四話「スザクとララ」

 世間はクリスマスに染まっていた。異世界人がもたらした風習のひとつで、その年の終わりの少し前に教会で神に一年の無事を感謝したり、来年も息災でいられることを祈り、家族や大切な人と賑やかに、あるいは静かに過ごし、贈り物の交換や美味しいものを食べて過ごすらしい。中でもさんたくろーす?って人?が子供に人気で、この街ではそれを模した赤い帽子や赤い服装を着る子供をくじで決め、その子供を中心に祭りを行うのが恒例行事になっていた。

「……でもクリスマスってあれよね、割と神聖度高いから私は参加出来ないのよね。」

「さくらちゃん死んでるもんね。下手に色々やって魂が蒸発したら一大事だよ。」

「言い方物騒。」

 ……まぁ私達は立場的にも存在的にもそれに参加するのは不可能に近いわけで。妥協案で装いは合わせつつクリスマスっぽいものは食べ物や嗜好品に絞っている。十字架とか、神聖っぽいものはさくらちゃんに思わぬ被害が及ぶ可能性があるから仕入れていない。

「それにしても異世界人の持ってくる文化はどれも摩訶不思議よねぇ。このクリスマスもそうだけど、バレンタインもよく分からないし、そこにホワイトデーってお返しの日があるのも理解できないわ。」

「それはあれじゃない?渡し損ねた人達に渡す猶予期間みたいな。」

「あーなるほど、そんな感じなのね。それなら納得出来るわ。」

「まぁ私達はお互いに渡しあって終わりだから関係ない日だけどね。」

「それもそうねぇ……。」

いつも通りの他愛ない会話をしながら大分寒くなってる街を歩く。朝は雪が降っていてそれが溶けきっていないため、街道は雪が残ってたり、溶けても水溜まりになっている場所が多い。足を滑らせないようにゆっくり歩く。

「それで、クリスマスの仕入れ準備はしたものの、明日はどうする?定休日だし、かと言って特にすること無いわよね?」

「そうなんだよねぇ……。寒いから冒険者の仕事もあまりしたくないし……。」

 手元がかじかんできたので息を吹きかける。その場しのぎとはいえ、自分の吐く息で手が温まる。

「こういう時に限って死んでてよかったって思うわ。暑さも寒さも感じないんだもの。」

「感じさせることも出来てるはずなんだけど……。」

「私自身がその辺の感覚器官を調整して遮断してるのよ。」

「さくらちゃんを操ってるはずの私よりさくらちゃん自身の方が巧みに操ってるって滅茶苦茶だね。」

 そんなヘンテコな事を笑い合い、家の前に着く。今日は仕入先に話をするため午前で店仕舞いしていた。

「……………あれ、誰かいるわね。」

「ほんとだ。」

 私達は一度お互いを見合わせ、家の前にいる人に声を掛ける。

「あの、今日はもう店じまいしてるんですけど。」

「うぉっ!?……おう、そうみたいだな。アンタが店主?」

「そうですけど。」

「そっか。明日は開いてるか?」

「明日は定休日よ。」

「マジかー……。つまり開くのは明後日か……。」

 声をかけた男の人は項垂れる。もう一人は全身をフードで隠しているけれど、どうやら女の人だ。

「……どうする?さくらちゃん?」

「ももちゃんが店長なんだから、ももちゃんが決めればいいわよ。」

「うーん……。冒険者さんですよね?この街で見かけたことないけど。」

「あぁ、昼頃にここに着いたんだ。」

 男の人はにこやかに、だけど内心ごねる気満々みたいな目でそう言う。……面倒臭い相手の予感がビンビンする。でも今さっさと相手した方がむしろ楽なのかも……。

「……わかりました、特別ですよ?」

 そう言って鍵を開ける。この人たちの相手だけするのでお店の看板はひっくり返さない。

「それで、何をお探しなんですか?」

「強いて言うなら、あんた自身を探してた。」

 …………………………………?

「はい?」

「噂やら何やらを聞いてここまで来たんだ。魔王軍四天王が街で店開いてるってな。」

 確かに自発的に言わないだけでそこは隠していない。だけど、まさかこの街の外まで噂が拡がっているとは。でもそれだけじゃない。魔王軍四天王としての私を探してるってことは……。

「あなた、勇者?」

「元を付けさせてくれ。俺はあんなクソッタレ共と一緒の扱いを受けたくない。」

 なんだかヘンテコな事を言ってる。でも勇者の呼称を侮蔑の意味でとらえてる人は珍しいと思った。

「あと、これも言っておかねぇと否応無く殺されそうだから先に言っておく。魔王軍と事を構える気は一切無い。世界の命運なんて殊勝なやつが頑張りゃいいんだよ。」

 初めから殺気は感じないからそのつもりはあまり無かったけど、わざわざ口にして手ぶらである事を表現しているから心配する必要はほぼ無さそうだ。

「……それで?魔王軍四天王としての私を探してたって、一体なんの目的があるの?」

「二ヶ月前に現れた全勇者の所在地が知りたい。」

「がめつい。」

 教える教えない以前に要求がとんでもなさすぎる。

「そこについては後で説明するから今はそのブーイングは受け入れるとして、とりあえずこの街に須藤祐介がいたと思うんだが、そいつを知らないか?」

「誰?」

 知らない人の名前をいきなり言われて困惑する。……そもそも人間の名前なんてほぼみんな覚えてないけど。

「私も知らないわね……なにか特徴はあるかしら?」

「そいつは勇者だよ。」

「勇者………………うーん、勇者だとわかった所で結局名前は把握してないからやっぱり誰かわかんないかな……。」

「マジかー。ギルドに行ったらここを紹介されたから、あんたら何か関わってると思ったんだが。」

「ここを紹介されたの?」

「おう。」

「………ももちゃん、もしかして先月のあの勇者じゃない?」

「先月……あっ、あの殺した勇者かな?」

 殺したって言葉に特に動じない元勇者は頷く。

「多分それだな。だからあのお姉さんはここを紹介したのか。当事者だから詳しいってことで。」

「と言われても、名前すらろくに覚えてない私達が何に詳しいって言うのかしらね?」

「まぁ別に詳しくなくていいさ。そして殺したんなら礼を言わないとな。」

「なんで……?」

 本当に意味がわからない。なんで勇者を殺すと元勇者がお礼を言うの……?

「実はそいつも含め、二ヶ月前にまとめてこの世界に転生してきたんだよ。そして、須藤祐介は何故か別所に転生したらしいが他のメンツは王都に召喚?みたいな事をされた。んで、俺はその全員に殺されかけたからその復讐に興じる事にしたんだよ。」

「複数人の一斉の転生……まさか、バースって悪魔に会ったの?」

「バース?………あぁバスか。悪魔じゃねぇよ。この世界だとそうだな……タンデムっつったっけ?いやそんな言葉もなかったな……確か……そうだ、合同乗合馬車。あれが更に大きくなって完全に自動機関で動く車だよ。」

 元勇者の一言になんだかガッカリしている自分に気付く。乗り物なんだ……。

「まぁ俺の場合はあれだな、二十人近くが俺を囲んで、その中の一人がボコボコにして来て、更に俺にガソリンぶちまけたんだよ。まぁアホだからその直後に火をつけやがって全員爆死したんだけどな。」

 ガソリン……聞いた事がある。ものすっごく燃えやすいガスだ。あまりに扱いが難しいって聞いた事があるけど、異世界だと普通に持ち歩くくらい安全が保たれてるのかな。爆死したって言ってるけど。

「で、そのアホが須藤祐介だ。あいつは特級のアホだからな、アホがアホして恥かく前に殺してやろうって俺なりの慈悲の心でいたんだよ。」

「そこは気にするだけ無駄だったと思うよ。普通に恥ずかしい人だったから。」

 話してる内にだんだん思い出した。女の子を数人連れてだらしない顔をしながら私に声を掛けてきた愚かな人だ。

「殺した後に仲間の女の子たちと話が出来たんだけど、一人を除いて調子に乗らせればちゃんと働くから扱いは容易かったって言ってたよ。」

「手遅れだったか。まぁいいか。」

 分かってたけど慈悲の心とか別に持ってないやこの人。

「それより、こっちからも聞きたいことあるんだけど、良いかしら?」

「ん?おう。」

「隣のその子、私の生き物察知能力がサキュバスだと告げてるのよ。彼女、もしかして最近話題になってた勇者と同行しているサキュバスじゃないかしら?」

 さくらちゃんがそんな質問を投げかけると女の人はフードを脱ぐ。美しい紫の髪が煌めき、同じ女の私でも息を飲むくらい艶かしい身体が現れる。真冬なのに水着にしか見えない過激な衣装。大事な所を必要最低限だけ隠してるようなそのくらい布面積の少ない格好。悪魔特有の羽が背中からお腹にかけて巻いていなければ、とんでもない変態趣味の女の人にしか見えない。

「…………えっと、そういう趣味?」

「ちげーしのっけから話の腰を折るなよ。」

「くすっ……こほん、初めまして、もも様。私、こちらのスザク様の従僕であるサキュバス、ララと申します。」

 サキュバス……ララさんは深々とお辞儀をする。

「あの、寒くないんですか?」

 私の初めて見た瞬間からずっと思ってることを質問する。気になり過ぎてこの後まともに話が出来る気がしないから先に聞くことにした。

「…………とてつもなく寒いですよ?でも今服を持ってないので。」

 ララさんは穏やかに、だけどよく見たら足を擦り合わせてたし腕も胸の下辺りで組んでてあからさまに寒そうにしてた。

「………ここに来た要件のひとつでさ、サキュバスに着せられる暖かい服ってねぇかな?今手持ちは少ないけど、せめてそれくらいは買ってやりてぇんだ。」

 スザクくん?はバツの悪そうな顔で頼み込む。さくらちゃんは少し脱力したような、もしくは呆れたような顔で奥へ行く。サーキュラさんがたまにお買い物に来るので、そういった服も実は用意してあるのだ。


 それからお互いの事を知るための会話が続いた。ララさんはやっぱり噂のサキュバス本人で、昔の戦争で一人の勇者に惹かれ、その人を介抱するために戦線離脱、そのまま一緒に暮らしてたらしい。だけどその勇者も既に亡くなっていて、ララさんはそれからもひっそり生きるためにその勇者と暮らしていた街でわざと奴隷商人に身売りして娼婦として暮らしていたらしい。そこに先月スザクくんが現れて、ララさんも新しい生き方を選ぶ為に彼について行くことにした……という経緯のようだ。

「なので今の私は魔王軍として生きることは出来ません。申し訳ありません。」

「気にしなくていいよ。」

「それにしても種族を超えた愛!美談で終わるのは少ないけど素敵ね!」

 さくらちゃんは色恋の話は結構好きな方だから聞き入ってた。特に禁断の恋とか大好物だって言ってたっけ。勇者と魔王軍、人間とサキュバスの恋。確かに禁断だと思うし、だからこそ魅力を感じるのかもしれない。

「それでそれで!?スザクについて行くって決めた理由は何!?もしかして、その亡くなった勇者と似てたとか!?」

「さくらちゃん興奮しすぎだよ……。」

「うーん……ついて行くって決めた理由は……ご主人様、この旅の目的は復讐と言い続けてますが、その先の目的は過去との決別、この世界の住人の一人として生きる為だと思ったんです。私が娼婦として生活してる時にご主人様と出会い、何か似てる気がする……そんな気がしたんです。お互い過去を越えて、未来に新しい生き方を模索するもの同士として、ついて行きたいと思ったんです。」

「まぁなぜか知らんけど奴隷に自らなったらしくてな、俺がその街でかなり暴れてると噂のあったグリズリーを何とか討伐してその金でララを買ったんだよ。」

「本当はあの奴隷商人も私の意思次第で構わないと言ってくださったので……その勇気や覚悟に感銘を受け、自ら従僕となることを決めたんです。」

「はぁ素敵!恋愛感情では無いものの、お互いがお互いに惹かれあい、共に道を歩む!とてもいいわ!ねっ、ももちゃん!」

「今日のさくらちゃんうざがらみー……。」

 興奮するさくらちゃんを止める術を持たない私はさくらちゃんにもみくちゃにされる。なんだかフワフワしてくる……。

「……………って、さくらちゃん落ち着いて!今思い出したけど今日定例会の日だよ!」

 水晶が光り出したことに気付いて慌ててさくらちゃんを制止させる。あっ、止める術あった。

「うーん……スザクくん、ララさん、あなた達も折角だし参加する?」

「定例会って、誰と話すんだ?」

「他の魔王軍四天王と魔王さん。」

「そんな畏れ多い場に参加させるんですか!?」

「まぁララさんは安否確認も兼ねて出た方がむしろ話早いかなって。」

 二人の決断を待たず私は水晶に呼びかける。

「はい、ももです。」

『む、今日は一番乗りであるな。……その二人は?』

「一人は先月話に出てた勇者に同行するサキュバス本人で、もう一人はその勇者本人だけど勇者を辞めた人です。」

『ややこしいわ、結局勇者なのか勇者でないのかどっちなのだ?』

「勇者じゃない……です。」

 スザクくんが私の代わりに答える。でも魔王さんの威圧感に気圧されて丁寧語になってた。

『ふむ……しかしももよ、どちらにせよ部外者をこの定例会に招くのは良くない。サキュバスの安否報告は有難いが、直ちに退席させよ。』

「ううん、部外者じゃないよ魔王さん。このスザクくん、かなり面白い事をしそうだからこの定例会に参加させるべきだよ。」

『面白い事……か。我の好みの言葉だ。よかろう、ももの言葉なら恐らく良くも悪くも企みがあるのだろう。特別に許可する。』

「だって、良かったね。」

「あぁ……俺に何を話せと?」

 スザクくんが混乱してる間に他の人も集まる。


 スザクくん達の存在をみんな気にするものの、定例会はいつも通りサクサクと進んだ。

『さて、定例会としてはこれで終わりではあるが……ももよ。』

「はい。さっき説明したスザクくんとララさんなんだけど、どうやら二ヶ月前にこの世界に召喚された勇者の情報が欲しいみたいなの。」

『自ら勇者としての地位を蹴ったって言ってたな。けど、スザクなんて名前の勇者は聞いたことないぜ?』

「あぁ、この世界に来てからの偽名なんだ。本当の名前は前の世界の未練と一緒に捨てた。んで、同じく未練であるにもかかわらずこの世界に残っちまった二ヶ月前の勇者達、こいつらを全員殺して俺は晴れてこの世界の住民として生きていくんだ。」

『二ヶ月前の勇者団……確か二十人近くいた気がするな。その内四人ほどは死亡確認済みだし、一人は複数人の勇者で行動してる時に崖から落ちたって話があったから、いるのは十五人くらいか?』

「あいつらそういう話で通してたのか……。崖から落ちたってのは俺の事だな。正確には突き落とされたんだよ。たまたまその崖の下腹部がスライムの住処とかで、クッションになって落下の勢いが落ちてどうにか夜光の森まで生きて降りたんだ。」

『夜光の森か……しかし、あの森は右も左も分からぬ者にはたとえ女神の加護があっても切り抜けるのは難しかったのではないか?』

「あぁ、仮眠をとっても小型の魔物に襲われるし、寝不足や空腹で死にそうになりながら川沿いを歩いて近くの街まで行ったんだよ。正直かなり運が良かった。」

「その後、私が潜伏していた街で私がご主人様に惹かれ、今は行動を共にし、もも様と出会いました。」

『ララ……と名乗ってたわよね?その名前は彼から貰ったのかしら?』

「はい。私がご主人様の前で歌った歌声を気に入ったらしく、そんな歌声を意識してつけて下さりました。」

『そう。表面上の物かと思ってたんだけど、名前をつけてもらったってことは、魂での繋がりを受け入れたのね。』

 人間の魔物使いと呼ばれる人物は魔族に名前を付けることで主従契約を行うらしい。スザクくんはそこまでの意識はしてなさそうだけど、ララさんは少なくともそれを受け入れたみたいだ。

「さて、そろそろ本題に入らせてくれ。俺としてはあんた達と敵対する気は特に無い。ただ、二ヶ月前……だとちょっとややこしいよな。確か青山高校って名乗ってたはずだ、その名乗りの勇者たちの所在情報が欲しい。」

『ふむ、勇者を間引く……とことん勇者とはかけ離れた存在だ。そして、それ故に面白い。』

 魔王さんは機嫌を良くしたみたいで笑い出す。

『良かろう!お前にはその……青山高校?と名乗る勇者群の情報を取得次第渡してやろう!精々この世界を掻き乱すが良い!』

「いやそこまで大それたことは考えてねぇけど……。」

『ももよ、情報提供者としてスザクに情報を渡すことを許可する。こちらが送った情報はスザクがまた顔を見せ次第伝えてゆくが良い。』

「はーい。……ところで、その情報タダで渡すの嫌だからお金とってもいい?」

「……いいけど、いくら取る気だ?」

「まぁ情報の鮮度はやっぱりどんどん落ちるものだから……金貨一枚でいいよ。」

「銅貨換算で一万か……。まぁ勇者の情報って希少性も加味すれば仕方ねぇか。オーケー、それで買っていくよ。」

『ふむ、多少話が長くなってしまったが、これで一通り話は終わったな。最後に、今年一年、各位の励みに感謝を。来年もますます励んでもらうから頼むぞ。』

 魔王さんの締めの言葉で解散の形となる。フレアワームさんは相変わらずすぐに通信を切ってしまった。

「フレアワームさんいつも仕事熱心だね。」

『しかしそれは部下への信頼が薄いようにも見えてしまう。仮にも四天王なのだから、もっとどっしりと構えるべきではあるだろう。』

『旦那はむしろ構えすぎじゃね?勇者側からすればあまりにも堅牢過ぎる難攻不落の砦って言われてるし。』

『ふん、それを突破出来ぬ者が魔王様の前に立とうなど笑止千万。』

「なぁ、他の勇者ってどんな実力者がいるんだ?」

『うん?気になるのか?』

「まぁな。復讐対象も勇者なんだ、どのくらいの力を持ってるか予想できない以上、魔王軍から見た勇者ってのは物凄く今後の参考になる。」

 スザクくんはランスさんやラハンさんに対して興味津々といった感じだ。魔王軍に入ればいいのに。

『そうだな……まぁまぁ強いといえば強いな。』

『うむ、我が部下もそれなりの被害を受けている。』

「……その言い方だと、あんま大したことない?」

『それなりに大した事はあるぜ?ただし、幹部と同等程度、四天王が相手ならまず単騎で挑む勇者には負けねぇな。』

『故に徒党を組んで挑まれるとかなり苦戦する。三年前までは人間一人の力など取るに足らないという認識だった。』

「三年前まで?その時に何かあったのか?」

『四天王の一人が一人の人間に殺されたのだ。』

「マジかよ、そいつバケモンじゃねぇの?」

『くっくっくっ……かもな。ももはどう思う?』

 急に私に話題を振ってくる。このまま放置しても良さそうだったから晩御飯の準備したかったのに……。

「みんな嫌い。」

『くっくっく、すまぬももよ。からかいすぎた。』

『悪かったって、今度店で高い買い物させてもらうから許してくれよ!』

 ランスさんもラハンさんも半分笑いながら謝る。悪意が無いことは分かってるのでため息混じりに許してあげる事にした。

「もー……。三年前に四天王の一人を殺したのは私だよ。切羽詰まってたからその時の勢いでね。」

「その時の勢いで……って、そんな楽に殺せるのかよ。」

 私は水晶の通信を切りながらスザクくんの方を見る。

「殺せるよ。だから私は四天王になれたんだから。」

 私の一言にスザクくんは腑に落ちない、だけど事実があるから納得するしかない、でもやっぱり……みたいな複雑そうな顔をしていた。隣にいるララさんはそんなスザクくんを心配そうに見てる。さくらちゃんは私の方を見て、少しだけ困ったように笑った。

「……また今度、少しずつお話してあげる。今日はもう宿をとった方がいいよ。」

「ん……そうだな。金貨を集める必要もあるし、明日から働き詰めだな。」

「もし仕事が無い時はウチで別の仕事を用意してあげるわ。金貨まではいかないかもしれないけど、ある程度の生活費を賄う程度なら融通効くから。」

「えっ、いいんですか?」

 さくらちゃんの言葉にララさんは確認を取ろうとする。私としてはそこまで大事でも無いことだ。

「うん。元々さくらちゃんは私が起こしている死霊だし、実質生活費が必要なの私だけだから、頑張れば生活は多少余裕があるんだよね。仕事が無い時はこっち手伝ってくれれば多少はお金出してあげる。」

 丁度明後日から忙しくなる。その時に手伝ってくれるならこちらとしても助かるのだ。

「まぁ何にしても暫くはこの街が拠点になるだろうし、あんた達には度々世話になると思う。よろしく頼む。」

 スザクくんはそう言って右手を出す。私はその右手の意味がよく分からなかったのでとりあえず笑って誤魔化した。


 スザクくんとララさんがお店から出ていってすぐ。何とか支えていた身体を支える力が一気に抜け落ち崩れてしまう。

「ももちゃん!?」

「はぁ……はぁ…………。ララさん、多分無意識に周囲の人を催淫してる……。なんか凄くフワフワして…………。」

 さくらちゃんに抱きとめられて……、その匂いに包まれる…………。身体が熱い………なんだかゾワゾワする…………。

「………ももちゃん?もしかして風邪ひいてない?」

「ふえっ…………ぷしっ!?」

 さくらちゃんに指摘された途端くしゃみが出る。そして鼻水が垂れてきて悪寒が走る。そう言えばさっきから興奮じゃなくて気だるさみたいなのが強いような……。

「ほら、なーんか顔赤いなーとは思ってたけどやっぱり風邪じゃない。今日はもう寝て、明日もしっかり寝て早く治しましょ?」

「うぅ……風邪って意識したら急激に気持ち悪い…………。」

「ほら、早くベッドで横になって。暖かいスープとか作って持ってくから。」

「うん……………。」

 どんどん調子が悪くなってきたからさくらちゃんに全て任せて寝る事にする。……今度ララさんに会ったら心の中で謝ろう。

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