「トドオカさん」の告白

安藤かもつ

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えーっと……14番の部屋14番の部屋……あっ、トドオカさん!!どうもどうも!!


「おおやっと来よった!!あんまり遅いからもう始めとんで!!」


いやー車がトラブっちゃって……


「そうそう、それさっきLINEでも聞いたけど何があったん?」


大したことじゃないですよ、会社に停めてた車がパンクしちゃって……とりあえずレッカーで近くの車屋に運んでもらったんです。


「パンクて……えらい話やなぁ。原因は?」


タイヤに釘が刺さってたみたいなんです。いつの間にかどっかで踏んでたみたいで……会社終わりにはもうペッシャンコですよ。

本当は車を家に置いてからさっさと来るつもりだったのに……予約ならなんやらでこんな時間に。


「けったいな話やねぇ。慰めにほれ、残りの刺身やるわ。ほい小皿」


あはは……頂きます。

ここのお刺身美味しいですよね。


「海が近いのがええんやろなぁ。個室もあるしオフ会するのにほんまにええ店やで」


あっそういえばさっき受付で生頼んじゃいました。そろそろ来るかもです。


「ワシももう空けとるしええよええよ。折角だしついでにもう一杯頼もかな」


いいですね、じゃんじゃん空けちゃいましょ。


「いやーそれにしても君とオフ会すんのもだいぶ久しぶりやな、何十年ぶりや?」


ちょっと!3ヶ月ぶりですよ、トドオカさん!


「しぃー!あんま大きい声で名前連呼せんでね、他のフォロワーいるかもしれへんからね」


あ、しまった。久々なんでつい……


「頼むでホンマ……Twitterのアホどもがどこにおるか分からへんからな。目ぇギラギラに光らせとるわ」


今はTwitterじゃなくてXですよ。


「ええやないか別にぃ。呼びやすい名前が1番や。俺がTwitterやと思ったらTwitterなんやっ」


ははは……おっ来た来た。ありがとうございますー。おっとと。

あっ、すみませんついでに鳥軟骨と枝豆に生もう1つ、あとアジフライお願いします。はい、取り皿2つで。はぁい。


「あ、ワシも生もう1つ。はいどうもー……えらい食べるねぇ」


んっ、んっ……ぷはぁっ、もうこうなったらやけ食いにやけ飲みです。


「ハーッ!そらええなぁ、じゃんじゃん食いぃ」


そういうトドオカさんこそなにか頼まなくていいんですか?


「せやから名前言うなて。ワシはもうそういう風に油もの食われへん年頃なんですぅー。腹壊して明日嫁さんに手間ァ取らせたくないからな」


いいなぁ奥さん。ご夫婦で仲いいですもんね。

私なんか独身で一人暮らしなんで遠慮なく飲み食い出来ちゃいますし。


「せやねぇ……実はな。今日のオフ会、その奥さんも絡んでくる話しよ思てん」


え……なにかあったんですか?


「うーんなにかあったというか……そやな、最初に言ってまうか」



「ワシな、ほんとはトドオカやないんや」



……え?


「せやからな。今君の目の前にいる男は、2019年11月8日からTwitterでジャンプやらの感想を呟くようになり始めたアカウントの中の人とは別人なんや」


え、いやだって……今日もトドオカさんからDMが来てこの居酒屋に来たんですよ……!?

今までだってオフ会何回も開いてたじゃないですか……!!


「そうそう。今はワシが“トドオカ”や」


は、話が見えませんよ。

アカウントでも買ったっていうんですか……?


「うーん、概ねそんなとこやね。買ったんやないんやけど」


成り代わってたってことですか……!?


「……うーん、まだかなぁ。そろそろやと思うんやけど」


えっ……?あ、ああ料理ですか……


「うん、料理。料理来るまでの暇潰しや。ワシの『告白』に付き合ってや」


告白……?


「そ、告白。アイラービューの方やないで?『告げてもうす』告白な」


はぁ……


「どっから話したもんかな……元々ワシは“トドオカ”のフォロワーだったんよ。ややこしいから“先代”って呼ぶわ」


「“先代”とはちょくちょくリプのやり取りとかしてたくらいやったんやけどな……」


「その“先代”にな、ある日襲われたんや。リアルで。ワシの日頃のツイートから居場所特定したみたいやった」


襲われたって……恨まれてたとか、お金目的とか……?


「ちゃうちゃう。よう仲良うしてたし、財布は手ぇ付けられてへんかったでー。ただ……」


ただ?


「襲われて意識失う前、“先代”が言うたんや。『これで俺は○○だ。今度からはお前がトドオカだ』……ってな」


○○って……?


「ワシの元のアカウントの名前。やっこさん、ワシが意識ない内に自分とワシのTwitterのアカウントを交換したんやな」


なんでそんなことを……??

“先代”はわざわざアカウントのために人を襲ったんですか?


「しかもフォロワー数2桁のごく普通のアカウントな。おもろいやろ?」


「で、ここからがおもろいところでな……目覚めた時、


え……っ!?


「そう。ごく普通の成人男性で、ジャンプの好きな漫画がよう打ちきられて、物事をきっちりさせんと気ぃが済まへんあのトドオカが自分なんやと、そう思いこんどった」


……襲われた時に記憶がなくなった、というわけではないんですか?


「ガッハッハッハッ!!そんなんやったらなんぼでも、なんぼでもええもんやったわ!!」


「あれはな……や。トドオカというアカウントに元々の人生が丸ごと乗っ取られたんや」


なにをそんな……そんなことあるわけ……


「人間、大なり小なり仮面はつけて歩くもんやろ?SNSのアカウントなんか本当の自分と差があって当たり前や」


「だけど“トドオカ”のアカウントはそれが顕著やった。フォロワーからやれヤ○ザだの食堂経営してるだの好き勝手言われまくって、それが当たり前の認識になって、ついにFFの外にまで溢れだした」


「その認知の歪みが、イメージが、中の人も歪ませるんや。『あの人はこうに違いない』って認識が“トドオカ”に集まるとアカウントの持ち主であるワシもその通りになるんやな」


そんな馬鹿な話が……


「ワシも人から聞いたらそう思っとったろうなぁ。実際そうとは知らずごく普通に過ごしとったしな」


「だがある時期のことや。覚えとるか、トドノベルコン2024。あれもワシが自分のことをトドオカやと思い込んで開催したんやけどな」


あり、ましたね……私は投稿してませんが。


「あの時からな、ワシの勤め先どうなったと思う?」


や、。あれはさすがに驚いたでぇ……」


「いつも通りの勤め先に出掛けたらヤの付く人の事務所になってて、しかもそこではワシが組長や」


もしかして……『集団の認知が歪んだから』……?


「そや。『トドオカというやつは暴力団の組長らしい』。『表では一般人面してるが裏では苛烈な暴力を振るってる』。


まさかそんな、

人々の認知がトドオカさんに集まることで、現実のトドオカさんにも影響が出る……?

いや、トドオカさんだけじゃない。

その周りの人たちも…………?


「飲み込みええな。そういうとこ好きやで」


「そう。そこまで来てやっと、『そういうこと』になってることに気付いたわ」


「そんでな。ここで枕の話思い出してほしいんやけど」


枕って……まさか。


「そう。“先代”は嫁の話をたまにしとった。なら」





……!!


「絶叫もんやで。そしたらあとはもう止まらん」


「この口調は?出身は?家族はどうや?キッチリしないと収まらない考えは本当にワシのものか?」


「なぁ……


それ、は……


「そこまで考えたらな、やっと思い出したんや。『そや、ワシはトドオカやない。○○や』ってな」


ど、どうしてそこまで続けるんですか……!

Xを辞めればいいのに……!!!


「それもう試した。ノベルコンの後しばらく離れるって言っとったやろ、あん時しれっとアカウント消すつもりやってん」


「『もう終わりや、これで終わりや消えてしまえ』って削除しようとしたらな。目の前が暗くなって気付いたら病院に運ばれとった」


「医者からは原因不明の心臓麻痺や言われた。アカウントは消えてへんかった」


そのタイミングってまさか……


「そう。ワシと“トドオカ”は連動しとる。


…………


「どや、スゴいやろ。Twitter無くなったら死ぬとかツイート廃人やん。あ、ここ笑いどころな」


「……お?どうした?気分悪い?」


分かりません……なんか……頭が回らなく、なって……


「やーっと効いてきよった……量の問題やったんかな。まぁええわ」


効いて……?


「睡眠薬。醤油に混ぜとったんや。ここの居酒屋市販品使ってるからすり替え楽で助かったわ」


醤油……刺身の……


「こっそり車パンクさせんのも苦労したでぇ。先に薬仕込むなら確実に遅く来てもらわなあかんからな」


「“先代”が襲ってきたっていう話な、嘘ではないんやけど少し誤魔化しててん」


「ほんまはな、何回か会ってたんや。『オフ会』で」


「そこで薬盛られた。ワシの時は酒にな」


あ…………


「おっ、ここで気付くのほんま賢いわぁ。いやどっちかっていうと鈍いか」


「そそ。アカウント持ったままだとネットの評判1つでおかしくなる、消したら死ぬ。なら答えは1つや」


。呪いの解き方の鉄板やな。“先代”もこれに気付いたからワシに押し付けたんやろ」


まさか……待っ、て……


「お、スマホあるやん。はーい指紋貰うでー」


「あったあったTwitter。アカウント登録……はあとでええか」


「っと。醤油は店のに戻さんとな」


なんで…………


「だから言うたやろ。これは相談でもお涙頂戴話でもない」


「『お前はこれからこうなる』ってことを『告げてもうして』やったんやないか。感謝してええんやで?」


そんな……


「あ、店員さん!すんません料理運んで貰ったのに……ツレがツブれてもうて、もうお勘定ええですか?」


「ああ大丈夫です、から表に回してもらってるんで」


「はぁい。はいどうもー」


行か、ないで…………


「まーだ起きとるんか。そろそろ寝な辛いでー」


「海沿いの誰も使ってない倉庫な、1個だけ貸してもらってるんや。こういう時は組長様々やな?」


「寝なかったらちょっと乱暴に寝かしつけなアカンくなる。なるべくトモダチにそんなことしたくないんや、ん?」


いや、だ……


「ええ子やからじたばたせんで。ほらおんぶすんでー、よっ……と」


なんでわたしが……


「なんでって……目立たない地味なアカウントなら誰でもよかったんやけど、うーん。決め手は名前かなぁ」


「似とる名前だったから目についたんよ」


「な?『トードーマル』くん」


やめて……トドオカさん……


「せやから連呼すんなって。これから俺はトドオカやないんや。『それ』は俺の名前やない」


「呼びやすい名前が1番や、って言ったろ?」




「───なぁ、?」

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「トドオカさん」の告白 安藤かもつ @Kamotsu

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