第31話 ラボの仲間たちへの報告とエドガーの神の試練

Scene 1:ラボの報告


午後の実験が一段落した研究室。

白衣の袖をまくったエリックが、深呼吸して言った。


「みんな、少し話があるんだ」


リサが隣で静かに頷く。

同僚たち――同じ博士課程の学生やポスドク、そして教授のロバート・ウィリアムが、一斉に顔を上げた。


「実は……僕たち、結婚することになりました」


一瞬の沈黙。

次の瞬間、

「えっ⁉」「ほんとに⁉」と驚きの声が上がる。



Scene 2:驚きと祝福


「す、すごいじゃない!おめでとう!」

リサの同期のアンナが声を弾ませた。

「まさかこのラボからカップル第1号が出るなんて!」


「いや、第1号どころか、すでに“家族計画”まで進んでるとか?」

と茶化す男子学生。


リサが頬を赤くして言い返す。

「そ、そんな言い方しないで!」

エリックも笑って「まあ、間違ってはいないけどね」と返すと、

どっと笑いが起こった。



Scene 3:教授の言葉


ウィリアム教授はしばらく沈黙していたが、

静かにメガネを外し、笑みを浮かべた。


「君たちがここまでの覚悟を持っているなら、私から言うことは一つだけだ。

研究は人生の全てではない。だが、家族もまた“生きることの研究”だよ。」


「えっ?」とリサが目を丸くする。

教授は優しく言葉を続けた。


「これから先、時間も体力も足りない日が来る。

それでも、お互いを思いやって進みなさい。

もし実験で困ったら、遠慮なく私に相談するといい。」


「ありがとうございます、教授……」

エリックは胸が熱くなった。

教授はいつもの厳しい顔ではなく、

どこか父親のような眼差しをしていた。



Scene 4:仲間たちのエール


「ベビーが生まれたら、データベースの命名規則に従って名前つけなよ!」

「いや、やめて! “Sample_Aurora01”とか嫌だから!」

リサの悲鳴まじりのツッコミに、再び笑い声が上がる。


「でも本当に、二人なら大丈夫だと思うよ」

同僚の青年が言った。

「リサはしっかりしてるし、エリックは…まあ、寝落ちはするけど真面目だし」

「寝落ちは余計だよ!」


即座にエリックはつっこむ。

が、リサはにこやかに、しかし畳み掛けるように続ける。


「確かに、真面目ではあるけど、このラボであなたの寝顔を知らない人はいないと思うわ!」


と、さらに仲間たちを笑わせる。リサがそんな冗談とともに笑顔を見せるのは、普段はあまり見られない事だった。


「リサまで……」


エリックは、照れながらも、リサの笑顔や仲間たちの祝福に、心が踊るようだった。


和やかな空気に包まれる中、

エリックはふと、エドガー……ジョエル神父の事を考えていた。

(司式を依頼するなら、やっぱりエドガーしかいないあの人なら、きっと祝福してくれる。)



Scene 5:カフェでの再会


週末の午後。

街の静かなカフェ。

テラス席で、エドガーがコーヒーを飲んでいた。

相変わらずの金髪とロザリオ。

今は神父としての穏やかな顔だった。


「久しぶりだな、エリック、リサ」

「こんにちは、ジョエル神父」


リサが微笑む。

その横で、エリックはどこか緊張した様子で手を組んでいた。


「実は……お願いがあるんです」

エリックが言った。

「僕たちの結婚式で、司式をお願いしたいんです」


エドガーの手が、わずかに止まった。

(……来たな)



Scene 6:神父様の試練


一瞬の間。

エドガーはゆっくりとカップを置いた。

穏やかな笑みを浮かべて言う。


「そうか。俺に?」

「はい。神父としても、友人としても……あなたに見届けてほしいんです」

リサの目が真剣だった。


(……おいおいおい。

 神よ、これがあの“告解”の二人だぞ?

 オレに司式させるって……試練以外の何物でもねぇ)


内心で叫びながらも、

エドガーは神父の顔で微笑む。


「分かった。引き受けよう」


リサが嬉しそうに息を呑み、

エリックが深く頭を下げた。


「ただし――」

「?」

「式は簡略化する。……神も多分、それを望んでいる」

「えっ?」

「いや、気にするな。神の都合だ」


エドガーの簡略化という言葉に、エリックは違和感を感じつつも、司式を引き受けてくれた事に、エドガーに感謝していた。


(まさか……いや、でも、結婚式を引き受けてくれたんだし……)


「ありがとうございます。よろしくお願いします。」


エリックは頭を下げる。


リサはエリックとエドガーの二人を見て、不思議そうな顔をしながらも、エリックとともに頭を下げた。


「ああ、俺に任せろ!責任を持って、お前たちの式を執り行う。」


エドガーは、司祭モードで真剣に力強く答えた。



Scene 7:静かな笑いと祝福


「ありがとう、ジョエル神父」

リサが頭を下げ、エリックも隣で微笑んだ。


「君たちの未来に、神の祝福があるように」

エドガーは静かに手を掲げ、十字を切る。

(頼む、神よ……式までオレの正気を保たせてくれ……)


コーヒーの香りが風に混じり、

午後の日差しが三人を照らしていた。



エピローグ:神父様、独白す


夜。教会の静寂の中、エドガーは祭壇の前で天を仰いでいた。


「主よ……どうして私はいつも、あいつらの担当になるのでしょうか」

「まさか、リサはともかく、エリックの『懺悔』を聴いた俺が、二人の式を執り行うことになるとは……」

「ええい、これも愛の試練だ。オレは逃げない……」


ロウソクの光が揺れ、

ステンドグラスの中の聖母が微笑んでいるように見えた。


「……神よ。お願いだ、せめて式の途中で“あの話”を思い出させないでくれ。」


エドガー(ジョエル神父)の祈りは、静かに夜へと溶けていった。


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