知りたくもない他人の命日
晴れ時々雨
第1話
八月が過ぎて半月ほど経つ頃、元来奔放な君がさらに無防備になる。月を待つように、夜な夜な寝床を抜け出しては縁側の窓の前でしどけなく、はだけた寝間着の中の白肌をひらく。僕の分かった熱など覚えていない。沈黙に君の過去がある。つかめやしないものの中に居る君を、触れて形づくる。こうでもしないと消えてしまう、生ける霞。
冷めきらぬ熱を握りしめたまま、彼女の秘め事を覗く。はなから秘める気などないのかもしれないが、僕以外を招くことをせめてそう思っておいて欲しいと、夫ぶりたい願望が顔を出す。
明かりのない夜闇で蠢く彼女の体から仄白い煙が上がっている。「訪れる者」に成り代わった彼女の手、指の
乱れた呼吸、歓喜の昂まりに見て判るほどの動きがあるのに音ひとつない。おそらくは悦に揺らぐ声も漏らす頃だろう。
今夜の客は音を奪うのだ。姿も見せず息づかいもなく現れ、彼女に身を開かせる。毎年毎年、毎年、数日の夜、その場から音を奪う。
そ奴と彼女の長い相互愛撫の果てに、僕も時機を合わせる。どうせこちらの気配だって伝わってはいまい。襖の陰から、そう図々しく開き直って寝巻きの裾を割り、先刻まで彼女に没していたものを剥き出す。しかしあのぬめりには及ばないので己の唾を垂らしてから扱いた。
ついさっき僕が居たのは愛だったというのが勘違いだと思えてくる。むず痒く纒わり付く泥中で溺れ、命からがら藻掻き、その上潰さぬよう心を配した腕の中に、身を任せたかに見えた彼女。しかし今、見せかけの静寂の間に貪り合うあの二つの影の前で、悔しくも気を抜く手が止まらない。自分の女が得体の知れない空気のような異形にまんまと犯される図を描いた絵巻でも鑑賞するようにそれを目の当たりにすると、嫉みの
そうして翌日が晴れるまでが一連の流れだ。いつの間にやら隣りに寝戻った彼女が、昨夜の悪夢を忘れさせるような晴天に一瞬眉を顰める。時は過ぎる。それに彼女はちゃんと肉体を保っている。青空から与えられた今日を彼女と過ごすのは僕だ。珍しい客は長居せぬもの。しかしアイツは本当に彼女に触れることができるのだろうか。僕の覗きに気づいたヤツが、それらしい振りをしているだけではないか、といつもの事後の空想に耽ける。幽霊に対して恨めしいなんてことがあるか。まったく忌々しいったらない。この時期の寝不足にはかなわん。
知りたくもない他人の命日 晴れ時々雨 @rio11ruiagent
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