ママのノート
久しぶりに家に帰り、押し入れを片付けていたら、古いコクヨのノートが三冊も出てきた。
覚えている。
ママが、料理番組を見ながら、レシピを書いていたあのノートだ。
ページをめくっていくと、見慣れた詩が書いてあった。
子供の頃、私が読み聞かせをせがんだ絵本の文章で、ママのまるっこい文字が綴られていた。
「お月さまのうさぎさんは、おもちをぺったん、ぺったん」
ママ、どうして、ここに書いたの?
その日は、十五夜だったのかしら。
懐かしくなって、指先でその文字をなぞった。
「おもちをぺったん、ぺったん」
別のページには、運動会のお弁当のことと、私が徒競走ではじめて一等賞をとったことが書かれていた。
「咲ちゃんが一等になって、今まで見せたことのないほどうれしそうに笑っていたのが、とてもうれしかった」
あの時のこと、私も、よく覚えているよ。
ママがすごくうれしそうな顔だったから、笑ったんだよ、わたし。
そして、空白が続いた最後のページ。
「咲ちゃん、生まれてきてくれて、ありがとう。あなたに会えて、幸せでした」
ママの字は震えているように見える。もう書く力もなかった時だね。
私はノートを強く胸に抱きしめた。
もう会えなくても、私の心の中に、いつもママがいる。
ママ、産んでくれて、ありがとう。
私のママでいてくれて、うれしかったです。幸せでした。
了
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