微笑む自分
チャッキー
第1話
毎日同じ時間に会社へ行き、帰りにいつものBARで一杯飲む。それが俺の日常だった。ママが「今日もお疲れさん」と笑いかけてくれる、店内には静かにジャズが流れる。外に出れば街灯のオレンジ色が道を照らし、夜風が肌を撫でる。すべてが、いつも通りの繰り返しだった。
ある夜、ふと思った。「いつものBARの先にあるもう一軒、行ってみよう」。足を踏み入れると、視界が止まった。建物も通りも、すべて平坦な絵だった。手を伸ばすと、冷たく、動かない。絵だ。俺の行動範囲以外は、すべて絵なのだ。
慌てて歩く。街は次々と変わる。交差点、コンビニ、路地。人の声だけが聞こえ、景色は動かない。いつものBARに戻ろうと振り返ると、店も道も、すべて絵。心臓が早鐘を打つ。これまでの日常は、俺だけが生きている舞台だったのか。
足を進めると、光の先にBARの灯りが見える。心の中でツッコミを入れながらも、歩を止めず、表面は変わらない日常に戻ろうとする。
そして振り返ると――俺の後ろに立っていた自分自身が、静かに微笑んで手を振っていた。
だが次の瞬間、驚愕した。俺の前を歩くのも、俺の後ろで微笑むのも、すべて俺だった。街に見えていた人々の声も、ジャズの音も、夜風も、絵の中の俺の想像が生んだ現象にすぎなかった。俺は、自分以外の存在など一つもいない、無限に重なる俺だけの世界に迷い込んでいたのだ。
立ち尽くす俺を、微笑む俺がじっと見つめる。日常と思っていたあの道も、あのBARも、すべて俺が演じる舞台。逃げようとしても、俺は俺の世界から逃れられない。目の前の自分が、もう一度手を振る。淡々と、日常の顔をした悪夢。俺は言葉を失い、ただ歩くしかなかった。これが、俺の世界なのだ。
微笑む自分 チャッキー @shotannnn
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