水無月/成瀬

 少女は今日も静かに目を閉じる。

 真っ暗な世界で、確かにあるのは音だけだった。

 自分の息遣いだけが聞こえる中で、少女は一人待っていた。

 ……。

 …………。

 求めている音は、まだ聞こえない。

 自分の意識が深い闇に飲まれそうになるのを、少女は必死に我慢していた。

 不意に、音が聞こえた。

 それは誰かが階段をのぼる音。

 一歩一歩ゆっくりと、規則正しく足音か近づいてくる。

 止まった。

 ちょうど少女の部屋の前で。

 ドアノブが回り、カチャっと、小さくドアが開く音がする。

 それからしばらく無音が響き。

「………………」

 優しい声が聞こえたかと思えば、またカチャとドアが閉まった。

 そのまま足音は遠ざかり、階段をおりて聞こえなくなった。

 少女は安堵して、深い眠りについた。

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水無月/成瀬 @minazuki-naruse

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