第4話 ひとりぼっちのおしろ

聞きたいことがたくさんある。


それの取捨選択、重要事項だけを

取り出すのに一苦労したが、

僕は彼女に問うてみることにした。


私の持つ手紙の主、彼女の家を閉ざす

日常を切り裂く黄色いテープの意味を、

原因を知りたかった。


「この家で一体何があった?」


「......」


彼女は俯く。体が震えているようで、

先程の尊大な姿勢、大人びた雰囲気は

あっという間に崩れ去ってしまった。


......何となく予想はつく。


おじさまはなんだか気まずそうにしている。

頭をボリボリ掻いてみたり、目のやり場に

困っているのか、そっぽを向いていたり、


なんともわかりやすい男だ。


「......俺はもう行くぞ、仕事できてもたわ」


「え、ちょっと待ってください!」

「住むところもなんにもないんです!」


いきなりおじさまは知らん顔でそそくさと

車に乗りこみ、紙切れをこちらに投げ渡した。


「連絡先や、なんか面白いこと

あったらここに連絡してこいよ」


「ああ、待って!おじさま!」


彼はそのまま逃げるように走り去った。

住む場所もなければ、お金もない。

連絡先を渡されても携帯なんて持ってない......


携帯がなければこの番号はただの数字だ。

数字は言葉じゃない。だからこれは


“沈黙の伝言”


伝言ゲームの最初で終わる伝言。


……そんなの、ふざけてるだろ。


車のテールランプが角を曲がって消えた瞬間、

僕の世界は妙に静かになった。


「......どうしよう」


今、僕が頼れるのはこの幼い少女だけ。

どうしろってんだろうか?

首を括ってしまえとでも言うのか?


「私のとこ来るか?」


レイちゃんが言う。

本当に心底哀れんでいるような声色だった。


驚いた......まさか、同情されているのか?

そんなに僕が惨めに見えたのかな。


「......うん」


「じゃあ付いてこい!」


彼女はケロッと元気を取り戻したようだ。


お子さまは能天気で羨ましい限りだ。

頭ん中も相当晴れ渡ってるんだろう。


───あれ?


見ず知らずの人をそう簡単に連れてくか?

普通そんなことしないだろう?

思わないだろう?


......お父さんお母さんの教育か?


そういうことか?



知らない人に付いていかないことを

教えられるのであって、


知らない人を付いてこさせないことは

教えないのか?



いや、違うだろ。

そういう訳じゃなくて、これに関しては多分、

彼女の善意とかそこらのもんだろう。


とりあえず、縋れるもんには縋っておこう。

縋れる藁はそこら中に生えてはいないので、

この世はなんとも苦しいものだなと思った。


◆ ◇ ◆



「ここが私の家だ!」

「なかなかにふぜーがあるだろう?」


大きな木の門。車二台横に並べるくらいの横幅、

しかしボロボロ、風情というより不安を感じる。

木が劣化して艶もクソもなくなんとも頼りない。


「こっち!こっち!」


レイちゃんはその小さな手を振る。

彼女の言う通り、門をくぐり抜けると

大きめの平屋があった。


門とは違って、こっちの方は新しそうだ。

頼りがいがあり、なんとも綺麗な感じだ。

縁側がえもいえぬ味をだしている。



......しかし、生活感がない。



生活感がないというより、違和感というべきか?

違和感を覚えた。多分、洗濯物だ。


庭の物干し竿には小さな服ばかり、

大人が着るような服は一切ない。

窓辺、外側から見ても人影はなし。

少女以外の声は聞こえない。


「おーい!まだかぁ?遅いぞ!」


彼女は玄関先で待っているようだ。

とんでもないはしゃぎようで、

見ているこっちも大人気なくはしゃぎたくなる。


しかし、


庭はある程度整えられていたが、

玄関の方を見ると靴が小さいものしかない。

靴箱に大人用のものが入っているかもしれない。

が、そんなの不便でしかない。それは不自然だ。


つまり、



......彼女はたった一人で?



私はレイちゃんに誘われるまま、

玄関にお邪魔させてもらった。


「おじゃましまーす」


「邪魔すんなら帰ってぇ!」


......返答はなし。

レイちゃん以外に人はいないと見える。


「無視するなぁ!」


彼女は激怒した。


家族は不在なのか、どうなのか。

聞きたいところではある。


しかし、それを聞いてしまい万が一、

彼女の家族は遠くに行ってしまったとか

ド直球に死んでしまったとか、


そんなものを聞いてしまったからには、

私の五臓六腑が罪悪感で

潰れてしまいかねないので、

私は安牌、聞かない選択肢をとった。



「......もう家族はいない、

最近みんな死んじゃった」



青天の霹靂。


彼女は笑顔だった。


───しかしそれはハリボテ。

彼女は取り繕っている、相当な練度だ。


作り笑いに慣れてしまったのだろう

......なんとも悲しいものだ。


彼女は勇気を振り絞って

口にしたくないであろう現実を、

私に伝えてくれた。


これを一種の信頼と捉えた私は彼女に問う。


「何があった?」


「......事故」


彼女はそう答えた。

私が求めていた手紙の主、

つまり彼女の姉にあたるであろう人物は......


「......お兄ちゃん以外は皆事故で死んじゃった」


「お兄ちゃん?」


お姉ちゃんじゃないのか?

矛盾が生じる。


まず何より、ブロンド少女のレイちゃん。

彼女は坂の上にあるあの家の娘だと言った。

じゃあこの大層立派な平屋はなんだ?


別荘にしては距離が近い、

なにより雰囲気も何もかもが違いすぎる。



風が吹き抜け、物干し竿の小さな服が揺れた。

ああ、大人のいない真実をひけらかすようで──



「さて......君は嘘をついたのか?」

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拳銃と花束 湊 小舟 @ibu12

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