　庭の鉢植えにタヌキが生えてくる

　ある朝、庭の鉢植えを眺めていると、小さな芽が顔を出していた。

「おお、やっと出たか」

　水をあげながら、何を植えたんだったっけと首をかしげる。

　次の日。芽はぐんと伸びて、葉のような形をした……耳が二つ。

「ん？」

　まさかと思って近づくと、土から覗いているのはふわふわの毛並みだった。

　三日目には、鉢の中に丸まったタヌキが鎮座していた。葉っぱのような耳は、もう立派にぴこぴこと動いている。

「お、おはよう……？」

　声をかけるとタヌキはにっこり笑い、短い手をぱたぱた振ってきた。

　毎朝水をあげるたび、タヌキは気持ちよさそうに目を細める。まるで日向ぼっこする植物みたいに。

　一週間後。

「そろそろかな……」

　そう思った瞬間、鉢植えがポンっと音を立てて揺れた。

　そして見事な花が咲くように、完全体のタヌキが土から飛び出した。

「さて、働きに行くか」

　人間のように伸びをし、ほっぺをかいて立ち上がる。

　呆然と見送る私の前でタヌキは玄関の方へ。

　ちゃっかりスーツまで着込んでいる。

　翌朝、庭を覗くと、鉢植えにはまた小さな芽が出ていた。

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）

新規登録で充実の読書を

マイページ: 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる; 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める; フォローしたユーザーの活動を追える
通知: 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴: 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい