第2話:少しずつダイエットを始めていく
セバスによるスパルタ式ダイエットが始まってから三週間が経過した。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
「コラッ! もっと全速力で走りなさい! そんなノロノロとした動きではモンスターに襲われた時に逃げ切れませんよ! 死にたくなければ全力で走りなさい!」
「は、はい! はぁ、はぁ……!」
……
「せいっ、せいっ、せいっ……」
「何ですかその腑抜けたパンチは! そんなへっぴり腰で殴ってもモンスターにはダメージなんて入りませんよ! もっと全身の力を込めて全力で殴りなさい! その大木を殴り倒しきるまで終わりませんからね!」
「は、はいっ! せいっ、せいっ、せいっ……!」
……
「ぐぎ、ぐぎぎぎっ……」
「何を辛い声を出してるんですか! 滝行は精神統一の修行なんですよ! それなのにこんな小さい滝に打たれて心が揺さぶられてるようじゃ全然駄目です! もっと真剣に集中して滝行に臨みなさい!」
「は、はい、わかりまし……って、いや、滝に打たれてダイエットになるのか……?」
「コラッ! 私語を慎みなさい! 罰としてあと30分追加です!!」
「ぐ、ぐぇっ!? そ、そんなぁ……!!」
……
「45、46、47……ぐ、ぐぐっ……!」
「何で疲れた表情をしてるんですか! まだ腕立てを50回もやってないのにバテるなんて早すぎです! 強靱な肉体を手に入れなければモンスターには勝てませんよ! だからもっと全力を出して早く腕立て伏せをしていきなさい!」
「は、はい、わかりました! 48、49、50……!」
……
……
「はぁ、はぁ……」
「よく頑張りましたね。それでは本日の修行はこれで終わりです。お疲れさまでした、坊ちゃま」
「はぁ、はぁ……わ、わかりました……あ、ありがとうございまし……た……」
―― バタンッ……
こうして今日のスパルタ鬼トレーニングもこれにて無事に終了した。いや全然無事ではないんだけど。
まぁでも今日のトレーニングが終わった事で、俺は屋敷の庭先にバタっと倒れ込みながらゆっくりと呼吸を整えていった。
そしてそんな俺の様子を見ながらセバスは嬉しそうに微笑みながらこう言ってきた。
「ふふ、坊ちゃまはだいぶ修行に付いてこられるようになりましたな。これは近い将来には立派な冒険者になる事間違いなしですな!」
「はぁ、はぁ……い、いやっ……俺は冒険者になりたくてトレーニングしてる訳じゃないんだよ……! 俺はただ痩せたいだけだったのに……セ、セバスのトレーニングはあまりにも地獄すぎるって……!!」
「おや、そんな弱音を吐いてどうしたのですか? 確か私の冒険者式スパルタトレーニングによるダイエットでも良いと承諾したのは坊ちゃまですよ? それなら悪態など付かずに素直にトレーニングを受けなきゃ駄目じゃないですかね? それに男に二言は無いと言ったのも坊ちゃまですからね?」
「う、うぐっ……わ、わかってるよ……く、くそぅ……」
だってこんなにも恐ろしいトレーニングを強いられるだなんて思っても無かったんだよ。くそ、こんな恐ろしい毎日を過ごす事になるんだったらセバスに頼むんじゃなかった……。
「まぁでもこれだけスパルタ式トレーニングに付いてこられるのは本当に立派ですよ。という事で今日のトレーニングはこれにて終了です。今日は一日ゆっくりと休んでくださいね」
「はぁ、はぁ……わかったよ。それじゃあ……自分の部屋で休む事にするよ……」
「はい、わかりました。それでは私も自分の業務に戻りますので、一旦これにて失礼いたします」
「あぁ、わかった……」
セバスはペコリと頭を下げてから一足先に庭先から離れていった。なので俺は一人で屋敷の方に戻っていった。早く自分の部屋に戻ってしっかりと休もう……。
「はぁ……それにしてもセバスによるトレーニングは毎日スパルタ過ぎだよ……って、あれ?」
「え? あ……」
屋敷の廊下をトボトボと歩いていると、俺と同年代の女の子を見つけた。綺麗なドレスを着用しているとても可愛らしい女の子だった。その子はまさしく俺の……。
「や、やぁ、エレノア。元気かい」
「……」
という事で俺はその綺麗なドレスを着用している可愛らしい子であるエレノアに声をかけていった。
エレノアの見た目は真っ白な素肌に華奢な身体。そして切れ長な瞳と黒髪ロングの姫カットが特徴的な可愛らしい女の子だ。
そしてこのエレノアは俺の義理の妹なんだ。年齢は同じだけど俺の方が生まれが早いので、一応兄貴は俺という事になっている。
今更だけど我が家の家族構成は『父親、義母、俺、義妹』の四人家族だ。元々は正妻として俺の母親がいたらしいんだけど、俺が物心付く前に病気で他界してしまったらしい。
だからその当時側室だった義母が父親と再婚して今の家族になったらしい。まぁそこら辺の再婚話は俺の物心付く前の話だから全然覚えてない。
でも義母は血の繋がってない俺にいつも優しく接してくれたんだ。義母は本当にとても優しい母親だった。だから俺は義母に対して凄く感謝をしている。
まぁでも俺がクソガキだったせいで義母にもかなり迷惑をかけてしまったと思うけどな……。
という事で話を戻して、今目の前にいるこの子は俺の義妹であるエレノアだ。俺は兄貴として義妹に優しく声をかけていってみたんだけど……。
「……(プイッ)」
―― スタスタッ……
エレノアは俺を完全に無視してスタスタと歩いて行こうとした。まさか完全無視をされるとは思わなかったので俺は全力で呼び止めた。
「えっ? あ、ちょ、ちょっと待ってくれよ、エレノア! 流石に無視は悲しいんだけど!? せ、せっかく会ったんだからちょっとくらい話そうぜ?」
「……何故ですか?」
「……えっ? な、何故って?」
「何故、私が兄さまと話をしなければならないのでしょうか?」
「い、いや、それは……だって俺達は兄妹なんだぜ? だから会ったら兄妹仲良く話をしようとするのは普通の事じゃないか?」
「申し訳ありませんが、私は兄さまの事を家族だなんて一切思っておりませんので」
「えっ!? な、なんでだよ? お、俺達は家族じゃないか。それなのにどうしてそんな悲しい事を言うんだよ?」
「ふん。何が悲しいですか。白々しいですね。兄さまはお母様やお父様に毎日のように迷惑をかけていますし、使用人の皆様にも迷惑を沢山かけています。街の人達にも散々と悪態を付いているという話も沢山伺っております。こんなにも人様に迷惑ばかりかけるどうしようもない人間を私は家族だなんて認めませんので」
「う、うぐっ! いや、でもさ……最近は何も悪いことなんてしてないだろ? 俺は今までの事を反省して真面目になろうと心を入れ替えたんだよ。セバスと毎日一緒に身体を鍛えるトレーニングをしてるのも、今までの反省も込めて自堕落な生活で得てしまった太った身体を元に戻そうと思って必死に頑張ってる所なんだ。だから頼むよエレノア。どうか俺の頑張りを後もう少しだけ見守っていてくれないか?」
「兄さまを信じるつもりなんて一切ありません。セバスとのトレーニングとやらも本気でやってるのか甚だ疑問です。私は兄さまのやってる事が全て嘘にしか見えませんので。それで? 話は以上ですか? 私、これから稽古がありますので。それでは失礼します」
「えっ? あ、ちょ、ちょっと!」
―― スタスタッ……
そう言ってエレノアは不快なモノを見るような目をしながら自分の部屋に戻って行ってしまった。
俺は使用人や街の人達だけじゃなく、まさかの身内の義妹にまで嫌われてるなんてな……はぁ、まぁでもしょうがない事だよな。それだけ俺は今までどうしようもないクソガキだったんだからさ……。
(でもエレノアと仲違いをしたままの状況はかなりマズイよな……)
だってエレノアってさ……ルミナス・ファンタジアに登場する最凶の裏ボスなんだもん……。
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