氷溶け心解く

K-enterprise

こころ、とかす

「うがぁぁぁぁぁぁ」


 テーブルを挟んだ対面で、およそ少女が出してよいとは思えない声を上げながら、彼女はこめかみを抑えて悶え苦しんでいる。


「もう止めなよ。すでに君の許容量を上回っているんだから」

「……たかが氷くらい、溶ければ水になるんだから平気よ!」


 彼女は言いながら、まだ半分以上も残っている“ビッグマロンモンブランかき氷”に挑み続ける。


「氷だけじゃないじゃん。これ半分以上が固形物なんだよ? 栗と栗ペーストと生クリームとチョコレート。ほらここなんて高密度のブラウニーが三切れも刺さってる」

 

 甘いモノが少し苦手な僕にとって、これは約一週間分の甘味に相当する。


「わたし、栗も大好きだもん」


 本日の外気温は35℃を越えている。

 外に居れば何もしなくても汗が流れ出るが、冷房の効いた店内で、彼女は別の汗を流しながら、かき氷とは名ばかりのスイーツと戦っている。


「さっきの店では桃、その前の店ではブドウ。最初の店ではスイカ&メロン。いくらなんでも食べ過ぎじゃない?」

「だって! この四つを食べきらないとジンクスが!」

「ジンクス?」

「あ、えと、その……」


 さっきまで青い顔していた彼女は、赤い顔で俯いた。


「夏休みの最終日、無理やり連れ出されて、かき氷にアタックする姿を見せられてきた僕には、それを聞く権利があると思うんだけどな」

「だから、あの違くて……」

「もういい、調べる」


 この手の話は地元のコミュニティサイトに載っているだろうと、僕はスマホを操作する。


「あ、だめ、見るな!」


 対面から手を伸ばす彼女の頭を抑えながら片手で調べる。


「お、あった、えーと? この四つの店のかき氷を食べることで、相手の心を溶かす効果があり……」


 僕は大まかに内容を把握してスマホを閉じた。

 彼女は観念したように、しょんぼりと大人しくなっていた。


 僕はおもむろに、“ビッグマロンモンブランかき氷”の器を引き寄せて、猛然と口の中に放り込む。


「え、ちょっと、わたしが食べないと!」

「誰が食べるかなんて書いてないだろ? とにかくこの四つのかき氷を完食することが条件みたいだよ」


 言いながら食べる。

 めちゃくちゃ甘い! でも完食してやる。

 そして、僕の方から言わなきゃいけない。

 こんなジンクスに頼らなくても、告白は成功するってことを。

 だって、とっくの昔からお前に惚れてるんだから。




―― 了 ――

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