第37話 超小型戦闘機の威力

「ウェンディ殿、アラン殿、お久しぶりです。いつぞやの砦攻略以来ですな。ご挨拶が遅くなって申し訳ありません」

「とんでもありませんわ、アーネスト侯爵。こちらこそご挨拶が遅れて申し訳ありませんでした。この遺跡の権利を取り戻してくださってありがとうございます」


「いえ、それはウェンディ殿が、陛下に詳細な報告書を送られていたからこそできたことです。小悪党の悪事を防ぐことができて幸いでした。これから本格的に調査に入りたいのですが、ご協力願えますかな」

「もちろんです。遺跡の中にあるアーティファクトについては、アランが詳しいのでご相談ください」

「恐れ入ります。アラン殿、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします。ウェンディが陛下に報告書を送っていたとは知りませんでしたよ」


「それはね、王国軍が下に降りるまでに半日もかかったからよ。時間を持て余したから、その間に報告書を作ってフラムに届けさせたの」

「いやはや、ブルードラゴンが王宮に舞い降りてきた時には肝をつぶしましたぞ。まさか勇者殿の協力者だとは思いもよりませんでしたからな。フラム殿から念話で事情を説明され、前足のテイム紋を見せられてようやく安心できた次第です」

「驚かせてしまい、大変申し訳ありませんでした」

「お気になさらず。なかなか楽しい経験でもありましたからね。ではアラン殿、さっそくアーティファクトについてご説明願えますかな」


「現時点で分かっている事は、残念ながらわずなものです。しかし、ここを作った古代人の感覚のようなものはつかめていますので、一緒に解明していきましょう」

「おお‼ そんな事がお分かりになるのですかな⁉」

 騎士団長の後ろに立っていた老人が、ひょいと顔をのぞかせた。

「ご紹介が遅れましたな。こちらは王立アカデミーの考古学教授、パーカー博士です」


「パーカーですじゃ。これからお世話になるので、よろしくお願いしますじゃ。アラン殿は、床に散在しているアーティファクトについて、何かお分かりになっているのですかな」

「はい。そこにある丸っこくて小さいものは空を飛んで戦う機械です。これを戦闘機と呼ぶことにしましょう。操縦方法と機体の設定についても少し分かってきています」

「それは素晴らしいことですじゃ。是非とも教えて頂きたい」


「勇者殿は、この機体に乗った魔族と交戦されたのでしたな?」

 騎士団長はウェンディに問いかけた。

「はい。報告した通り、敵はこの機体を使って体当たり攻撃を仕掛けてきたので、アランのマイクロファイアーボムで撃退しました」

「なんと、ファイアーボムを受けても、このように無事なのですかな⁉」

 教授は目を見開き、なめるように戦闘機を見回し始めた。


「信じられないほど頑丈にできていますよ。僕が撃ったマイクロファイアーボムの火力で、操縦していた魔族は怪我や火傷で死にかけましたが、機体にはご覧のように傷ひとつついていません」

「恐ろしく堅牢な物体じゃな」

「堅牢なだけではありません。実はこの機体は球形シールドが展開できて、設定次第では怪我も火傷も防ぐことができます。魔族はそれを知らなかったようですがね」

「なるほど、この戦闘機を軍事的に活用できれば、魔族討伐に役立ちそうですな」

 騎士団長は驚きの表情で戦闘機を見つめている。


「シールドの設定はどのようにするのですかな。この老人に見せてくだされ」

 教授に請われるまま、戦闘機のコクピットに潜り込んでパネルを立ち上げる。

 のぞき込む教授に、絵柄を直感的に読み取ることを教えて、シールド設定のやり方を説明してみせると、目を丸くして食い入るようにパネルを見つめていた。

「信じられんことじゃ。こんなに詳細に古代文字を読み解く御仁に出会うのは初めてじゃ。良ければ実際に展開してみせてくれるかの」


「承知しました。球形シールドを展開しますから、五メートルほど離れてください」

 みんなが離れたのを見計らって、球形シールドを展開してみせる。

「素晴らしいシールドじゃ。しかし、魔法で展開しているのではなさそうじゃな」

 教授はシールドの球面に手をかざして、その性質を感じ取っている。

「はい。この戦闘機は魔力ではなく、我々には未知のエネルギーで動いています。シールドも、そのエネルギーを使って展開しているようです」

「そもそもの文明の基盤が異なっておるのじゃな」


「この戦闘機には武器も付属しているのですかな」

 教授が感慨にひたる暇も与えず、騎士団長が話に割り込んできた。

「はい。光線砲というものがあります。まだ未設定ですが、テストしてみましょうか」

 光線砲という名称は、アイコンの絵柄を見て僕が直感的に命名したものだ。テスト射撃をしていないので、どんな光線が射出されるのかまでは突き止められていない。

「是非ともやってくれたまえ!」

「承知しました」


 それではと、光線砲を起動するためにパネルの設定にチャレンジしてみる。

 感覚を信じてアイコンを掘り下げていくと、意外にも簡単に起動できた。

 説明の絵柄を手掛かりに、操縦桿に付属したトリガーボタンを見付けると、半押しして射撃態勢に入る。すると視界の中心に小さな赤丸のポインターが出現した。それは目の動きと連動していて、常に視覚の中心にあり続けている。きっとこのポインターで狙った場所にビームが撃ち込まれるのだろう。


 テストのターゲットは近くの壁にしておくのが良さそうだ。この壁は非常に堅牢な金属でできているので、テスト射撃程度では穴があくことはないはずだ。

 ここはホールの中だから、安全を考慮して最小出力で撃つべきだが、出力調節用のダイヤルとかボタンのような物は見当たらない。


「物理的に調節する仕組みがないのなら、念話に反応するタイプかも」

 試しに壁をにらみながら心の中で、『最小出力』と命じてみると、視界内に出力ゲージが現れて最小値を示した。

「こういう仕組みなのか」


 そのまま壁にポインターを向けてトリガーを押すと、まばゆいビームが機体の先端から射出され、ホールの強固な壁面を深くえぐった。

「うそだろ! 最小出力なのに壁をえぐってるよ」


 驚いたのは僕だけではない。教授は射撃の衝撃音で腰を抜かしそうになっているし、騎士団長はうなりながら壁をにらみつけている。ベルとリリアも唖然として立ち尽くしていたが、ウェンディだけは壁に近寄って、冷静にえぐれ具合を確かめている。  


「これは素晴らしい兵器だ。対魔族戦の切り札になり得ますな。ウェンディ殿、この戦闘機やこれから発掘されるアーティファクトは、是非とも国王陛下にのみお売りください」

「もちろんですわ。他に売る気なんてありません。では、他の箱に何が入っているのか開けて調べてみましょう」

「そうですな。期待しておりますぞ」

「この老人も是非、調査に加えて下され」


 騎士団長も老教授も、焦がれるような視線で床に並ぶ数多の黒箱を見つめている。

 僕たちは箱を開けるためのスイッチを探して、その滑らかな表面をつぶさに調べた。

 ところがいくら調べても、開閉装置のようなものは見当たらない。

 試しに念話で、『開け』と命じてみても何の反応もない。

 しかし、魔族が箱から戦闘機を取り出せていたのだから、何らかの開閉システムがあるのは間違いない。


 それから一時間ほどかけて、騎士たちと一緒にホール内の床や壁を調べて回ったのだが、やはりらちが明かない。

 騎士団長は、箱を開けるにはかなりの時間が必要になると判断して、早々に王都へと引き上げて行った。

 国王陛下からは、勇者パーティーとパーカー教授はこの遺跡を調べ尽くすまでホールから離脱しないようにとの命令があったので、僕たちはここに居残りとなった。


 魔族軍が反撃してこないか心配ではあるが、騎士の半数がここに留まって警備をしてくれることになったので何とかなるだろう。

「楽しいキャンプになりそうですね!」

 ベルは無責任にも浮かれている。

 リリアは冷静に振舞っているが、知的好奇心は人一倍強いから、内心ではこれから発見するはずのアーティファクトに胸を膨らませているに違いない。


「では、このホールの片隅に私達の合宿所を作りましょう」

 ウェンディはそう言うと、アイテムボックスに常備してある素材を使って、あっと言う間に僕たちと博士と騎士たちが快適に過ごせる宿舎を作ってしまった。

 騎士たちに感謝されながら、その日はウェンディの美味しい料理を堪能してゆっくり休むことにした。

こうして僕らの遺跡暮らしが始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る