【完結】ぞうき移植

まこわり

ぞうき移植

 臓器移植。心臓、肺、肝臓など現在の日本では移植が行われることがある。




 ある時、無差別殺人事件が起こった。


 取り調べを担当した刑事Kは、この男性容疑者の身辺を調べたが、品行方正、温和で、持病はあるが生活苦があったわけでもなく、むしろ幸せな家庭を持っていた。とてもこんな事件を起こすような人物とは思えなかった。


 取り調べにも容疑者は素直に応じた。

「なぜ自分がこんな事件を起こしたのかがわからない。突然、心臓から命令を受けたような気がして、気づいたら犯罪を犯してしまっていたんです」




 同様にまた別の無差別傷害事件が起こった。

 その事件を担当した刑事Ⅰから、刑事Kに情報提供があった。

 女性容疑者はこう答えたそうだ。

「なぜ私がこんな事件を起こしたのかがわからない。突然、肝臓のあたりから命令を受けたような気がして、気づいたら犯罪を犯してしまっていた」


 刑事Kたちは必死に事件を調べ、ついにこの無差別殺人犯の共通点が一つだけわかった。二人ともある男Aから臓器の提供を受けていたということだった。


 通常臓器には元々の持ち主の「記憶」は引き継がれないはずだが、ごくまれに臓器移植を受けた人に記憶が引き継がれる事例があるらしいとテレビか何かで観たことを刑事Kは思い出した。オカルト的な発想だが、この説を信じてみた。


 この男Aから腎臓の提供を受けていた男性を発見し、監視したところ無差別殺人を犯そうとする手前で取り押さえることができた。

 殺人未遂の現行犯で逮捕された男は取り調べで答えた。

「なぜ僕がこんな事件を起こそうとしたのかがわからない。突然、腎臓のあたりから命令を受けたような気がして、気づいたら取り押さえられていました」


 ドナーとなった男Aは世間に対して大きな憎しみを持っていたらしく、その彼から臓器提供を受けた者は、彼が起こそうと考えていた事件を発作的に起こしてしまうという結論に至った。




 刑事Kは、この男が提供した臓器の残り、すい臓、右の腎臓の計2件もつきとめ、いずれの提供先の人物もなんとか特定した。まだ事件を起こしていない者には、新たなドナーを探し、それまでは本人の身の安全を考えた上で警察が監視することで、落ち着いた。


 事件は解決した。刑事Kはそう思っていた。心なしか、世の中物騒な事件が多くなっている気はするが、少なくともこの男Aとは無関係事案と考えていた。


 しかし、今日、後輩刑事が新たな報告をした。


「男Aは生前、献血を頻繁に行っており、300回表彰を受けていることが発覚しました」




 憎気ぞうきの移植は終わっていない。

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