罵倒」

「ねぇ、輝明くん、助けて」


 「無理」ということで普通に解説を進めていこう。


「事件の説明が終わったら、そうだね。そこから今回の謎についてまとめるのがいいんじゃないかな、って思うよ。テンプラ屋さんの話だったら、どうしてテンプラとして被害者が揚げられたのか。その謎っていうのが一番いいのが犯人に近付くための謎がいいかな」

「犯人に近付く謎?」

「これを解けば、犯人が分かるってものだよ。フーダニット、誰が犯人かのミステリーでは読者は自分の考えた犯人が当たっているのか、それとも間違っているのか。それが凄い気になるものだからね」

「確かに、ね。じらされるのは困るね……」


 水野さんは「じらして……」と言っているが。少しキュンとしそうになったのは内緒ということにして。平常を意識する。


「そして、その謎を解いた時。貴方はこうしなきゃいけなかったんだ。そうしなきゃいけない人物って貴方だよね? この謎を作ることができたの、トリックを作れたのは貴方しかないよね。みたいな感じで真犯人を追い詰めていく流れになるね」

「やっと来た!」

「後は証拠を、だね。犯人はよく言うだろ? 『証拠はあるのか!?』とか『証拠がなければ、ただの妄想だ!』とか『推理小説を書いてみたら、いいんじゃない?』とか」

「あるある! 探偵が推理作家を勧められるシーン! そこで私の探偵はこう言うんでしょうね。『ええ、そういうの書いてみようと思ってるんです。なので、証拠、あるとしたら何があるか教えてもらえませんか』って」

「何で犯人に頼ってんだ……教えてもらえる訳がないだろ……格好いい探偵何処行ったの!?」

「いや、格好いいも良いけど、絶妙にダサいのもまたいいかなぁって」


 証拠の種類についてはまた別のところで大きなテーマにしたい。語るには、もう話が多すぎて。

 今回は事件の流れだけ、だ。色々あったが、次でようやく最後、ラストシーン、オチの解説ができそうだと思う。

 問題は目の前の女の子か。もう目がハートの形になっていて。体からの至るところからハートのようなものが出ているのだ。

 そんなところで水野さんはこう告げる。


「やっぱミステリーって最高! ミステリーの犯人として追い詰められる感覚が癖になっちゃって……や、ヤバい、刺激が強すぎる……! 刺激が強すぎて……! ああ、あたしも仲間に入れてください」

「えっ、いやよ」

「もっと拒絶して!」

「……いいわよ」

「ええ……拒絶は何処に……ああ、でもお姉様と一緒にいられるのよね」


 今度は僕が風村さんから変な視線を向けられた。


「輝明くんが……解説をしたせいで、一人の哀しいモンスターを生み出した」

「えっ、これ、僕のせい? 生徒会にヤバい奴が多いとかじゃなくて」


 水野さんが笑顔の中、風村さんが溜息を。


「そ、それ私も入ってるってこと……?」

「い、いや、そういう訳じゃないけどさ……」

「うう……でもこんな風に育てちゃった私にも責任はあるのよね! 責任取るわよっ! ちゃんと責任取るからっ!」

「ちょ、ちょっと! 生まれるとか、責任とか!」


 数日後、はたまた学校に生徒が子供を産んだというとんでもない噂が広まったのであった。まだ話の根源が僕達だと気付かれていないようだが。話をするクラスメイトの近くを通るのが何だか気まずいのであった。

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