最低な悪役貴族に転生しちゃったけど、破滅エンドだけは嫌だから全力で改心していったら義妹からの愛がどんどんと重くなっていってしまった……

榊原イオリ

第一章:悪役貴族に転生しちゃった編(10歳)

第1話:悪役に転生しちゃってるんだけど……

 俺は十歳の頃、前世の記憶を思い出した。そしてここが“ルミナス・ファンタジア”の世界だという事に気が付いた。


「やべぇ……ここってルミナス・ファンタジアの世界じゃん……」


 ルミナス・ファンタジアとは日本で販売された有名なシュミレーションRPGゲームだ。


 本編は主人公である心優しき王子が世界中を旅しながら仲間を沢山作っていき、その仲間たちと一緒に世界を滅ぼす邪悪な龍を倒しに行くという王道なファンタジーゲームだ。


 ゲームとしてはシナリオが面白いし、やり込み要素も多いから戦闘も凄く面白いんだけど、特に俺が面白いと感じたのはヒロイン達との交流パートだった。


 このゲームは恋愛シュミレーション要素も強くて、ヒロイン達と交流をして好感度を上げる“恋愛システム”が搭載されている。その好感度をある程度上げていくとそのヒロインとカップルになる事が出来るんだ。


 そしてラスボスの邪龍を倒してエンディングを迎えるとそのヒロインとの結婚エンドも見られるんだ。俺は各ヒロインの結婚CGをコンプリートするために何度も周回したっけ。


 まぁそんな訳で純粋にシナリオゲーとして楽しむも良し、育成を頑張って戦闘場面を楽しむも良し、ヒロインの好感度を上げてイチャイチャしまくっても良しと言った感じで、どんなプレイでも凄く楽しめるゲームだったので、世界中で爆発的に売れたゲームだった。もちろん俺も発売日に買って毎日のように遊んでた。


 だから本来ならばそんな大好きなゲームの世界に転生したんだから凄く喜ぶべき場面なんだけど、でも俺はこのゲームの世界にやってきた事を深く絶望をしていた。


 何故ならば……。


「はぁ……なんで俺、モブ悪役に転生してんだよ……」


 俺は頭を抱えながらそう呟いた。俺はルミナス・ファンタジアの序盤に登場するモブ敵役のアレン・クロフォールになっていたんだ。


 このアレンという男がゲームで登場するのは20歳だ。この男は辺境の領地を統治する悪い貴族の男として登場する。チョビ髭を生やしたゲス顔でブクブクと太っている悪い見た目をした典型的な悪役貴族だった。


 そしてそんな見た目通りこの男は悪逆の限りを尽くしていた。領地に住む民達を圧政で思いっきり苦しめたり、領地で見つけた綺麗な女を攫っては無理矢理夜の相手をさせていったり、盗賊とつるんで違法な奴隷売買をしていったり、違法薬物を密売して大金を稼いだりとか色々とヤベェ事をしてるヤツだった。


 そしてそんなヤベェ事を毎日しながら私腹を思いっきり肥やしていたら、偶然にも旅に訪れてた主人公の王子にそれらの悪事がバレてしまう事になってしまうんだ。


 だからアレンは王子を口封じするために全力で襲い掛かるんだけど、まぁ主人公たちに勝てる訳もなくあっさりと敗北する。


 そして主人公たちに敗北したアレンは王国軍に捕らえられてしまい、そのまま酷い拷問の末に処刑されてしまう……というのがゲーム本編のシナリオだ。


「くっそぉ……何で俺が悪役に転生しなきゃなんねぇんだよ……!」


 異世界転生したとしても主人公サイドじゃなくて悪役サイドでは全くもって嬉しくねぇからな……。


 しかも俺は今までのアレンの記憶も何となくだけどザックリと引き継いでいる。


 アレンは色々な人に迷惑をかけたりイジメたりするどうしようもないクソガキだった。頻繁に従者に対して意味もなくクビにするぞと脅してみたり、ムチを振るって体罰をしていた記憶があるからな……。


 あとは一日中お菓子やらジュースやらを爆食いしてたし、運動とかは今まで全くしてなかった。そのおかげで今の俺の体型は丸々と太っている。


 この最低な記憶と丸々と太った体型を見てしまっては……もう俺が悪役になる片鱗が既に出てしまっているとしか思えない。


 それじゃあ俺はあと10年後には完全なる悪役貴族になってしまい、主人公に見つかって拷問の末に処刑される残念なモブ悪役になってしまうじゃないか……いや、でも待てよ?


「ちょっと待てよ? 逆に言えば俺にはまだ10年も猶予があるんだよな? それじゃあまだまだ……俺には更生する余地はあるって事だよな……!」


 俺はすぐにその事に気が付いた。俺がこれから更生して真面目になっていって、一生悪逆非道な事をしなければ俺が処刑される事はないはずだ!


 よし、それなら俺が処刑されないためにも……これから全力で改心していこう!


◇◇◇◇


 という事でそれからすぐに。


「という事でセバス。力を貸して欲しいんだ」

「ふむ。ダイエットですか。まぁもちろん坊ちゃまの頼みとあれば幾らでも手を貸しますが……」


 俺は執事のセバスにダイエットを手伝って欲しいと言ってみた。まずは改心するためにもこの丸々と太った体型から改善していかなきゃ駄目だと思ったからだ。


「ですが、ダイエットを手伝って欲しいのなら、若い使用人にお願いした方が良いのではないですかな? 私のような老人よりも若い使用人の方が最新のダイエットの技術など沢山知ってるでしょうし」

「うぐっ! それが出来ないからセバスに頼んでるんだよ! だって俺……使用人の皆から嫌われてるしさ……」

「おや、坊ちゃまが使用人の皆から嫌われてるのはご存知だったのですか? てっきりそんな事は知らずに傍若無人な対応をしてるのかと思いましたが?」

「う、うぐっ! み、耳が痛いすぎる……」


 今までのアレンの記憶を全部は思い出せないけど、でも悪びれる気持ちなんて一切なく酷い事を沢山してたという記憶は何となく残っている。


 今までの使用人の言う事なんて全然聞かないし、マズイ飯を出した使用人はすぐにクビにしようとしたし、年の近いメイドとかにはイジメたりとかもしてたもん。イジメてた使用人が泣いてるのを見て今までの俺は爆笑とかしてたりもしたしさ……。


 だからセバスが俺に対してそんな風にツッコミを入れるのは当然の話だ。だから俺はちゃんと反省しながらセバスにこう伝えていった。


「今思い返してみると……使用人の皆には本当に悪い事をしたと思ってる。今までの俺は凄く酷い人間だった。反省してるよ。だから皆にはちゃんと謝罪するつもりだ。でもその前にまずはこのぼよんぼよんの体型をどうにかしたいんだ。俺が反省してる態度をしっかりと皆に見せるためにも、まずはこのだらしない太った体型を何とかしたいんだよ。だからセバス……どうか俺に力を貸してくれないか」

「ほう、傍若無人だった坊ちゃまからそんな反省の声が聞こえるなんて……ふふ、この屋敷に仕えて30年は経ちますがこれほどまでに嬉しい事はありませんね。わかりました。それでは坊ちゃまの願いを聞き入れて、このセバス。全力で坊ちゃまのダイエットに付き合いましょう!」

「ほ、本当か! 助かるセバス!」

「えぇ。ですが私は老人ですので、先ほども言ったように最新のダイエットの技術は知りません。私は昔ながらのダイエットしか知りません。それでも良いですか?」

「あぁ、もちろん全然構わないよ。スラっとした体型をずっと維持してるセバスのダイエットなら凄く効き目がありそうだしな。だから是非とも頼むよ!」

「本当ですね? 途中でやっぱり私の教えるダイエットを止めたいと言って逃げる事はしませんね?」

「? そんなの当たり前だろ。一度始めたら絶対に止める訳がない。男には二言なんて無いからな」

「ふふ、わかりました……坊ちゃまの覚悟は十分に受け取りました。それではこのセバス……坊ちゃまのために全力でダイエットの教官役を務めていこうと思います!」

「ありがとうセバス! それで? そのセバスが言う昔ながらのダイエットって一体どんなダイエットなんだ? 昔流行ってた炭水化物抜きダイエットとかそんなヤツか? という事はまずは軽めに食事制限辺りから始めていくのかな?」


 俺はセバスにそう尋ねていくと、セバスは優しい笑みを浮かべながらこんな返事を返してきた。


「ふふ、そんな食事制限なんて生ぬるい事はしませんよ。実は私は元々は冒険者をしていたんです。その時にやっていた冒険者式のスパルタ修行を行えば一発で痩せるはずですよ。もしかしたら何度か天国に逝きかけるかもしれませんけど……でも坊ちゃまの覚悟はしっかりと見ましたからね。よし、それじゃあ今日から私と一緒に冒険者式スパルタ修行を始めて行きましょう!」

「え……は、はいっ!? ぼ、冒険者式スパルタ修行!? な、何だよそれめっちゃ怖いんだけど!? というか絶対にダイエットの名前じゃないじゃんか! い、いや、やっぱり止め――」

「何を言ってるんですか? 一度やると言ったからにはもう拒否権はありませんよ? という事で今日はまずは山籠りからスタートです! ほら、それじゃあすぐに行きますよ! 坊ちゃま!」


―― ガシッ!!


「えっ!? あ、ちょっ!? い、いやだっ! そ、そんなスパルタ式のダイエットは絶対にいやだあああああああああああっ……!!」


 そんな俺の絶叫も虚しく、俺はセバスに首根っこを掴まれてしまい、そのまま強制的に山の奥に連行されていった……。

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