[公園ベンチペンギン]【癒し】
会社帰りの夜、公園のベンチにぐったりと腰を落とした。
蛍光灯の白い光がにじみ、目の奥が重たい。会議三本、資料作成、上司の無茶ぶり…今日は心底くたびれていた。
疲れている人だけに見えるという噂のベンチ。
「……まあ、今日は自分だけ見えるのかな」
背もたれに頭をあずけると、隣に「よいしょ」と小さな声。
横を見ると――ペンギン。
黒白のタキシード模様、丸い体、短い翼。まるで当たり前のように隣に座っていた。
「……ペンギンでございますか?」
問いかけると、軽く会釈。
「はい、社会人ペンギンでございます。南極商事で営業を」
妙な話なのに、なぜか安心する響き。
「あなた様も、お疲れですね」
「まあ、上司の無茶ぶりが……」
「わかります。私も昨日、上司のアザラシに資料を踏まれまして」
思わず吹き出す。笑う余裕なんてなかったのに。
ペンギンはポケットからイワシを取り出し、会釈してかじる。
「失礼します、血糖値が下がりまして」
「……魚丸かじり?」
「ええ、あなた様で言うチョコレートに相当いたします」
真面目に説明する姿がおかしくて、重たかった心が少し軽くなる。
「スーツは大変でしょう」
「夏は地獄だ」
「お気の毒さまです。私は年中タキシードでございますので」
やがてペンギンは立ち上がり、降りようとしても足が届かず、もぞもぞ。
「……降りられませんか?」
「たいへん申し訳ございません。お手を」
抱きかかえると、胸を張って言った。
「ご助力まことにありがとうございました。さて、これから午後の営業でございます」
「午後? 今は夜九時だぞ」
「南極時間では午後でございますので」
そう言って、よちよち街の明かりに消えていった。
翌日もベンチは空っぽ。けれど腰を下ろすと「よいしょ」と小さな声がした気がした。
――ペンギンは、疲れた誰かの隣にいるのだろう。
「あなた様、今日もよく頑張っていらっしゃいますね。どうか、ご無理なさらぬよう」
その声に、胸の奥がふっと温まった。
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