隙間話「狂信者と店長の顛末」
セレスティア大聖教。それは、女神セレスティア様を崇め、日々を感謝し、悪魔を滅さんと心身を鍛え、世界の平和を目指す第一線。私はその中でも悪魔討伐隊という誉ある役職の一人だ。……しかし、先日相手した吸血姫はあまりにも強く、勝つ事が出来なかった。それどころか、私を除いた討伐隊員は皆惨たらしく殺されていた。絶対に許すわけにはいかない。今はその事を教会にて報告し、今後の方針を伺う。
「なるほど……相手はやはり只者ではない。本部から特選部隊を呼び、入念な準備をしてかの悪魔達を討伐しましょう。」
「はい、畏まりました。」
「たくさんの同法が死ぬことは非常に悲しい事です。しかし、きっと皆魂はセレスティア様のもとへ向かわれた事でしょう。ならば、我々のすべき事は彼らへの祝福でしょう。きっと今頃、神の遣いとして幸せになっているはずです。」
「はい。繋ぎ伝えるための生者は居なくてはなりません。私がその任を賜ったのも女神セレスティア様からの祝福!そして死んだもの達も、女神セレスティアのもとへゆく事が許された祝福!あぁ、女神セレスティア様!貴方様の祝福に感謝致します!」
カチッ。
「なぁ知ってるかいももちゃん、最近セレスティア大聖教の地方支部が謎の爆発によって全壊したらしいぜ?」
「そうなんだ。異教徒の仕業かな?怖いからやっぱり宗教事は関わる物じゃないね。」
「神様を祝福する祭事にあやかってはしゃぐくらいにはあってもいいけど、渦中には入るもんじゃないわよ。どうせろくでもないんだし。」
セレスティアと会ってから一週間後。どうやらあの催眠をかけていたセレスティア教徒は無事私の思惑通りに教会を爆破させたみたいだ。……勿論催眠をかけられた人にそんな意思は無い。私が大量の火薬入りの瓶と爆発魔法の魔法瓶、火炎魔法の魔法瓶を持たせておいて、特定の言葉が発声されると小さく爆発する呪符を瓶に括りつけていただけだ。催眠はすごく利便性が高いみたいで、結構重くなるはずの荷物が気にならないらしい。催眠のかけ方次第では簡単に人が死ぬ行為も嬉々としてやらせる事が出来るらしい。物騒だなって思った。
「ま、この街にはあまり関係ないし、そんなもんだよな。……よしっ!ここからは俺が一人で運ぶよ。手伝いありがとな!」
「ううん。報酬は前払いだったし気にしないで。」
「新しいワインを作るための果物の採取、あまりやらない事だから楽しかったわ。」
「出来上がったら二人にもやるよ。たしか、もう二人共二十歳は迎えてたんだったよな?」
「私はそうだけど、ももちゃんはまだね。」
「秋に誕生日を迎えるから、そうしたら二十歳だよ。」
「そうか。熟成させるのに時間がかかるからその頃には誕生日を迎えてるだろうし、特にいい物をやるよ。」
「わぁ、楽しみだなぁ。」
「お酒なんて普段飲まないから、特別感を感じて楽しみね。」
いわゆる酒類は購入に年齢制限がある。二十歳を迎えてない人には基本的に取引を禁止している。だからお店にはお酒が並んでない。欲しいって言う人も結構いるけど、私がまだ二十じゃ無いので並べられない。ただし、購入に制限があるだけで飲むことは禁止されてない。だから大人の人がお酒を購入し、子供に振舞うのがよく見る光景だ。それなら購入制限も撤廃してもいいと思うんだけどなぁ……。
「……さて。そろそろ聞いてもいいわよね?なんでそんな事にウチの商品使ったの。」
「さくらちゃんは寝てたからね。……詳しい話はややこしいし胡散臭いから流石に信じられないと思うよ?」
「……ももちゃんの言う言葉を疑う事は無いけど、ももちゃん自身が胡散臭いと感じるほどの事があったってなると確かに信じきるのは難しいわ。でも、とりあえず話してみてくれない?」
と、さくらちゃんが先週あったことを聞きたがったので話した。やっぱり信じられない様子だった。
「女神セレスティアが自分で女神じゃないって言い出した?別にセレスティア大聖教が滅んでも気にしない?そんな事する人間も大好きぃ?ももちゃんの言う通り、胡散臭すぎて普通の思考ならまず信じられないわね。」
「でしょ?でもそんな事があったから、スザクくんの勇者の情報料を使って破壊することにしたの。私達も標的にされてたから、そうなると叩く必要もあるし。」
「んー……まぁそうね。でも、ももちゃん自身が困惑していたのは信じるし、ももちゃんは嘘をつくのが下手だし、これが嘘なら逆に下手すぎるから本当だとも認識は出来る。でもそうね……スザク達の話も合わせたいわ。いわゆる裏付けってやつね。」
「うーん……私もさくらちゃんの考えは正しいから賛成なんだけど、スザクくんなら今頃かなり遠くの街に行ってるよ?」
「そっか、次の勇者の所へ行ってたわね……。まぁいいわ。それはまた今度改めて聞くとして、ももちゃんの言葉を信じれば良いだけって事だし。」
「さくらちゃん……。」
私達は示し合わすように抱擁をする。
「それはそれとして使ったならちゃんと在庫計上してね。混乱したんだから。」
「……ごめんなさい。」
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