1分で読める創作小説2025
雨 杜和(あめ とわ)
いつもの朝
いつもの朝
いつもより、ほんの少し早い時刻
目覚めると、窓際で小鳥が首をキョトキョト動かしていた
何て種類の小鳥だろうか、小さくて愛らしい
わたしは軽いあくびを噛み殺してベッドから足を下ろす
そのかすかな動きに空気が震え、バサバサと小鳥は飛び立ってしまう
いつもの朝、いつもの部屋
見慣れた風景に退屈さえも感じない
階下に降りてコーヒーを沸かしながらテレビをつける
この時間なら、ちょうど天気予報の時間だ
『……、今日も暑い日になるでしょう』
アナウンサーは昨日と同じ顔で同じような予報を告げている
コマーシャルに変わって、再び彼女の顔を見るのは判で押したように5分後だ
音量を小さく絞り、黒い丸テーブルに置いてある新聞に目を止める
なにかの事故があって、なにかの事件が起きている
あの人はいまだに新聞を取る
いまでは時代遅れの習慣でさえも、アンティーク家具のように時が積み重なることを願うからだ
変わりばえのしない平凡な日
風が少し強くなった
ほのかに潮のかおりが庭まで流れ、そして
熱に紛れて白いカーテンをゆらす
カーテンの奥、薄暗くなったキッチンで
ボコボコッとサイフォンのコーヒーが泡立つ
海風にコーヒーの香りが重なっていく
白いシャツにジャージーをはいた、あの人が……
裸足のままベランダへ出て
入れ立てのコーヒーを、さも美味しそうに口に含む
シャツが風にふくらむのに、まったく無頓着で
空を見上げ、思い出したように
こちらを振り返る
——おや、そこにいたんだ
おや、そこに
まるで気づいてなかったような言い方
前髪が、シワの寄った額にかかる
白いものが混じった、あまりに見慣れた顔
わたしはカーテンに隠れた部屋から庭のベランダを眺めている
あなたは……
籐で編んだガーデンソファのクッションを叩いている
それが過去と同じなのか確かめているかのようだ
もう忘れた恋心
それでも、そこに、青年だったあの人がいて
幸せそうにコーヒーを飲む
だから、わたしは出会った日と同じように息をのむ
——ねぇ
あの人はなにも答えない
ただ、コーヒーカップをわたしに差し出す
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます