[ペリカンの最期の食事]【不思議】
ペリカンのぺリオは、ほかのペリカンとは少し違っていた。彼がくわえたものは、どんなものでも食べられてしまうのだ。
魚はもちろん、石ころも、流木も、空き缶も、くちばしに入れればするりと喉を通り、すぐにお腹の奥へと消えていく。
最初は便利な力だと思っていた。仲間たちが魚を取り逃がしても、ぺリオは一口で仕留められる。海に浮かぶゴミもすべて食べてしまえるから、浜辺の人間からは「掃除鳥」などと呼ばれて感謝もされた。
けれど、ぺリオはだんだんと退屈を覚える。
「もっと変わったものが食べたいな」
ある日、港町に迷い込んだとき、ぺリオはパン屋の前にあった焼き立てのクロワッサンを一口で飲み込んだ。
ふんわりとした甘みが体中に広がり、ぺリオは目を輝かせる。魚や石ころでは得られなかった、得も言われぬ幸福感。
それから彼は町を歩きながら、看板、風船、自転車、郵便ポストまで、目につくものを片っ端からくわえては食べた。どれもお腹に収まるたび、不思議な味が広がる。
だが、町の人々は恐れ始めた。「あの鳥は何でも飲み込んでしまう!」
追い払われたぺリオは、空へと逃げる。飛びながら雲をつつけば、綿菓子のような甘さ。雷雲をかじれば、舌の上でぱちぱちと電気がはじけた。
「世界はごちそうでできているんだ」
そう気づいたとき、ぺリオは止まらなくなった。
山を食べ、川を飲み、街を丸ごと腹に入れた。空気も光も星の輝きも、次々と喉を通っていく。
そしてある瞬間、ふと地面をつついた。
その一口で、青く丸い地球がするりとくちばしに収まり、ぺリオはゆっくりと飲み込んでしまった。
静寂が広がる。お腹の中で大陸と海が渦を巻き、生命のざわめきが溶け合う。
満ち足りたぬくもりが、体の芯からあふれ出した。
「……ああ、なんてお腹いっぱいなんだ」
羽ばたく必要もなく、ぺリオの身体はふわりと宇宙を漂う。
満腹の幸福感に身を委ねながら、彼は星々のあいだを、ゆったりと流れていった。
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